2021年12月4日土曜日

チョコレート・ムースと星空

   通勤の途中で、ふと、私にとっての詩は、空にある星なのかもしれない、と思いました。みなさんにとっては、詩はどんな存在でしょうか。

 ラィティング/リーディング・ワークショップの優れた実践者アトウェルは、詩を読むことをチョコレート・ムースを食することに喩えています。アトウェルはチョコレートが大好きだそうですが、次から次へと食べると、過剰摂取で味覚も麻痺し、甘美で深い味わいに辟易してしまう。詩も同じで、詩のアンソロジーを最初から最後まで読むことはできない、一度に読めるのはせいぜい6篇か7篇の詩で、それが限界だと書いています。★ 

 小さいときから本が大好きだったものの、後年になるまで詩を読む経験がほとんどなかった私は、最初、詩を読む時も、続きが気になる本のページをどんどんめくっていくような読み方でアプローチしてしまい、詩の美味しさがわかりませんでした。

 そんな私でしたので、詩を前にすると、「詩は極上のチョコレート、一気にたくさん食べることはできない、そういう読み方で」と、自分に言い聞かせることが時々あります。(アトウェルの喩えは、私の記憶の中では、いつの間にか「チョコレート・ムース」から「極上のチョコレート」になっていました。チョコレート・ムースは自分ではあまり食べないからかもしれません。)

 チョコレート・ムースにしろ、極上のチョコレートにしろ、詩の美味しさを知っている人の「詩の味わいかた」としては、(自分にはうまく味わえないことが多いものの)私にはしっくりきます。

 でも、食べてしまうと無くなってしまうことがちょっと残念でした。

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 通勤の途中に「詩は、私にとっては空の星だ」と思ったのは、私には折にふれて読み返す詩がいくつかあり、つい先日、そのうちの一つ★★を読み直したからです。詩を読み直すことで、自分を見直したり、自分にとっての土台の一つに戻れたり、進む方向がかすかに見えたり、励まされたりします。詩によって様々な光を投げかけてくれます。

 そのような詩たちは、存在しているものの、時には忘れてしまう、でも、読み直すと、道しるべになったり、明るく照らしてくれたりします。食べても無くなってしまうわけではありません。

 たくさんの詩に出合うと、空の星が増えてきて、星がいっぱいの夜空になるかもしれません。星によって明るさも、輝き方も、それぞれに異なります。日中や天気の悪い日は星は見えないかもしれませんが、見えなくても、ちゃんとそこに存在していることには変わりはありません。そんなイメージです。

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 星が目印や道しるべになると言うイメージは、私の中では、19世紀、アメリカで奴隷たちが北部州を経てカナダまで逃亡するのを手助けした組織があり、その逃亡の過程で北極星が目印にされていたこと、また、「ここからはじまる」で終わる、ピーター・レイノルズの絵本『ほしをめざして』を思い出したことなどもかかわっています。

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 私は詩を書けませんが、もし、私が詩を書けることがあり、もし、その中で「詩は空の星」と言う喩えを使ったとすると、その5文字の中に、上にだらだらと書いたような思いが詰まっていることになります。

 アトウェルは、詩を教えるときに、詩を「ひらく(unpack)ように読む」★★★と言います。上のようなことを考えたときに「ひらく/詰め込んだ荷物をほどく」と言うイメージが少しだけ実感できるような気がしました。素晴らしい詩人たちは、無駄な言葉を削ぎ落とし、選りすぐった言葉で綴っています。それをひらく楽しみ、これはまさにチョコレート・ムースをじっくり味わう楽しみなんだろうと思います。

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★ Nancie Atwell著の Naming the World: A Year of Poems and Lessons (Heinemann, 2006) とセットの A Poem a Day: A Guide to Naming the World の27ページに書かれています。

★★『ハビービー 私のパレスチナ』(北星堂書店、2008年)という本が邦訳されているネオミ・シーハブ・ナイ(Naomi Shihab Nye)の Famous という詩です。アトウェルが生徒たちに紹介する詩の一つでもあります。この詩は Poetry Foundation のウェブサイト(https://www.poetryfoundation.org/)で読めます。https://www.poetryfoundation.org/poems/47993/famous

なお、このサイトではネオミ・シーハブ・ナイ氏が自身の詩を朗読している動画などもあります。(例えば https://www.poetryfoundation.org/video/154493/naomi-shihab-nye-reads-separation-wall)。インターネットに関わる技術の進歩で、詩人や著者が自分の作品を読み上げる動画を多く目にするようになりました。

★★★ 『イン・ザ・ミドル』(三省堂、2018年)67〜68ページ、112〜115ページをご参照ください。

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