2020年3月6日金曜日

一小学校教員が考える「読書感想文と本の紹介文の違い」について


 『読書家の時間』の執筆者の一人の相模原市の都丸先生にお願いして書いてもらいました。

昔から読書感想文というものが苦手でした。
本を読むことは好きなのに、読書感想文を書くことは大嫌い。
そんな子どもだったように思います。

小学生の頃、夏休みの宿題で出された読書感想文を書けない(書く気持ちになれない)状態が続き、見かねた父が「読書感想文のじょうずな書き方」なる本を買ってきてくれました。
宿題のために、その本をぱらぱらとめくってみると、「同じ本を読んでいるのに何でこんなことを書けるのだろう?」と思ってしまう文章の数々に圧倒されてしまい、書くことへの不安が強くなった記憶があります。宿題だったのでなんとかして書き上げたとは思うのですが、どの本を読み、どんなことを書いたのかは一切覚えていません。

中学生の頃も、読書感想文が宿題として出されました。
幸いにも読むことだけは嫌いではなかったので、夏休みに読んだ本の中から『クラバート』(プロイスラー作 中村浩三訳 偕成社)を選び、そのおもしろさを誰かに紹介するつもりで書いたところ、原稿用紙が8枚以上(半分以上はあらすじの紹介)を一気に書き上げてしまいました。おそらく「読書感想文」というよりは、本の紹介文に近いものになっていたのだと思います。このときは「こんなにおもしろい本があるのか!これは誰かに伝えないと」という思いが強く、書くことへの苦手意識や抵抗感はほとんどありませんでした。

こうした子どもの頃の経験をもとに、「読書感想文」と「本の紹介文」の違いについて考えてみたところ、以下のようになりました。

【本の紹介文】
・「誰かに読んで欲しい」という本についてのプラスの感情が根底にあるので、書きやすい。
・書くのは、自分が紹介したい本についてのみ。「つまらない」と感じた本については書く必要がない。
・本を通して人と人とのつながりが生まれやすい。
・おすすめのポイントが一つあれば書けてしまう。文章の長さを問われないため、文章を書くことに苦手意識のある子も取り組みやすい。
・誰かの「おすすめ本」というのは、「本の内容」だけでなく「その人が本を紹介したいと思った理由」や「その人が感じた本の魅力」なども含めて、その本への興味が湧く。
・文章の長さや形式を細かく問われない気軽さから、直接顔を合わせてのやりとりの他に、ブログやSNS等を利用した本についての情報交換にもつながりやすい。
・継続して書き続けることで自分の読書記録にもなる。
・本の紹介文の目的は、文字通り本を人に紹介すること。

【読書感想文】
・学校の授業で扱う場合は、教科書の教材文について書くことが多い。そのため「読書感想文を書くために本を読む」という課題ありきの活動になりやすい。また、国語科の成績やコンクールへの応募等を考えたときに「評価の対象としての文章」という印象をもちやすい。
・書くことに苦手意識のある子には「書いてみたい」と思わせる指導が不可欠。
・「本を読んで自分が何を感じたのか」「どんなことを考えたのか」「何を学んだのか」「自分にとってこの本がどんな意味をもつのか」など、自分と本との対話について書かれる部分が多い。
・書くために何度も本を読み返すことで、一冊の本について深く考えることができる。
・「感想を書きたい」と思う本に出会うことー選書がいちばん大切だが、学校やコンクールの現状はそうなっていない。
・読書感想文の目的は、書くことによって自分の考えを深めること。つまり自分のために書くこと。

私は、学校教育の中で子どもたちが本を好きになり、自ら本を手に取るようになるためには、
自分に合う本を自分で選んで読むこと。
多くの本と出会う機会と本を読む時間が保証されていること。
自分にとって価値のある本に出会ったときに、その本を気軽に紹介できる機会があること
の三つが必要だと考えています。

『ニッポンの書評』(豊﨑由美 光文社新書)の以下の記述から「本の紹介文」は、それを発展させると「書評」につながるものと考えます。

「書評というものは、まずなにより取り上げた本の魅力を伝える文章であってほしい。読者が『この本を読んでみたい』という気持ちにさせられる内容であって欲しい。」26ページ

まずは、子どもたちが本を日常的に手に取り、読み続けるための環境をしっかりつくっていくことが大切です。その一つに「この本を読んでみたい」という思いを伝え合う本の紹介文を位置付けることができます。

読書感想文については、自分自身の負の経験から、それを子どもに書かせることで本を読むことを嫌いにしてはならないという思いがあります。もし読書感想文を書くのであれば、これまでに出会った本の中から「自分にとってのベスト」を選んだ上で「本と自分の対話」を書ける読書感想文であって欲しいと思います。


★実際の指導経験を、以下のように書き出してもらいました。

一斉指導の中で、最初にやることは、これまでに教室で読み聞かせをした絵本の感想文(教師が書いたモデル文)を示すことです。全員が内容を知っているので、作品の内容と感想文とのつながりがよくわかるからです。絵本は短い時間で読めるので、児童にやり方を示す際にはとても便利です。
この方法で「書きたい」と思わせることができるかはわかりませんが、「これなら書けるかもしれない」という子は増えると思います。

その絵本を使って、教師が実際にどのような手順で書いたかを紹介していきます。

①本を読み進めながら、印象に残る言葉(疑問・共感・感動・自分とのつながり等)を見つけたら付箋を貼る。※考え聞かせを進めながら実際に付箋を貼るところを見せると効果的。

②付箋を貼ったところを読み返し、そこに自分が反応した理由と文章の中心(いちばん書きたいこと、書けそうなこと)を決める。書きたいことの中心を短い文で書いてみる。 ※ここでは印象に残った言葉をそのまま書き出す(引用)についても教える。

③文章全体の構成を「初め・中・終わり」で大まかに考える。

④下書きをする。

⑤修正をする。(文章の加除修正、段落の順序等の直し)

⑥校正をする。(誤字、表記等のチェック)

⑥清書をする。

⑦互いの作品を読み合う。

※①~⑥で、教師が準備するのは以下のものです。
・絵本
・付箋
・文章の中心として書いた短い文
・文章の構成メモ(プロット)
・下書きモデル
・下書きに修正を加えているモデル
・修正後の完成文モデル

ここまでは、全体指導になりますが、書くことに苦手意識がある子については、さらに個別の支援が必要になります。

自分がこれまでにとってきた方法で最も有効だったのは1対1のインタビュー形式で聞き出すことです。
・この話は好き?/嫌い?
・どんなところが好き?/嫌い?
・どこがおもしろいと思った?
・好きな登場人物はいる?
・自分と似ているところはある?
・自分だったらどうする?
・前に読んだ本と似ているところはある?
・印象に残った言葉はある?
・初めて知ったことはある?
・不思議に思ったことは?
・質問したいことは?
・この本から学べることはある?

などの中から、いくつかの質問をしていきます。その子が詳しく話せるものがあれば、メモを取りながらどんどん聞き出していきます。インタビューが終わったら、「こんなに書けそうなことが見つかったよ」と教師が書いたメモを渡し、その中から書きたいこと(書けそうなこと)を選べるようにします。

★以下の部分は、編集者のリクエストで追加に書いてもらった分です。
 ライティング・ワークショップ/作家の時間に精通している人なら、簡単にできることですが、そうでない人にとっては、このかなり親切な説明でもなかなか効果的にはできないかもしれません。それほど、イベントして書いたり、読んだりするのではなく、継続的に書き、そして読み続けることが大事だということだと思います。しかし、読書感想文は年に1回のイベントであり続けるところが最大の問題かもしれません。


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