2024年8月30日金曜日

『パチンコ(上・下)』 〜「窓」(★1)の広さに驚くオバマ元大統領のブックリスト

 夏の終わり、うっかりページを開いてしまうと途中でやめるのが大変で、何とか隙間時間を見つけて読み続けた本があります。『パチンコ』(ミン・ジン リー、文藝春秋, 2020年)で、上・下2巻あり、地元の図書館で上を借りたあと、外に出たくない危険な?暑さの中、すぐに下を借りに行きました。20世紀を舞台にした在日コリアンたちについての小説で、もともと英語で書かれたものの翻訳です。20世紀初頭から四世代が登場し、朝鮮半島から始まり大阪、長野、横浜等へと舞台が広がっていきます。この本は、後述しますが、オバマ元大統領の過去の「お薦め本リスト」(2019年)の中に含まれていたおかげで、今回、読むことになりました。

 歴史の中であまり知らなかった部分を、それぞれに描きこまれた登場人物の言動や思いから学びつつ、本を閉じた後に「どうして?」と考えてしまう場面もいくつかあり、強い印象を受けた本でした。著者のリー氏によると1989年にこの物語の着想を得て、長編の草稿を書き上げ、2008年に同じ物語を一から書き直し始めたそうです。当時のことを、謝辞の中で以下のように記しています。

「在日コリアンは歴史の犠牲者であるかもしれないが、一人ひとりからじっくり話を聞いてみると、そういう単純な話ではないとわかったのだ。日本で会った人々の寛容さと複雑な心理を目の当たりにして自分がいかに間違っていたかを知り、それまでの草稿をすべてくず入れに投げ込んで、二00八年、同じ物語を一から書き直し始めた。」(『パチンコ(下)』350ー351ページ)

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 今月、オバマ元大統領の「2024年の夏のお薦め本リスト」(https://www.junglecity.com/news/barak-obama-summer-reading-list-2024/)が公開されました。検索している間に、過去にオバマ元大統領がお薦めした本から、邦訳が出ているものをリストしているサイトを見つけました。

 『パチンコ』は、その中の一つ、「バラク・オバマの推し本【21冊】」(https://www.oshibon.com/barack-obama-books)の中でを見つけました。

 また 「【39冊】バラク・オバマ氏がおすすめした本」(https://booksrecommendedby.xyz/politician/barack-obama/)では、本のリストを見ながら、ジャンルやトピックの広さに驚きました。開発経済学の本、ディストピア小説、SF、回想録、歴史小説、恋愛小説、ミステリー、自叙伝、ルポルタージュ等々に加え、古典的名作や絵本や児童文学も入っています。このリストには『パチンコ』は含まれていないものの、『パチンコ』のように、アメリカ以外の国が舞台になっている本も多くあります。

 2024年8月9日の投稿などで、何度か紹介してきたビショップ氏の[鏡]と[窓]と[ガラスの引き戸](★1)から考えると、自分の外の世界を見せてくれる[窓]がいっぱい!というか、その[窓]の広く開いているリスト!と感じました。

 自分が知らないことが多い地域について学ぶのは、私にはハードルが高いのですが、今回の『パチンコ』のように、「本」という扉からであれば、引き込まれてしまうことが多いです。そこで、オバマ元大統領のこれまでのお薦め本から、そういう観点で自分の「これから読みたい本」を何冊か選んでみました。

 「バラク・オバマの推し本【21冊】」(https://www.oshibon.com/barack-obama-books)より、『西への出口』(モーシン・ハミッド、新潮社、2019年)。パキスタン出身の作家の本で、中東を思わせる、ある街から話はスタートするようです。

 「【39冊】バラク・オバマ氏がおすすめした本」(https://booksrecommendedby.xyz/politician/barack-obama/)からは、以下が気になりました。何しろ、読んでいない本ですから、説明はこのサイトに書かれていたことの受け売りです。

『崩れゆく絆』(チヌア アチェベ、光文社、2013年)は、「アフリカ文学の父」の最高傑作。

『モスクワの伯爵』(エイモア・トールズ、早川書房、2019年)は、1922年モスクワ。革命政府に無期限の軟禁刑を下されたロストフ伯爵が登場し、上流社会のドラマを描く、陶酔と哀愁に満ちた長篇小説。

『低地』(ジュンパ ラヒリ、新潮社、2014年)インドとアメリカを舞台に繰り広げられる波乱の家族史。

『権力と栄光』(グレアム・グリーン、早川書房、2004年)は「共産主義革命の嵐が吹き荒れる灼熱の1930年代メキシコが舞台。

『すべての見えない光』(アンソニー・ドーア、新潮社、2016年)ナチスドイツの技術兵となった少年と、パリの博物館に勤める父のもとで育った、目の見えない少女の物語。

 ★ぜひ、リスト自体をご一覧ください。本当にトピック、ジャンルの広さにビックリで、リストにある、21冊、あるいは39冊のタイトルや短い説明を読んでいるだけでも楽しかったです!

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 私は、お薦め本の紹介を読むのが好きで、読みたい本を見つける上でも、とても役立っているのは、「あすこま」さんのブログです(https://askoma.info/)。フィクション、ノンフィクション、教育関係の専門書、詩、子どもたちにもお薦めできそうな本と、幅広く紹介されていて、私は、ここから、地元の図書館に予約申し込みをすることが多いです。地元の図書館は6冊まで予約ができますが、いつも、予約中の6冊のうち4冊ぐらいが、「あすこま」さんのブログで紹介されていた本です。また、一番、最近、購入した本も、このブログで紹介されていた『犬ではないと言われた犬』(向坂くじら、百万年書房、2024年)でした。

 そう思うと、お薦めリストが身近にあるのは、大きな助けです。

→ 新学期のミニ・レッスンで、「頼りにしているお薦め本紹介リストは?」を扱うのもいいかな?と思います。読みたい本が多すぎる子どもには、「時間を決めて読む」とか「やることの優先順位を間違わないように読む」も必要かも?(苦笑)と思いつつ、『パチンコ(上・下)』に予想外の時間を割いてしまった8月もそろそろ終わりです。

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★1
ビショップ氏の比喩、鏡、窓、ガラスの引き戸については、2024年8月9日、2024年3月9日、2023年8月11日の投稿で紹介しました。

Source: By Rudine Sims Bishop, The Ohio State University. "Mirrors, Windows, and Sliding Glass Doors" originally appeared in Perspectives: Choosing and Using Books for the Classroom. Vo. 6, no. 3. Summer 1990. 

http://www.rif.org/us/literacy-resources/multicultural/mirrors-windows-and-sliding-glass-doors.htm

また英語ですが、ビショップ氏が語っている90秒ぐらいの動画を見つけました。

https://www.youtube.com/watch?v=_AAu58SNSyc


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