2017年1月21日土曜日

理解するための語彙力と解像度を上げる


思考を深める、とよく言われますが、考えていることをどのような言葉を使って表現するのかということは常に大きな問題です。言語と思考の関係をどのように考えていけば、人に伝わる言葉を生み出せるのかという、表現者にとってたえず大切な問題に正面から切り込んだ本が、梅田悟司さんの『言葉にできるは武器になる。』(日本経済新聞出版社、20168月)です。
  梅田さんは繰り返し「自分の内なる言葉」を持つこと、それを掘り下げていくことが、表現する人として忘れてはならない大切なことだと言っています。

結論から言えば、内なる言葉を磨く唯一の方法は、自分が今、内なる言葉を発しながら考えていることを強く意識した上で、頭に浮かんだ言葉を書き出し、書き出された言葉を軸にしながら、幅と奥行きを持たせていくことに尽きる。64ページ)

コピーライターらしく、主張を簡潔に示した言葉で各節が締めくくられています。「とにかく書き出す。/頭が空になると、/考える余裕が/生まれる。」(91ページ)とか「自分の/可能性を/狭めているのは、/いつだって/自分である。」(134ページ)というぐあいに。何か、私自身に宛てられているような気にさせられる本です。文章を書くことに少しでも苦労したことのある人であれば、その人の内側の苦労を言い当てられたような思いを抱く本だとも言えます。
  『理解するってどういうこと?』の「資料G」には「読書感想文に代わる方法」として「書くことで考えたことを共有する方法」「描くことで考えたことを共有する方法」「話し合うことで考えたことを共有する方法」「演じることで考えたことを共有する方法」があげられています。読みっぱなしにせず、読むことが好きになって、読む力がついていくための方法があげられているのですが、梅田さんの方はそのときに読者の「内なる言葉」を「外」に出す知恵をたくさん示しています。
  感想を話し合うにしても、感想文を書くにしても、その「自分の内なる言葉」を言葉にできるかどうかが鍵となります。「自分の内なる言葉」を豊かにしていくということはもちろん大切なことです。これがなければ先に進むことができません。
  一つ一つの言葉がいちいち心に響く本なのですが、それはたとえば次のような考えでつらぬかれているからなのでしょう。

大切なのは、内なる言葉の存在をはっきりと認識し、内なる言葉の語彙力と解像度を上げることである。その上で、外に向かう言葉を鍛える方法を知ることにこそ意味がある。
  話すべき内容である自分の思いがあるからこそ、言葉は人の心に響いたり、人の気持ちを動かすことができるようになる。どう言うか、どう書くかではなく、自分の気持ちを把握した上で、自分の意見をどう伝えるか、どう書ききるか、でなければならない。145ページ)

「自分の意見をどう伝えるか、どう書ききるか」? そのために「言葉のプロが実践する、もう1歩先」とはどのようなものなのか。その見出しだけを引用させていただきます。
   たった1人に伝わればいい〈ターゲッティング〉
   常套句を排除する〈自分の言葉を豊かにする〉
   一文字でも減らす〈先鋭化〉
   きちんと書いて口にする〈リズムの重要性〉
   動詞にこだわる〈文章に躍動感を持たせる〉
   新しい文脈をつくる〈意味の発明〉
   似て非なる言葉を区別する〈意味の解像度を上げる〉

それぞれがどういうことなのかということについては、本書(204ページ~252ページ)をお読みください。たとえば、①では「平均的」な読者というものは存在しないという言葉に納得し、たった一人に向けて書きながらも、そのことを対象化していくことが重要だという言葉に納得しました。⑤の「動詞にこだわる」で彼が言っているのは、「体験の幅」を広げることで、「内なる言葉」を伝えるための「動詞の幅」が広がる、ということです。また⑦では、「意味の解像度を上げる」ために、たとえば「解消と解決」「性質と本質」等の「似て非なる言葉を区別する」ことが必要だ、とも書かれています。
  これらは、コピーライターという言葉のプロだからこそ気づくことのできることなのかもしれませんが、本書に示されている〈方法〉を使ってみることで、本を読みながらたくさんの「自分の内なる言葉」をたくわえることができるようになり、それらを人に伝えられるようになるのではないでしょうか。それは、日常の諸事をより鮮明に「わかる」ようにするための処方箋でもあります。

 

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