2020年9月5日土曜日

「諸刃の剣? 〜学びたくないことを学ぶ価値とその立ち位置」

  ITや機械が苦手な私ですが、ここ数ヶ月は、やむをえず、機械やテクノロジー関係の「ハウツー」をいくつか学びました。オンラインに詳しい同僚がデザインした授業からは、「オンライン上で(手作業では手間がかかりすぎて絶対できないような)こんなことができる!」という、目から鱗のような活動も学びました。

 また、読書は断然「紙の本!」派の私ですが、夏休みに、職場の図書館にある英語学習用のe-bookを、授業に使う可能性も考えながら100冊ぐらい読みました。e-bookのシリーズによっては100ページまでダウンロードや印刷可という設定のものもあり、また、紙の本のように重たいものを持ち運ぶ必要もない等の点を活かせないか、と思ったのです。ただ、本を読むのが大好きな私ですが、今回は、ブックトークをしたいような本に、なかなかうまく出合えませんでした。作家読みが簡単にできたり、次に読みたい本がたくさんあるような、自分がこれまで行なってきた読書体験とは異なる読書体験でしたし、これまでに使ってきた選書スキルもうまく応用できなかったので、そのあたりの課題を意識しつつ次のことを考えていこうと思います。

 このように、ここ数ヶ月「自発的には、まず学ぼうとしないこと」を学びながら、考えたことがいくつかあります。

・「必要に迫られて、やむをえず学ぶ」ことの価値。
→ 自発的にはまず学ばないことに触れることで、私でも、できることが少し増え、対面授業・遠隔授業という授業形態にかかわらず、今後も使い続けたいと思える活動に出合えるという嬉しいサプライズもありました。

・新しいものを学ぶためのサポート
→ 私は、サポートされるばかりででしたが、喜んで知識や技術を惜しげもなく共有してくれ、質問にも対応してくれた同僚に助けられました。

・緊張やストレス
→ 馴染みのないことを学び、時間の余裕のない中で使うのは、予想外の緊張やストレスを作り出すこともよくわかりました。

・「自分の中に学習者としての経験や蓄積のないもの」への対処の仕方
→ 上記のように、図書館にあるe-bookのシリーズを読むことは、私のこれまでの読み手としての読書体験とは異なるものでした。考えてみると、それ以外も、オンラインでの学びは、私の中には経験や蓄積の少ないものが多いです。

 少し前に、長年の仕事仲間が、「新しいものに出合った時に、単なるハウツーの寄せ集めにならないためには、自分の中にある土台を意識することが必要」というようなことをメールに書いてくれ、そのことを折りに触れて思い出しています。

 ライティング/リーディング・ワークショップには、教師は先輩の読み手・書き手であり、実際に読む時、書く時に役立つことから、学習者に適したものを厳選して教えていく、という考え方があります。例えば、8月7日の投稿「Engaging Literate Minds(本づくり)の第2弾」では、ライターズ・ブロックについて、(1) 何を書けばいいのかわからない、(2)次に何をすべきかわからないという状態であることを説明した上で、それを乗り切るためにできることのリストが紹介されています。このリストは小学校の教室の壁に掲示されているとのことですが、そのリストを見ると、まさに私自身が使いたいような項目が並んでいます。これなら書き手としてずっと使える、学ぶ価値のあるリストだと、自分の経験上からも、納得できます。

 私が大きな影響を受けた優れた実践者のナンシー・アトウェル は、上のような学びを「譲り渡し」という概念で説明しています。つまり、教師が、読み手・書き手として使っていることから、生徒の成長に役立つことを選んで、生徒に「譲り渡し」ます。(『イン・ザ・ミドル』35〜38ページ、および、2018年12月1日の投稿「譲り渡し ➡️ いったい何を譲り渡すの? そしてどのように」もご参照ください。)

 これまでは、いろいろな制限の中でも、自分が読み手、書き手として行なってきたことの中から、役立ちそうなことを教えよう、と考えてきました。しかし、必要に迫られて新しいことを学ぶ時には、その新しいことは、自分の読み書きのレパートリーに入っていない未知のことが多いです。その中には、「目から鱗」で飛びつきたいものもありますし、その特徴をどう活かせばよいのかがすぐに見えないものもあります。そして時間的な余裕がないまま、使いながら考え、できる修正を少しずつ加えて整えていくということが必要な時もあります。

 それらに対しての立ち位置を定めてくれるのが、私にとっては「譲り渡し」という概念のように思います。自分の読み書きのレパートリーにそれらを加えるのと同時進行で、読み手・書き手を育てるのに、ここから「譲り渡し」できることがあるのか?と考えるからです。

「譲り渡し」を土台に、何をどうやって譲り渡すのかという模索はまだ続きそうです。

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