「2018年に読んで印象に残った本4~5冊の書名とその本の簡単な紹介をお願いします」と、4名の方に依頼しました。皆さんメールで書名と紹介文を送ってくださったのですが、その中の都丸先生からの1行目に書かれていたのが、「5冊選ぶつもりが、8冊になってしまいました」。
いいなあ、この1行! と思いました。都丸先生は小学校で教えていますが、こういう先生の教室で、紹介したい本がたくさんある子どもたちが育つのだろうと思います。
では、以下、4名(プラス最後に私も4冊の紹介を書いたので合計5名)からの、「2018年に読んで印象に残った本」です。短い冬休みですが、読んでみたい本を考えるときの一助にどうぞ。(なお、書名は青字になっています。)
★ 最初に送ってくださったのはブッククラブが大好きで、英語を教えている長崎先生。以前、指導主事をされていた経験も活かして時々「PLC便り」も書かれています。(PLC便りのURLは http://projectbetterschool.blogspot.com/で長崎先生は「msnaga」で投稿されています。)
1.ポール・ロックハート(2016)『算数・数学はアートだ!:ワクワクする問題を子どもたちに』新評論.
数学は大の苦手でした。なので、この本は買った後、かなり長い期間本棚で眠っていました。興味はあったのです。あの大嫌いだった数学が「アート」だという!一体、なんでだろうと。こんな本を書いたヤツは、どうせ難解な問題を悦にいって解こうとしている変人ロマンチストなのだろうと。ある日、別の本を取ろうしていて、この本が視界に入り、開いてしまったのです。あっという間に読了。読後感、「ずっと、喉の奥に刺さっていた魚の骨が取れた感じ。」ありがとう、ポール! 私の学びに関する考え方が、ワンランク洗練された気がします。
2.吉田右子(2010)『デンマークのにぎやかな公共図書館-平等・共有・セルフヘルプを実現する場所』新評論
図書館学の研究者である作者が、デンマークの図書館に長期滞在し、公共図書館の果たす役割をじっくりとリポートした一冊です。北欧の人々は、その気候から家に閉じこもらざるを得ず、読書家が多いとよく言われます。一つの要因には違いありませんが、教育も福祉であるといった社会づくりの考え方が根底にあるように思えます。昨年、我が国では大学生の読書時間ゼロの割合が50%を超えました。高校までに読書習慣が身についていないことと関係があるのではないかと言われています。本を読むこと、そして、読むことの生活の中での位置付けについて、改めて考えさせられる一冊です。
3.山極寿一(2014)『「サル化」する人間社会』集英社インターナショナル
タイトルは「サル」ですが、本書はゴリラ研究の本です。研究者が、ゴリラ社会に入り込み、受け入れられ、交流をしていく姿が、実に興味深く描かれています。サルとゴリラとの最大の違いは、サルは人間の気持ちを忖度しないことだそうです。そして、それは知能の違いではなく、社会性の違いであると筆者は述べています。人間社会がサル化するとはどういうことなのか、作者の興味深い考察は、我々人間社会の在り方に様々な示唆を与えてくれます。
★ 次は「5冊選ぶつもりが8冊になってしまったという都丸先生、小学校で教える、本大好き!な先生からの8冊です。
1.『キラキラ共和国』小川糸
初めて読んだ小川糸さんの本は『ツバキ文具店』でした。その続編にあたる本です。人と人とのつながりをとても温かく描いています。家族の物語。
2018年は小川糸さんの書く文章が気に入ったため『食堂かたつむり』『にじいろガーデン』などの小説のほかに、エッセーも何冊か読みました。
2.『バッタを倒しにアフリカへ』前野ウルド浩太郎
ブッククラブで読んだ本です。普段はあまり読まないジャンルかもしれません。バッタの研究に人生をかけた昆虫学者の手記。著者の文章に引き込まれ、あっという間に読み終えてしまいました。バッタの研究を続けるために数々の困難に見舞われますがどんな状況でも決して悲観的にならない著者の生き方に共感します。「夢を持つと、喜びや楽しみが増えて、気分よく努力ができる。」
この本を読んだ後、昆虫つながりで『昆虫はすごい』(丸山宗利)も読みました。こちらもとてもおもしろかったです。
3.The Lost Lake(Allen Say著)
父と息子の夏休み。「こんな時間を親子で過ごせたら…」と思えるすてきな絵本。この親子は大自然の中で何を感じたのか、何を考えながら歩いているのか、想像が膨らみます。息子が小学校1年生のときに、野辺山高原を歩いた男の二人旅を思い出しました。
4。『なんだかうれしい』谷川俊太郎
日常生活の中の「なんだかうれしい」を集めた本。とてもうれしい」ではなく、なんとなくうれしい。理由はよくわからないけれど、ちょっぴりうれしい。そんな「うれしい」をたくさん見つければ見つけるほど、人生は楽しくなるのだと思いました。
5.『家守綺譚』梨木香歩
幻想的な本の世界を堪能しました。著者は花鳥風月を本当に魅力的に描く作家だと思います。「ずっとこの作品世界を味わっていたい。終わって欲しくない。」と思うほどに好きな本になりました。冬休みにこの本の続編『冬虫夏草』を読むのが楽しみです。
6. 『アウシュヴィッツの図書係』アントニオ・G・イトゥルベ 小原京子訳
一冊の本が、人々にとってどれほど大切なものか、絶望の淵に立たされた人々にどれほどの希望をもたらしたことか、そんなことを考えずにはいられない作品でした。
7.『羊と鋼の森』宮下奈都
「調律の技術を言葉に換える作業は、流れていってしまう音楽をつなぎとめておくことだ」
読み終えた後、無性にピアノを弾きたくなりました。そして、実際に弾いてみました。とてもさわやかな気持ちになりました。これから仕事に就く人に強くすすめたい本です。
8.『やり抜く力 ー人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』アンジェラ・ダックワース著 神崎朗子訳
学校教育、子育て、子どものスポーツ指導に関わるすべての人にすすめたい本です。
一つのたいせつな目標に向かって努力を続ける力「グリット」を身につけるには?
どんな親が子どもの「やる気」を伸ばすのか?
どんな練習が子どもたちの能力を伸ばすのか?
どんな褒め方が子どもたちの「やり抜く力」を伸ばすのか?
これらの問いついて考えるきっかけを与えてくれた本でした。
★ 次は中高で英語を教える吉沢先生からの5冊。英語の授業でWWを実践しつつ、特にカンファランスに取り組み中。
1.カズオ・イシグロ(土屋政雄訳)『わたしを離さないで』早川書房, 2008
ふだん小説を読むことは控えているのですが、知人に薦められたのと、このタイトルに惹かれて読みました。最初は、事細かな心理描写につきあうのがしんどかったのですが、タイトルの意味するところは何なのかという疑問を持ちながら、次第に物語の世界にはまってしまいました。
2.マーク・ピーターセン『日本人の英語はなぜ間違うのか』集英社インターナショナル、2014
中学校の英語の検定教科書が素材にあがっています。学習指導要領の制約の中で、四苦八苦して作った教科書の本文が、不自然な英語を生み出す結果になっていることがわかりました。それを覚えさせられる生徒は可哀想です。著者は、間違いや不自然さを指摘するだけでなく、私ならこう書くというモデルを示してくれています。それがとても役に立ちます。
3.宇佐美 寛『国語教育を救え』さくら社, 2018
この著者の本は教員になりたての頃から、折にふれ読んできています。日本の教育、特に言語教育のあり方を批判しつづけてきた教育哲学者です。
「手書きが読み書きの力に資する。」「授業は読み書きを好きにするような質のものでなければならない。授業によって大量に読み書きする意欲が増大しなければならない。」全くその通りだと思います。
4.石戸 諭『リスクと生きる、死者と生きる』亜紀書房, 2017
著者は言います。「『被災地』は存在しない。『被災者』も存在しない。土地と、人が存在するだけだ。」と。「震災や原発事故を自分のこととして捉え、考えている人たちの声に近づき、彼らの揺らぎに接近することである。声を聞くこと。それもどこまでも個的に語られる彼らの言葉を聞くことで浮かび上がってくるものに、可能な限り接近したいと思った。」胸にしみる本でした。
5.細見和之『石原吉郎ーシベリア抑留詩人の生と詩』中央公論新社, 2015
学生の頃、日本の現代詩を集中的に読んでいました。その中でも特に好きだった詩人の一人が石原吉郎。第二次大戦後、シベリアに抑留され何年もの重労働を経験したことが、石原吉郎の詩作品にどのような影を落としているのか。それを丹念に解きほぐしていっています。その分析は実に緻密なので、私は夢中になって読んだのですが、石原吉郎に関心のない人にとっては、取っ付きにくい本かもしれません。
★ 小学校で教える冨田先生も、時間を削って紹介文を送ってくれました! ご自身のブログ(Tommy's Idea Room)や、本に関連するURLも書いてくださいましたので、併せてどうぞ。
1.『生きづらい明治社会』松沢裕作
今年度、4クラスの社会科を担当しているので、積極的に気になった歴史の関係の本は目を通すようにしています。僕の中で、幕末の志士の活躍ばかりに目がいって、明治政府やその政治に翻弄されていった市井の人の暮らしにまでは思い描くことができませんでしたが、この本で、その生き様や考え方、先行きの見えない不安感などに共感をすることができました。
変わりゆく時代を切り開いていった幕末・明治の英傑の活躍の裏で、それに振り落とされそうになりながらも、必死に生活をしていく人々の思いに触れることができる1冊です。
2.『ライフロング・キンダーガーテン』ミッチェル・レズニック、村井裕実子、阿部和広、酒匂寛(訳)
著者はプログラミングを視覚的に学べて遊べる「Scratch」の開発者。Scratchに込めた思いやそれを活用して運営するスクールでの子どの姿を通じて、クリエイティブに生きることへの意味を問いかけています。
学校の学習は、先生からの情報を視聴し、テストの問題を正しく回答し、子どもたちは学習という行為を消費することと錯覚してしまいがちです。そうではなくて、自分の思いを実現する側に立ち、どんな稚拙なものでもそれを誇りに持って、自分らしい学習を生産する立場へと進み出てほしいものです。本書の中では、それをよくできたオンラインゲームの比喩を使って表現されていますが、まさに、教師の操る糸で操作された問題解決的な授業は、よくできたオンラインゲームにどっぷりと浸かっている状態を連想させます。Scratchのように、子どもたちに創り出す喜びを与えるような学習を作り出していきたいですね。
http://tommyidearoom.com/2018/09/15/post-1480/
3.『宇宙兄弟』小山宙哉
親子で楽しんだ宇宙マンガです。宇宙が題材なのですが、そこかしこに描かれるのは、登場人物たちに化学反応。チームにどのように貢献するのか、チームにとって自分はどういう存在なのか、チームの意思決定にどうやって貢献するのか、宇宙という舞台の中で、魅力的な登場人物たちのダイナミクスがしっかり描かれています。
うちの子(小2の女の子)は、ときに笑い、ときに興奮しながら一気に最新刊まで読み込んでしまいました。夢は宇宙飛行士になると最近では申しております。子どもの生き方にも影響を与える1冊です。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)についても、大きく扱われているテーマの一つです。筆者の作品で世の中をもっと良くしていこうとする考えに、とても賛同できるシリーズでもあります。
https://landing-page.koyamachuya.com/serikafund/
4.『ブロックチェーン革命』野口悠起雄
1990年台後半、私が高校生の時、友達との帰り道のおしゃべりで、「パソコンって何ができるか知ってる?」と問いかけられて、何も知らなかった私は、「電話?」と答えたのを覚えています。その友達の答えは、「何でもできるんだよ!」でした。「それじゃあ、テレビも見られるの?」と答える私は、コンピューターを今ある既成のものと同じ枠組みで考えることしかできず、インターネットを通して、こんなにも新しいツールが開発されることなど思いもよらないことでした。
今、ブロックチェーンという技術が産み落とされ、それをどのように使ったらよいか、多くの研究者が試行錯誤しています。それは可能性に満ちた、私が高校生の時に知った「パソコン」や「インターネット」と同じ感覚を味わわせてくれます。今度、どのような社会になっていくのか、楽しみにしてくれる一冊です。
http://tommyidearoom.com/2018/03/22/post-1135/
5.『みえるとか みえないとか』ヨシタケシンスケ、伊藤亜紗
ヨシタケシンスケさんのかわいい絵も素晴らしいのですが、伊藤亜紗さんという目の見えない人がどのように感じて考えているかを研究されている方と一緒に作った本です。この本でのメッセージは、人それぞれが自分の文化をもち、それを大切に生きているということがよくわかります。
腕がたくさんある宇宙人が、腕が2本しかない私たち人間を心配して「かわいそう…」と嘆くシーンがあるのですが、私たちにとってそれは自然なことで、そんなに「かわいそう…」と嘆かれても現実感がありません。それと同じ構造が、私達が目の見えない方々に送っている視線としてあるのではないでしょうか。
ヨシタケシンスケさんの最近の本である、『それしかないわけないでしょう』も最高です。こういう本をぼんやり眺めて考えている子どもの姿が大好きです。
★ 最後は、おまけで私からも、2018年に読んで印象に残った4冊です。
1.『メリダとおそろしの森』アイリーン・トリンブル、しぶやまさこ訳
ディズニーの映画の小説版です。私の好きなTEDトークの一つ「映画が男の子に教えること」(コリン・ストークス)(このTEDトークは、日本語の字幕付きでも、英語の字幕付きでも、字幕なしでも、見れます)の中で、お薦め映画として紹介されていました。
この紹介を書きながら、私はこの本と同時に(もしかすると、この本よりも)このTEDトークをお薦めしたいことに気づきました。女の子、男の子、どちらの子どもにとっても住みやすい社会をつくるために、親が子ども向きの映画を選ぶときに、できることもわかります。このTEDトーク、上の本と併せて、ぜひどうぞ。https://www.ted.com/talks/colin_stokes_how_movies_teach_manhood
2.『人間関係が楽になるアドラーの教え』岩井俊憲
11月10日の「WW/RW便り」で触れた本です。私は、人との関わりにおいて、「勇気づけ」の反対の 「勇気くじき」(ダメ出しなどが、その典型)をしている実感はあったのですが、それを自分の中で言語化できたのが大きかったです。
まだまだですが、学習者や家族に声かけするときに「勇気くじき」をしないように、と、まず、思うようになりました。
3.『評伝 大村はま ことばを育て 人を育て』刈谷夏子
『イン・ザ・ミドル』著者、ナンシー・アトウェルと似ている点もある、と言われて、読みました。教えることに真摯に向きあう姿に、思わず 「背筋が伸びる」本です。
4.『風のマジム』原田マハ
原田マハさんの本は、2018年に初めて読みました。作家読みをすることの多い私ですが、原田マハさんの場合、あまりに本が多く、多岐に渡り、かつ、口当たりがよすぎる感もあり、2冊目以降、戸惑いました。図書館に行ったときに1~2冊、借りて帰るという感じで、今で20冊ぐらい読み、その中で一番好きだった本です。比較的現実とかけ離れていない感がありつつも、いい人がいっぱい出てくるので安心感もある、みたいな感じです。
では皆様、2019年もたくさんのいい本と、本を通してのいいつながりがありますように!
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