2016年11月18日金曜日

「良い質問」を生み出すことを支援するテクノロジー

 『〈インターネット〉の次に来るもの:未来を決める12の法則』(ケヴィン・ケリー著/服部桂訳、NHK出版、2016年)という刺激的なタイトルの本を読みました。原題はINEVITABLE。「不可避」という意味ですね、
 広範で動きの速いテクノロジーが次の12の力を増幅させることになり、それ不可避なことだと書かれてあります。
・ビカミング(なっていく)
・コグニファイイング(認知化していく)
・フローイング(流れていく)
・スクリーニング(画面で見ていく)
・アクセシング(接続していく)
・シェアリング(共有していく)
・フィルタリング(選別していく)
・リミクシング(リミックスしていく)
・インタラクティング(相互作用していく)
・トラッキング(追跡していく)
・クエスチョニング(質問していく)
・ビギニング(始まっていく)
 この本では、この12の力の一つ一つを豊富な例を引きながら論じて、〈インターネット〉以後のテクノロジーの変化が、人間に何がもたらされるのかということがくわしく示されていきます。人間の読書行為に関心がある私は「スクリーニング(画面で見ていく)」が考察されている章をとくに面白く読みました。従来行われてきた読書は、紙媒体の本の「スクリーニング」だという捉え方になります。そのように考えることで、タブレット端末や電子書籍での読書を従来の読書とのつながりで捉えることができそうです。電子的でない「スクリーニング」が従来の読書であると。でも、「本を読むこと」と「スクリーニング」はどこが違うのか。著者のケリーは次のように言います。
 本は熟慮する心を養成するのに良いものだった。スクリーンはより実用的な思考法向きだ。スクリーンで読んでいて新しいアイデアや聞きなれない事実に出合うと、どうにかしようという気にさせられる――単に熟慮するのでなく、その用語を調べたり、画面に現れる友人の意見を訊いたり、違う観点を見つけたり、ブックマークを付けたり、インタラクティブにやり取りしたり、ツイートしたりする。読書する場合には、じっくりと脚注にまで目を通すことで、物事を解析する力が養われた。スクリーンを読む場合は、すぐにパターンを作り、あるアイデアを他のものと結び付け、毎日のように現れる何千もの新しい考えに対処するやり方を身につける。スクリーンで読む場合はリアルタイムの思考が育成されるのだ、映画を鑑賞しながらそのレビューを読んだり、議論の途中ではっきりしない事実を調べたり、ガジェットを買う前にマニュアルを読むことで、買って家に帰ってから後悔しないようにしたりする。スクリーンは現在を扱うための道具なのだ。(『〈インターネット〉の次に来るもの』137ページ)
 ネットワークにつながれたスクリーンを見つめる者はそのことを通して断片を積み上げ(結びつけ?)自分たちの神話をつくり出すのだと著者は言っています。読書も「スクリーニング」の一部かもしれませんが、読書対象がネットワーク化されるなら、それを覗き込むことは「リアルタイムの思考」をつくり出さざるをえません。このあたりに、紙媒体の本が生き残る余地があるように思いますが、どうでしょう? 熟慮したい時に限って、紙媒体の本を選んで読む、ということになるのかもしれません。同じ作品でもスクリーンで読む時と紙媒体で読む時とでは読み方が違ってくるのかもしれません。そして貪欲な私たちはその両方を必要とするのかもしれません。
 『理解するってどういうこと?』で繰り返し示されている七つの「理解するための方法」(関連づける、質問する、イメージを描く、推測する、何が大切かを見極める、解釈する、修正しながら意味をとらえる)と、ケリーの言う「12の力」のいくつかは重なっています。しかし、決定的に異なっているのは、「理解するための方法」が理解するために熟慮する、つまりじっくり考えるためのものであり、対象をわかろうとしてもがいて知的な発見をするためのものだということです。
 著者のケリーは、「良い質問」とは何かということを次のように書いています。
良い質問とは、正しい答えを求めるものではない。
良い質問とは、すぐには答えが見つからない。
良い質問とは、現在の答えに挑むものだ。
良い質問とは、ひとたび聞くとすぐに答えが知りたくなるが、その質問を聞くまではそれについて考えてもみなかったようなものだ。
良い質問とは、思考の新しい領域を創り出すものだ。
良い質問とは、その答えの枠組み自体を変えてしまうものだ。
良い質問とは、科学やテクノロジーやアートや政治やビジネスにおけるイノベーションの種になるものだ。
良い質問とは、探針であり、「もし~だったら」というシナリオを調べるものだ。
良い質問とは、ばかげたものでも答えが明白なものでもなく、知られていることと知られていないことの狭間にあるものだ。
良い質問とは、予想もしない質問だ。
良い質問とは、教養のある人の証だ。
良い質問とは、さらに他の良い質問をたくさん生み出すものだ。
良い質問とは、マシンが最後までできないかもしれないものだ。
良い質問とは、人間だからこそできるものだ。
(『〈インターネット〉の次に来るもの』380~381ページ)
 未来のテクノロジーを扱ったかのように見える本なのに、面白いことに「良い質問」が「人間だからこそできるもの」だという考えで貫かれています。「良い質問」をつくることは人が何かを理解するための重要な方法でもあります。ケリーも言っているように、私たちの「未来」を一人ひとりにとってよりよいものとしてくれるのは、私たちの代わりに「質問」をしてくれるテクノロジーではなくて、「良い質問」を生み出すことを支援するテクノロジーなのだろうと思います。『理解するってどういうこと?』には「良い質問」がたくさん示されています。そういう「良い質問」を生み出すことを支援するテクノロジーとはいったいどういうものなのか? 知的な探究のできる人を少しでも多く育てようとするなら、この問いをみんなで考えていかなければなりませんね。

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