今は公立中学校で終えている教職13年目のリー・アン・エック先生が、アンカー・チャートは小学校でも中学校でも効果的であることを書いてくれているのを見つけたので紹介します。彼女は、生徒たちが本と出会うこと、そして教師たちが「自分も書き手だ」と信じられるようになることに情熱を注いでいます。読書・作文・授業にまつわる日々の実践を、ブログhttps://adayinthelifeof19b.blogspot.com/ とX(@Teachr4)で発信しています。
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私は子どもたちを教室の前のミーティングエリアに集め、「人物描写(キャラクターの成長)」についてのミニ・レッスンを始めました。
「今日は、作家がどのようにして登場人物を描いているのか、そして私たち読者がどのようにしてその人物について知っていくのかを見ていくよ」と子どもたちに伝えます。
そして、ロイス・ローリーの『カラス笛を吹いた日』(BL出版)を読み始めました。
最初の数ページを読んだところで、私はこう尋ねました。
「今、どんなことを考えた?」
するとエイデンが言いました。
「なんで彼女(主人公)は、“パパ”って言う練習を自分に向かってしなきゃいけないんだろう? “パパ”って言うのが怖いみたい」
彼は少し考えてから、こう付け加えました。
「だって彼女はそれを声に出して言っていないで、心の中で考えているだけだから」
私はうなずいて言いました。
「なるほどね。つまり、作家は登場人物の“心の中の考え”を通して、その人物のことを描いているということだね。それをアンカー・チャートに書き加えよう」
私たちは読み聞かせを続けながら、登場人物がどんなふうに読者に伝えられているか、他の方法を探していきました。
――こうした光景は、私の小学4年生の教室ではよく見られるものでした。
私は読み聞かせやお手本となる本(メンター・テキスト)を使ってミニ・レッスンを行い、子どもたちと一緒にアンカー・チャートをつくっていました。
ところが中学校に移ったとき、私はこの慣れ親しんだ実践を見直すことになりました。
「中学校の先生たちもアンカー・チャートを使うのだろうか?」
「中学生はアンカー・チャートを“子どもっぽい”と思わないだろうか?」
「それでも効果的な学びのツールになるのだろうか?」
その答えを見つけるのに、時間はかかりませんでした。
目的やねらいは小学校のときと同じですが、アンカー・チャートのつくり方は少し変わりました。
先日、ある中学生が一人で課題に取り組みながら、ふとアンカー・チャートを見上げているのを目にしました。
そのとき、私は改めて実感したのです。――どんな学年の教室でも、アンカー・チャートは大切な存在なのだと。
●アンカー・チャートとは何か?
アンカー・チャートとは、授業や学びを支えるためのツールです。
ミニ・レッスンの最中に、教師と生徒が一緒にチャートをつくっていきます。ふつうは大きな模造紙にマーカーで書き込みますが、私は生徒の作品や例を加えるために付せんや事前に用意した文章カード(センテンスストリップ)を貼り足すこともあります。
アンカー・チャートにはいくつかの種類がありますが、私が中学校の教室でよく使っているのは次の3つです。
①手順チャート
②方法チャート
③リストチャート
このうち、「手順チャート」(写真①を参照、訳は一番下に★1)は、要約文の書き方や中心となる考えの書き方など、スキルをいくつかの小さなステップに分けて示すものです。
「方法チャート」(写真②を参照、訳は一番下に★1)は、少し複雑なスキルを身につけるときに役立つ“方法”をまとめたチャートです。たとえば、作家がどのように登場人物を描いているかを見つける方法や、説明文に詳しい情報を加える方法などを一覧にしたものが「方法チャート」の例です。
最後の種類は、私が「リストチャート」(写真③を参照、訳は一番下に★1)と呼んでいるものです。たとえば、複文★2や重文についての授業をしたあとに、従属接続詞や等位接続詞を一覧にまとめたチャートをつくることがあります。
このときのチャートでは、以前の学年で学んでいる重文の復習もしました。
生徒たちには付せんに自分の考えた重文の例文を書かせ、授業のたびにそれをチャートに貼り足していきました。
アンカー・チャートの基本的な目的は、「読む力」「書く力」を支えることにあります。★3
私は、生徒たちが教室の壁に貼ってあるチャートを見返しながら、自分の力で学びを進めていけるようになってほしいと願っています。+
授業でアンカー・チャートのような学びのツールを使うときは、「なぜそれを使うのか」「どうすれば効果的に使えるのか」をしっかり理解しておく必要があります。
小学校から中学校に移ったとき、私は生徒たちが中学生になってもアンカー・チャートを必要としていることを実感しました。
アンカー・チャートには、次のような効果があります。
- 学びの過程を支える
- 生徒の考えを「見える化」する
- 学びへの参加意欲を高める
- 自分の成長をふり返る力を育てる
- 自立した学びを促す
- 学びへの主体的な関わりを生み出す
- これまでの学びと今の学びをつなげる
●アンカー・チャートのつくり方
小学校の教師だったころ、私は授業中に子どもたちと一緒にアンカー・チャートをつくっていました。
子どもたちの発言を書き込み、その横に名前も添えました。すると子どもたちは自分の考えがチャートに残ることを喜び、学びに主体的に関わるようになりました。こうした方法は、20〜25人ほどの少人数クラスではとても効果的でした。
けれども、中学校に移ると状況が変わります。1日6クラス、100人を超える生徒を相手に、どうやってこれを実現すればいいのでしょう?
私はいくつかの方法を試してみました。どの方法もそれなりにうまくいきましたが、扱いやすさには差がありました。
最初は、小学校のときと同じように、クラスごとに紙のチャートをつくり、生徒の名前も書き込みました。
そして1日の終わりに、各クラスで出た共通の考えや発言をまとめ、全員の名前を載せた「最終版チャート」をつくりました。
次に試したのは、チャートを写真に撮り、それをコピーして「ミニチャート」として生徒のノートに貼らせる方法です。
こうすると、クラスごとのチャートも残せますし、教室には全体のチャートを掲示することもできます。
どちらの方法も効果はありましたが、正直に言えば、準備や整理にとても時間がかかりました。
今では、各クラスでホワイトボード上にチャートを一緒に書き、その授業の終わりに写真を撮っています。
そうすると、すべてのクラスの考えをあとで見比べることができ、共通点もすぐに見つかります。
そして1日の終わりに、それらをまとめた紙のチャートをつくり、教室に掲示します。
私は、中学校でもアンカー・チャートは大切で、十分に効果があると信じています。
もしその効果を疑いそうになったときは、ある光景を思い出します。
― チャートがかかっていた壁の空いた場所をふと見上げて、少しうなずき、それから再び黙々と学びに戻る生徒の姿です。
それこそが「自立した学び」であり、アンカー・チャートを使うことの成功を示す瞬間なのです。
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前回(10月10日)と今回のエック先生の実践紹介から、アンカー・チャートの効果を納得していただけたと思いますが、その効果を整理すると以下のようになります。
・responsive teaching (https://projectbetterschool.blogspot.com/2025/09/responsive-teaching.html)を実現している教え方です。つまり、教師主導ではなく、生徒主導に近い教え方です。それは、ナンシー・アトウェルの言葉を使えば、「教える論理」よりも「学ぶ論理」を重視した教え方といえます(『イン・ザ・ミドル』の第1章参照)。
・板書のその場限り/一度きり(ないしバラバラぶつ切り)の学びではなく、アンカー・チャートは継続的で、付け足すことはいつでも可能で、みんなの力で完成させていく媒体です。子どもたちは学び方も学ぶスピードも異なるので、必ずしも教師が板書したタイミングで学んでくれるとは限りません。板書のように学びや知識がすぐに過去形にならず、現在進行形で長く続く学びを可能にしてくれます。
・ひょっとしたら、エネルギーの使い方が間違っているかもしれない板書/ノート指導ではなく、生徒が参加できる形で(より身につきやすい)学びを可能にするのがアンカー・チャートです。
・板書は「正解ありき」の学習法と言えると思いますが(ある意味で、テストの正解が全部書き出されるのですから!)★4、アンカー・チャートは教師と生徒が協力してつくり出す学びの方法で、構成的な学びの理論がその学びの効果を裏づけています。つまり、学習するとは他の誰かの知識を覚えることではなく、理解したり身につけたり、できるようになったりするには、一人ひとりが自らの意味や方法をつくり出す/考え出すのだというものです。
・教師はもはや「あれ黒板に書いたでしょ。覚えてないの?」★4という必要はなくなります! 大事なことは、アンカー・チャートに書かれていて、いつでも見ること/戻ることができるからです。
出典:https://choiceliteracy.com/article/anchor-charts-a-tool-for-every-classroom/
動画: https://www.youtube.com/shorts/h63Y_DHOgNE
https://www.youtube.com/watch?v=poow60rO6OQ
★1 3つのアンカー・チャート(写真)の訳:
①
要約作成の手順
- 文章を読む。
- 重要な語句(キーワード)を抜き出す。
- 概念図(コンセプトマップないしマインドマップ)を描いて情報を整理する。
- 各セクション(段落)の主要な内容を一文にまとめる。
- 全体を包括するトピックセンテンス(主題文)を加える。
- 文法や表現をチェックする。
②
情報を伝える文章(説明文)に具体的な詳細を加える方法
・ 例(実例)を提示する
・ 引用(専門家の発言や文献など)を使用する
③
重文(Compound Sentences)
2つの独立した文章を、コンマ(,)と接続詞でつなげたもの
代表的な接続詞(FANBOYS)を使って、2つの文章をつなげます。
F ・・・ なぜなら
A ・・・ そして
N ・・・ 〜でもないし、〜でもない
B ・・・ しかし
O ・・・ または
Y ・・・ にもかかわらず
S ・・・ だから
★2 複文は、1つの「主節(メインの文)」に、従属節(理由・条件・時間などを表す節)がくっついた文で、「〜だから〜する」「〜するとき〜する」など、1つの文がもう一方を説明するような構造があります。
★3 国語以外の、他教科でもアンカー・チャートは効果的です(特に、小学校段階では)!
★4 これらから、板書やノート指導はテストのために暗記する/覚えるための手段であることが明確になってきます。それは、最初から身につけることやできるようになることは、ほとんど期待していないことも(このやり方では、それは実現できませんから)!



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