森絵都氏の『カラフル』(文藝春秋、2007年)は、その登場人物の多くが多面的に描かれていて、私のお気に入りの1冊です。同じ著者の『にんきもののひけつ』(童心社、1998年)などの「にんきものの本」シリーズが図書コーナーにある教室も少なくないと思います。氏の本をいろいろ読んでいる間に、『おいで、一緒に行こう 福島原発20キロ圏内のペットレスキュー』(文藝春秋、2012)も手に取りました。こちらは、題名からわかるようにノンフィクションです。
多くの著作がある森絵都氏ですが、『カラフル』『にんきもののひけつ』『おいで、一緒に行こう 福島原発20キロ圏内のペットレスキュー』では、長さも難易度もテーマも異なります。
5月13日の投稿の最後に紹介したカーメン・アグラ・ディーディ氏は、『黄色い星: ユダヤ人を守った国王とデンマークの人たちの物語』(ビーエル出版、2021年)と『チェシャーチーズ亭のネコ』(東京創元社、2014年)の2冊が邦訳されているようです。この2冊、難易度もテーマも題材も大きく異なります。
お気に入りの作家が「森絵都」(あるいは「カーメン・アグラ・ディーディ」)という子どもたちが、「好きな作家についての学び」を、作家別に集まる小グループで行うことがあれば、多様な子どもたちが集まれるかもしれません。
作家についての学びは、「好きな作家」という共通点があるので、大いに盛り上がって終わることもあるでしょう。それはそれで楽しそう!です。
でも、『にんきもののひけつ』と『おいで、一緒に行こう 福島原発20キロ圏内のペットレスキュー』が好きな子どもが同じグループにいると、学びの可能性はさらに広がりそうです。例えば…
・一人の作家が多彩な本を書いていることがわかる。
→ 一人の作家の好き嫌いは1冊だけで判断しない方がいいことがわかる。
→ ここから物事や人を一面だけで判断しないことまでも、学べるかも?
・これまで手に取ろうと思わなかったジャンルやタイプや難易度の本に興味が広がる可能性がある。
→『黄色い星: ユダヤ人を守った国王とデンマークの人たちの物語』がちょうどいい難易度の子どもが、『チェシャーチーズ亭のネコ』をいきなり読むのは難しいかもしれません。でも、『チェシャーチーズ亭のネコ』という動物が会話するようなファンタジー的な要素のある本が好きな子どもが、『黄色い星: ユダヤ人を守った国王とデンマークの人たちの物語』という歴史を題材にした本(ノンフィクションではありませんが、史実との関連については最後に著者が説明しています)を読むきっかけになるかもしれません。
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私はこれまで、多彩な本のある作家の紹介は難しいなあと思っていました。自分の中で、それぞれの作品に対して好き嫌いがあるので、「この本を最初に読んでしまうと、この作家を続けて読むことがないだろう」みたいな構えができてしまっていました。ですから、その作家で一番読みやすそうな本、その作家が好きになってくれそうな本を勝手に決めて、「一人の作家の多彩な作品」よりも「読みやすそうな作品」に焦点を当てていたように思います。
『Writing Clubs』(★1)という本の中では、作家についての学びを行う際、その作家が多様なジャンル、長さの本を書いていることが大切にされています。この本のおかげで、多彩な作品のある作家だからこそ、多様な読者たちを惹きつけられるという価値に目が向きつつあります。
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→ リーディング・ワークショップやライティング・ワークショップで「作家について学ぶ」時間をとり、その時に選択する作家の中に、多彩な作品のある作家を数名入れることもできそうです。
→ また、教室の図書コーナーの「作家」での配架の一部に、時にはあえて、一人の作家で、ジャンルやタイプの異なる本を数冊おき、それぞれの本が好きな子どもにポップを書いてもらってもいいかもしれません。
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『Writing Clubs』で、作家の学びに使える著者として紹介されていたリストの中には、英語では300冊以上の著作があるジェーン・ヨーレン、200冊以上著作のあるイブ・バンティング、100冊以上の著作があるシンシア・ライラントなども紹介されていました。イブ・バンティングは前回の投稿で紹介されていた名作絵本『スモーキーナイト』(岩崎書店, 2002年)の著者でもあります。この3名の著作は、邦訳もある程度出ています。多彩な作品のある作家リストについては、回をあらためて紹介できればと思っています。
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★1 『Writing Clubs』の著者はLisa EickholdtとPatricia Vitale-Reilly、Stenhouse より2022年に出版。125-147ページに、一人の作家について協働で学ぶことが詳しく説明されています。
2023年3月11日土曜日の投稿「書き手の目で読む 〜メンター・テキストを使う二つのタイミング」、2023年3月24日金曜日の投稿「ジャンルごとのユニット vs 自ら選択したジャンルで書くという喜び」、2023年4月8日土曜日の投稿「『パンダ読み』ならぬ『パンダ書き』のお薦め」でも紹介しています。