北海道の私立中学校で国語を教えている江刺家先生が実践紹介を送ってくれました。
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国語の授業を続ける中で、言語活動はどこか「強制」を感じることがありました。生徒にとっても、教師にとっても楽しさを感じにくい場面がありました。自分の授業をもう少し自由に、創造的なものにしたいという思いが次第に強くなっていきました。
『最高の授業』で紹介されているスパイダー討論や『たった一つを変えるだけ』で紹介されている質問づくりの研究や実践を通して、「学びを自分たちで創り出す」という経験に出会えたことが転機になりました。これを国語でも活かしたいと考え、作家の時間(=ライティング・ワークショップ、以下WWとする)に関心をもつようになりました。WWは、大人が好むいい作品を書かせることではなくて、よりよい書き手/生涯にわたって書き続ける書き手/自立した書き手・考え手・発表者・探究者/読み手を意識した書き手を育てることを大切にした実践です。この考え方は、自分が求めていた国語の方向性と重なっていました。
従来の国語の授業では、文章の書き方の説明が教師からの一方的な説明であることが多く、文章を創る時間が足りない、生徒が書きたくなるようなテーマではない、強制的に書かせるなどの課題がありました。これらを以下のような形で乗り越えることができます。
・WWでは、生徒一人ひとりのアイディアや思考の過程、表現の工夫を尊重することができます。→あらかじめ用意されている問いに答える活動ではないので、生徒自身が自由に発想することができます。登場人物や場所、出来事、テーマ、表現技法なども全て生徒自身が選択します。どこから手をつけるのかも自身で選択することができるのです。
・時間をかけて集中し、自分の言葉で世界を描こうとする姿が見られるようになります。→書くための時間を授業で確保することで、粘り強く考えることができるようになります。実際に出版されている本や先輩方の作品集をじっくりと読み、自分の好きな形で表現しています。
・生徒が自分と向き合い、他者の作品を楽しむ時間が生まれたことも大きな変化でした。→製作途中で仲間とお互いの下書きを交流する場面では、仲間の新たな面を発見したり、自分の作品と対比したりすることで、楽しみながら自分の視野を広げることができました。
授業では、教師が全体を導くというよりも、生徒がそれぞれのペースで学びを進めていきます。最初の10分ほどは、前回の振り返りとミニレッスンを行います。ミニレッスンでは、構成の工夫や描写の方法など、その日のテーマに沿って短く書き方のヒントを提供します。生徒はそれを自分の課題に重ね合わせながら、「今日はここを直してみよう」「この場面をもう少し膨らませよう」と考えを整理していきます。
その後、それぞれが自分の好きな場所に移動し、書く時間に入ります。机に向かう生徒、窓際でノートを開く生徒など、姿はさまざまです。
教師は教壇には立たず、生徒のそばに移動して一人ひとりとカンファランスを行います。今どんなことを考えているのか、どこで悩んでいるのかを問いかけながら、一緒に言葉を探していきます。アドバイスというよりも、対話の中で生徒自身の考えを形にします。そうしたやりとりの積み重ねが、教室全体に落ち着いた集中の空気を生み出しています。生徒が自分のペースで書き、考え、振り返る。その時間そのものが、WWにおける「学びとしての書く時間」になっています。
実践を重ねる中で、次のような変化が生徒たちに見えてきました。
書く時間と書くための読む時間を意図的に多く設けたため、参考にするために本を探している中で、お気に入り作家に出会ったり、物語自体の素晴らしさを体験したりして、国語や読書が好きになった生徒が増え、読む冊数も増加しました。
仲間同士の共有の時間やカンファランスの時間が設定されていることでメモや下書きなどを褒められることにより、自信をもち、書くことへの苦手意識が薄れ、自分の考えを表現しようとする姿が見られるようになりました。中には、放課後も文章を書き続けたり、友人同士で作品を見せ合ったりする生徒もいます。書くことを通して自分を理解し、他者の表現を尊重する学びが生まれています。
これらを実現するために、教師サイドが努力したことは、以下の4つです。
①まず、毎回のミニレッスンで、書くための具体的なスキルや構成の工夫などを短く示します。生徒が「どう書くか」を自分の課題に照らして考えられるようにするためです。
②そして、十分に時間を確保し、落ち着いて書くことに集中できる環境を整えます。「書くための時間」を保障することを大切にしています。
③書く過程では、考えを可視化することを重視しています。ノートや記録用紙に構想や疑問を書き出し、教師や仲間と共有することで、アイディアが広がります。カンファランスでは、生徒の良さや可能性を引き出す対話になるよう心がけています。作品の表現や意図を一緒に確認しながら、「なぜそう思うのか」「どんなふうに伝えたいのか」を対話の中で整理していきます。相手の良さを認め合い、互いの表現から学び合うことを大切にしています。
④また、活動の終わりには作品集を出版し、互いの作品を読み合う時間を設けています。生徒は他者の表現を通して、自分の文章の新たな可能性を発見します。
WWに取り組む目的は、「本物の作家になる体験を通して、自立した書き手を育てること」です。生徒が自分の言葉で思考し、表現し、共有することで、文化的な成長や民主的な学びにつながっていくと感じています。その可能性を、日々の教室の中で実感しています。WWを通して、私自身もまた、書くことの意味を問い直しながら授業を続けています。
参考文献: ①『イン・ザ・ミドル』、②『読書家の時間』、③『ライティング・ワークショップ』、④『国語の未来は「本づくり」』
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