2023年8月11日金曜日

「選択という扉の向こう側にある世界〜[鏡]と[窓]と[ガラスの引き戸]」(★1)

本はしばしば、子どもたち自身の生活への『鏡』となり、自分たちが誰であるのか、どういう人になろうとしているのか、どういう人になりたいのかについて、学ぶのを助けてくれる」            Rudine Sims Bishop (★1)

 選択と自ら行った選択の振り返りを通して、子どもたちが学び手としての自分に目を向けながら成長できるようにサポートしていく具体例に溢れた本(★2)を、今、読んでいます。6章で登場する選択の一つに、子どもたちが読んだものを目に見える形に表現する際、「その表現方法も子どもたち自身が選択する」というのがあります(108-113ページ)。

 読んだことを、何らかの形にして表現する教室は多いと思います。その助けになるようにと、決まった図やフォーマット、あるいはお題となるような書き出しを与える教師もいると思います。

 しかし、表現する形を教師が決めてしまうことに慣れてしまうと、子どもたちの思考や学びは、教師が選んだ枠内に制限されてしまいます。子どもたちの思考や学びを教師が型にはめてしまうことがないように、表現方法を子どもたちが選択することの大切さが強調されています(108ページ)。

 もちろん、「読んだものを目に見える形に表現すること」自体が目的になって、読む時間が大きく減ってしまうと、本末転倒です。でも、考えたことを目に見える形にすることで、読み手は、読んだ内容だけでなく、学び手としての自分をより深く理解する助けになります(108ページ)。この本では、6ページにわたって、子どもたちの写真、成果物、イラストなどで、いろいろな子どもたちの、それぞれの理解のプロセスとその結果を見ることができます(108-113ページ)。それぞれの学び手の、その時点での学び方とその成果が伺え、教師にとっては、子どもたちをどのようにサポートしていくのかを決める助けにもなります(108ページ)。

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 さて、この本で、ある子どもが書いた成果物の横に「本はしばしば、子どもたち自身の生活への『鏡』となり、自分たちが誰であるのか、どういう人になろうとしているのか、どういう人になりたいのかについて、学ぶのを助けてくれる」という、ビショップ氏(Rudine Sims Bishop)の言葉の引用がありました(113ページ)。(本日の投稿の冒頭に引用しました。)

 ビショップ氏はオハイオ州立大学の名誉教授で、1990年に、多文化児童文学を、「鏡」と「窓」と「ガラスの引き戸」に喩えており、この喩えを、本日の投稿の副題にしました。(出典などは以下★1をご参照ください。)不勉強の私は今回、この引用のおかげで、初めて、本を「鏡」と「窓」と「ガラスの引き戸」に喩えたビショップ氏の文を読みました。

 上記では、読んだものを「表現する方法の選択」について書きましたが、ビショップ氏は子どもたちが「読むものの選択の幅」について、多文化という観点から記しています。「読む本」について教師が選択を与えても、教室にある本のテーマやジャンルが限定的であれば、教師が選んだ狭い枠の中に子どもを閉じ込めてしまうことになってしまいます。

 多文化児童文学の観点から、ビショップ氏は少数民族と呼ばれる人たちが主人公になっている本の少なさや、その人たちが本の中で歪められた、否定的なイメージで描かれることのマイナス面に警鐘を鳴らしています。

 ビショップ氏はさらに、少数民族の人たちにとっての「鏡」の不足は、多数派の人たちについても、大きなマイナスになっていると言います。この指摘は私はとても大切だと思います。

 つまり、ビショップ氏によると、多数派の子どもたちは、自分の「鏡」を本の中に見つけるのは困らない、しかし、自分以外の人たちの「鏡」が、教室の本の中に不足することは、自分たち以外の人たちが住んでいる社会の現実を知る「窓」が不足しているになります。また「鏡」は「ガラスの引き戸」でもあります。読者はこの引き戸を開けて、著者がつくり出したその世界に入ることもできます。「鏡」が少なければ、「引き戸」も少ないことになります。

→ 教室の図書コーナーの本や、ミニ・レッスンやカンファランスで紹介する本について、教師は常に、子どもたちが生きている現代社会に目を向けて、目配りと勉強と更新が必要なんだなあと思わされます。「鏡」と「窓」と「ガラスの引き戸」は、その一つの指針になりそうです。

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 ビショップ氏が「鏡」と「窓」と「ガラスの引き戸」の喩えを書いたのが1990年です。最近の絵本を見ていると、様々な文化の子どもたちが登場しています。しかし、同時に、「書籍の禁止が全米で増加傾向」であり、禁止されている本は「マイノリティーやLGBTQの著者による作品や、こうした問題を扱った作品が圧倒的多数を占める」(★3)と報道されています。「鏡」が多様になっても、その「鏡」にアクセスできない状態が起こることもあることも覚えておきたいです。

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★1 以下のURLでPDFが読めます。PDFの最後には次のように出典が記されています。

Source: By Rudine Sims Bishop, The Ohio State University. "Mirrors, Windows, and Sliding Glass Doors" originally appeared in Perspectives: Choosing and Using Books for the Classroom. Vo. 6, no. 3. Summer 1990. 

http://www.rif.org/us/literacy-resources/multicultural/mirrors-windows-and-sliding-glass-doors.htm

また英語ですが、著者が語っている90秒ぐらいの動画を見つけました。

https://www.youtube.com/watch?v=_AAu58SNSyc

★2 Debbie Miller, Emily Callahan著

"I'm the Kind of Kid Who ...": Invitations That Support Learner Identity and Agency

Heinemann, 2022年

*書名を直訳すると「私がどういう子どもかというと...("I'm the Kind of Kid Who ...")」、副題は「学習者のアイデンティティと主体性をサポートすることへの招き(Invitations That Support Learner Identity and Agency)」です。4章、5章、6章はリーディングの時間での選択について書かれています。

★3 「学校の禁書で訴訟、「言論の自由を侵害」 米フロリダ州」(2023年5月18日)

 https://jp.reuters.com/article/florida-books-lawsuit-idJPKBN2X90JG

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