2024年6月2日日曜日

詩に誘う「声」と「ヒーロー」と「余白の価値」

  NBAのバスケットボール選手だったコービー・ブライアント氏が、引退の時に綴ったという「Dear Basketball」という短い詩(★1)を、最近、読みました。詩を使って読み書きを教えるというテーマの本(★2)を書いたリンダ・リーフ(Linda Rief) 氏の巻末資料の「(詩の)お薦め」リストの一番最初に、「動画で見れる詩」として紹介されていました。コービー・ブライアント氏やバスケットが大好きな生徒にとっては、もし「詩」というジャンルに多少の苦手意識があっても、「コービー・ブライアント!!」という名前で、「とりあえず」は見て(読んで)みようと思えるかもしれません。

→「見て」と書いたのは、この詩から動画が作られ(★3)、その動画は、2018年第90回アカデミー賞で短編アニメーション賞を受賞したそうです。4分半ぐらいです。

 コービー・ブライアント氏というと、名前の由来が神戸牛だとか、ヘリコプターの事故で若くして亡くなった等ぐらいしか知らなかった私ですが、有名なスポーツ選手が、詩で自分の思いを伝えていることに興味津々で、この詩を読み、動画も視聴し、英語の全文、日本語訳も見つけました。今日はそのプロセスで考えたことや思い出したことを、いくつか記します。

▶︎ すっと入れる詩と「声」のサポートが必要な詩

  丸めた靴下をバスケットボールに見立てて、大きな試合でシュートを打つ姿を想像する幼い頃の描写からスタートしているこの詩は、読みやすい文章を読む感覚で、「詩を読むのだ」と構える(?)暇もなく、読み続けることができました。コービー・ブライアントの名前に惹かれて読み始めた多くの生徒にとっても、「詩」というジャンル自体をあまり意識せずに、読み進められると、結果として「詩」というジャンルのハードルも下がりそうです。また、詩自体がそれほど長くないこともあり、「あ、この箇所、いいなあ」など、読み直しや繰り返して読むことも自然にできそうです。

 他方、たとえ自分のヒーローが書いた詩であっても、読み始めると、難解で読み続けられないこともあると思います。また、最初から、あまり興味が持てなくて、読もう、という気にならない詩もあると思います。

 そういう時には、詩を読み上げてくれる人の「声」が大きな助っ人になりそうです。毎回の授業の最初に、10分程度、詩を使っているアトウエル氏も 授業で詩を読み聞かせる時に、「私が読む時には、できる限りニュアンスが伝わるように、前もって読む練習をします。それは生徒が私の声に乗って詩の世界に入り、その意味するところを私の声から聞き取り、どうやって経験豊かな読み手が詩を理解しているのかを、彼らが観察でいるようにしたいからです」(★4)と述べています。 

 詩を読み上げる人の「声」が、詩との決定的な出合いとなることもあるようです。上で紹介したリンダ・リーフ氏は、長い間、「詩は理解できないし、好きではなく、関わらないのがベスト」と思っていたようです。そんなリーフ氏が詩を大好きなるきっかけは、「声」でした。教え子からのお誘いがあり、お付き合いで出席したという、詩人のウィリアム・スタフォード氏(William Stafford)が詩を語ってくれるというセッション。1時間30分のセッションが、あっという間で、スタフォード氏の声、ことばが、空中に浮いていて、聞いているリーフ氏がそれを受け取り、自分のものにするのを待っている、そんな時間だったようです。リーフ氏は、スタフォード氏が、彼のことばを受け取るように言っているように感じ、それが自分のものになったと記しています(★5)。詩が大の苦手で、仕方なく出席した場で、詩人の語る声に魅せられる--そんなことが起こる!! ことに驚きました。


▶︎ 詩の余白(改行)の価値

 コービー・ブライアント氏の詩(上記★1)を英語でゆっくり音読してみると2分ぐらいでした。詩節の区切りで分けられているので、まとまりで見ていくこともでき、とても読みやすいです。英語の全文を見つけたサイトで、日本語訳が見れるのもわかりました。外国語という点でわかりにくい箇所は、日本語で確認できるので、助かります。ただ、日本語訳を表示にすると、詩節ごとの空白の行が示されていませんでした。先に詩節ごとに区切られた画面を見たこともあり、同じ詩で詩節の区切りがわからないと、読みやすさに大きな差が出るのを感じました。

 そういえば、詩の実践でも有名なアトウェル氏は、「詩は余白(改行も含めて)をうまく使っているので、詩を読み聞かせるときには、生徒が詩自体を見れるようにする(印刷して配る、あるいはスクリーンに映しだす等)」(★6)と記していたことを思い出しました。詩の「余白」は、読む上での助けとなるだけでなく、生徒たちが詩を書くときに使える大きな技の一つとなりますから、自分の目で見て、余白を確認する価値は大いにありそうです。近年、動画(アニメーションなど)で視聴できる詩が増えていますが、動画から入っても、原文があれば、後日、それを音声なしで読み、目で余白を体験するのもいいなと思いました。


▶︎ 文字の黙読以外でも楽しめる詩

 上記のリンダ・リーフ氏の巻末資料で、詩の「お薦め」リストは、以下のカテゴリーになっています。(★7)

Poetry as Video

Online Sites for Finding Poetry and Poets

Button Poetry

Spoken Word Poets

Novels in Verse

Sports Poetry

Eight Random Books I Highly Recommend

 まだ目を通し始めているところで、詳しい紹介はできませんが、「詩を読むとは、印刷された文字を見て、それを分析し、そこで使われている詩の技巧を学ぶ」のではないアプローチが多様にあり、多様なアプローチに対応してお薦めできる作品も多くあるのがわかります。そういえば、TEDトークでも、アメリカの桂冠詩人も務めたビリー・コリンズ(Billy Collins)のような有名な詩人ほか、多くの詩人が登場しています。「生徒が楽しめそうな詩を見つけるためにも、まず、教師が楽しむ」ーーそのための選択肢も多そうです!

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★1

https://www.theplayerstribune.com/articles/dear-basketball

日本語と英語の画面の切り替え方がよくわかりませんが、Googleで日本語画面で上のURLを入れると、この詩の日本語訳が出てきます。私の画面では、詩節の区切りはわかりませんでした。そして、日本語訳の上の方に「To Read in English (Published Nov 29, 2015), please click here.」と書かれていて、hereをクリックすると英語訳に変わります。英語画面からスタートした場合、右上の地球のようなアイコンをクリックして、JPを選び、さらに、バスケットボールから、「親愛なるバスケットボールへ」を選択すると、日本語訳が表示されます。

★2

Linda Rief. Whispering in the Wind: A Guide to Deeper Reading and Writing Through Poetry. 2022年にHeinemann社より

★3

https://www.youtube.com/watch?v=bfiwfx6y6Wg

★4

ナンシー・アトウェル『イン・ザ・ミドル』三省堂 2018年 114ページ

★5 

上記★2の本、2-3ページ

★6 

Nanice Atwell. Side by Side. 1991年にHeinemann社より 90ページ

★7 

上記★2の本 189-191ページ

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