2021年3月23日火曜日

『歴史をする:生徒をいかす教え方と学び方とその評価』


 明日発売のタイトルの本と国語(読み・書き、聞く・話す)は関係ないように思う方が多いと思いますが、読み・書き、聞く・話すなしで、よい歴史の授業などできようはずがありません!! それが、この本を読むとよくわかります。歴史のみならず、地理や公民分野でも同じことが言えます! 訳者の一人の武内さんが本の紹介文を書いてくれましたので、紹介します。

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LevstikBartonが主張する、『歴史をする(Doing history)』という教え方には、読み・書き・聞く・話す(国語)教育において非常に重要な視点が含まれています。

私が児童・生徒だった頃、歴史の勉強は非常に退屈なものでした。本書の前書きではこのように述べられています。

「歴史を学ぶってどういうこと?」という本質的な問いに、あなたの生徒は何と答えるでしょうか? その答えは、きっとあなたの授業を映し出すことになるでしょう。

「先生が話す、昔々の自分とはまったく関係のない物語を聞くこと」

「昔あった出来事の年号や有名人の行動を覚えて、テストでよい点数をとること」

このような生徒の答えを、あなたはどのように思いますか? (本書iページ)

 

私も中高生の頃は、歴史の勉強を「記憶力のテスト」くらいに考えており、全く楽しいものではありませんでした。この書籍では、上記のような歴史教育を脱するアイディアをたくさん載せています。

『歴史をする』ことが、他の歴史教育と大きく異なる部分は、エイジェンシーに焦点を当てた教育になっている部分です。エイジェンシーに焦点を当てることで、一見生徒とは無関係の出来事に対して、生徒自身がつながりを持つようになるということが本書から読み取れます。

日本では、エイジェンシー(Agency)は主体者意識や主体性という訳語があてられていることが多い言葉ですが、原語は「環境に影響を及ぼす力」です(OECDは「変革を起こすために目標を設定し振り返りながら責任ある行動をする能力」と定義しています。)

本書ではエイジェンシーについてこのように述べられています。

エイジェンシーは「力」です。個人や集団や組織が、どのように力をもつようになるのか、どのように維持されるのか、抑圧するのか、拡張するのか、抵抗するのか、そして失うのかという力に関係するものです。(本書114ページ)

エイジェンシーに焦点を当てた歴史の授業とはどのようなものなのでしょうか。本書第1章では、エイジェンシーに焦点を当てることについて以下のように述べています。

人間のエイジェンシーに焦点を当てる――人々が抑圧や不正を不本意ながらも受け入れたり、無視したり、反対したりする方法や、人々が望んだ未来を築くために努力してきた方法を強調します。(本書12ページ)

これは過去の人間の生活に焦点を当てることを意味していると思います。私たちの生活は選択の連続です。過去に起こった出来事は、あらかじめ決められていることでもなければ、必ずしも望んで起きたものとは限りません。歴史として描かれていることは人間の選択の結果であり、私たちと同じように選択した理由があります。歴史上の人物は私たちと同じように感情をもち、思考し、ジレンマを感じ、判断を下している人間なのです。

エイジェンシーが強調されている授業をすることで、歴史上においてエイジェンシーを発揮しているモデルや抑圧されているモデルを児童・生徒が見ることになります。そうすることによって、自分自身と歴史のつながりを見出し、自分自身のエイジェンシーを理解する足場を作ることができます。

また、本文ではこのように述べられています。

歴史的な人物に与えられ、実際に行使されたエイジェンシーの探究は、人間の意思決定の複雑さに光を当てます。誰も無限の選択肢はもっていませんし、集団のなかでどれだけ共通点があったとしても、集団のなかで、そして集団間での違いが残ります。こうした違いを理解することが生徒にとっては、歴史上の人物、考え、出来事をより良く理解する際の助けになります。(本書 115ページ)

エイジェンシーに焦点を当てる教育を歴史教育だけのものにしておくのはもったいないです。例えば、時事問題について生徒に「あなたはどう思いますか?」と尋ねた時、生徒が意見や声を発することができないのは、その時事問題との関係が見出せていないからです。自分との関係が見出せていないのであれば、読み書きや聞くこと/話すことについて技術的な指導をしたとしても、生徒も教師も満足のいくものにはならないでしょう。

時事問題にもあらゆる人間の選択が含まれています。エイジェンシーに焦点を当てることで、トピックと自分自身の間の関係を見出し、同じ人間としての選択を理解することができます。それはものごとをクリティカル★に理解するトレーニングにもなり得ます。

国語の授業でも、エイジェンシーに焦点を当てない理由はないのではないでしょうか。

また、生徒のエイジェンシーを発揮できる環境を整え、支援することも、教師の役割と言えるでしょう。授業の中で何かを決定したり、創造したり、選択したりするなど、生徒が自分の主張や意見を持てるように足場かけをする必要があります。足場かけについてはこのように述べられています。

「足場かけ」は重要です。教師が生徒に課題を与えるだけでは、それから何かを学ぶことは期待できません。ほとんどの生徒は、自分の知識やスキルを活用する方法を理解するための助けを必要としているのです。(本書144ページ)

本書には、歴史教育の中から人間のエイジェンシーに焦点を当てる事例や生徒への足場かけを通して生徒のエイジェンシーを発揮させる事例がたくさん描かれています。

 

★クリティカルは、批判的という意味も含みますが、イコールではありません。より多くの部分は「大切なものは何かを判断し、それを行動に結び付ける力」や「大切ではないものを排除する力」が占めています。それが、このクリティカルに思考する力とエイジェンシーが、ほとんど切り離せない理由です。

 ちなみに、単に教科書をカバーする授業は、これら大切なことと逆をしてしまいます。つまり、教師が「従順・服従・忖度」のモデルを示すことによって、生徒たちには扱う内容がほとんど残らない形で、「従順・服従・忖度」の練習をさせることになります。これは、教育でもっとも避けなければならないことです。『教科書をハックする』を参照してください。

★★ 国語の授業でエイジェンシーの扱い方がより参考になるのは、ピーター・ジョンストンの著書『言葉を選ぶ、授業が変わる!』と『オープニングマインド』です。エイジェンシー(主体性)という言葉が、前者には80回、後者には28回も登場するぐらいにキーワードの一つです。夏に出版予定の『本をつくる子どもたち(仮題)』でも、72回登場しています。

 

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