2022年9月2日金曜日

改訂版『読書家の時間』を読んで

 兵庫県の小学校の先生の北元さんが、以下の感想文を送ってくれましたので、紹介します。

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  夏休みの読書として、『読書家の時間』『ようこそ一人ひとりをいかす教室へ』『あなたの授業力はどのくらい?』『社会科ワークショップ』の並行読書に挑戦してみました。

現在読み終えたのは、『読書家の時間』『ようこそ一人ひとりをいかす教室へ』の2冊ですが、どの本にも共通していたことは、「子ども一人ひとりの学びを保障する」「どの子にも、その子らしさを伸ばすことができるのであり、それを手伝うのが教師の仕事だ」ということです。

その中から、今回は『読書家の時間』についての感想を書かせていただきます。

 PLC便りやWWRW便りで紹介されている本は、どの本も「読んでよかった」「これも読んでみたい」と思うものばかりですが、この本も、お薦め1冊です。

 この本には、「読書家の時間」とは何か、進め方、その効果が具体的な例とともに書かれています。

「そうそう、そういう子どもはいます。そんなとき、どうされたのですか?」という疑問にも、余すところなく実践例で答えてくれています。目の前の子どもたちと試行錯誤しながら作ってこられたフレームだということがよく分かり、とても信頼できる1冊だと思いました。

紹介されている子どもの姿に、強く憧れます。こんなことをしてあげることができたら、きっとその子は充実するだろう、とわくわくします。同時に、これまで担任してきた子どもたちのいろいろな姿を思い出すと、申し訳ないことをしてきた気にもなります。

具体的な足跡の言葉から、「やってみよう」「自分にもできるかもしれない」と実践への意欲が湧いてきます。等身大の豊富な具体例は、この1冊をバイブルに『読書家の時間』に取り組むのに十分な情報です。


しかし、この本はいわゆるハウツー本ではありません。

教科を問わず、「一人ひとりを育てる」「自立した学び手を育てる」大切さを考えさせてもらえる本です。この本では、国語を切り口として語られているだけです。

これまで、私は国語の学習で教師や指導書の解釈を子どもに押し付けるような読解授業は避けてきたつもりです。

たとえば、1学期の6月から臨時担任をした2年生の『スイミー』では、(校内事情のため、急遽2か月間限定の担任)「質問づくり」を取り入れ、学級みんなの共通問題をつくり、話し合いました。また、共通問題の設定にいたるまでは、5時間ほどの独自学習(一人読み)の時間をとり、音読、自分の?を調べ、文章との対話を書き込むなどの学習に取り組んでもらいました。

独自学習では、作品に出てくる海の生き物を図鑑やタブレットで調べてノートに絵を描いたり、文中の言葉から感じたことを教科書やノートに書き込んだり、各自が自分の方法で読むことを楽しめていたと見ていました。

共通問題作りも、各班でワイワイガヤガヤと意欲的に考えていました。共通問題についての話し合いも、自分の理想の姿には遠いものの、「もっとやりたい」という声も出るなど、それなりに主体的に、少しは深く学べた感じもしていました。『スイミー』を学習した後は、レオ・レオニさんの他の作品を自由に2時間読みました。

『スイミー』のような文学教材だけでなく、説明文教材も、大筋としては似たような形で、教科書の作品を共通教材として扱ってきました。まれに、教科書の代わりに自分で選んだ作品を扱うこともありましたが、共通教材であることには変わりありません。

私は、同じものをみんなで見ないと、「ああでもない、こうでもない」という議論や深まりが得られないと考えていました。一つの事でも、その子によって見方・考え方やアプローチの仕方、感性の働かせた方が違うことが発見できます。そのことが、教師の児童理解の広がりや深まりになり、子ども同士のよさの認め合いにつながると考えていました。

 

ところが、『読書家の時間』は違います。一人ひとりが自分に適切で必要な本を選んで読みます。なぜ、こんなに手間暇のかかることをするのでしょうか。

それは、一人ひとりに「読む力」をつけたり、読書生活をとおして自分の世界を広げる生活を身に付けさせり、互いのよさを見つけ、認め合ったりするためだ、と私は、理解しています。

今までの国語の指導の仕方では、一人ひとりに本当に「読む力」がついたのか、見取ることができていません。「本を読む」という行為が、その子の成長にとってプラスになっているのか、どういう働きをしているのかなど、まったく見えていませんでした。見ようという視点すらもっていませんでした。

一人ひとりの「読む力」や「読書生活」に、1年間をとおして継続的に丹念に指導と評価を繰り返していく『読書家の時間』こそ、まさに、学習指導要領に謳われている「社会に開かれた教育課程」であると思いました。子どもたちに、読む力と読む力を自分で伸ばす方法、読むことの価値について教えてくれるフレームワークだからです。

学習指導要領では、「指導と評価の一体化」も強調されています。本書には「本当の評価とは、自分の目標に近づくための助けであるはずですので、子どもにとっても教師にとっても楽しいものでなければなりません」と書かれています。本当にそのとおりだと思いますが、こんな当たり前のことが実はできていません。

それは、一人ひとりをいかす/育てるのが教育であるという認識が、私に欠けていたからだと思います。

「楽しい授業」「よい授業」(「楽しい」や「よい」の定義も必要でしょうが)をすればよいと思っていた私。教科書「で」教えるといいながら、教科書の呪縛から解き放たれていなかった自分。『読書家の時間』は、そんな自分を映し出してくれる1冊でした。

「壇上の賢者から伴走者へ」「心理的安全性からはじめる」等、本書にはこれまの自分の痛いところをつく言葉が随所にありました。裏返せば、私にとって、教師のはたらきとは何か、教室にはいかなる文化が必要かを見直させてくれる貴重な1冊にもなったということです。

 

私は、今年度は担任をしておりません。6年の理科の教科担任として授業があるだけです。6年生は4クラスです。大規模校の中ですぐにワークショップ形式の学習を取り入れることは、難しいと思います。

次年度、担任になったとしても4~6クラスある学年の中で、いきなり『読書家の時間』を始めることも、単学級や2クラスの学校とは違い、決して簡単ではありません。しかし、大切なのは、方法ではなく「一人ひとりをいかす/伸ばす」ことだと思います。そのために何ができるか、思い切って変えられる方法があるのではないか、ということを学年のスタッフや管理職と考えていく必要があると思います。

理科は、自分に任されていますので「一人ひとりをいかす/伸ばす」指導のフレームワークを試行錯誤しながらつくってみたいと思います。

 

『読書家の時間』のような、教育の本質を問う著書を、執筆、出版、紹介してくださる方々に本当に感謝します。並行読書している『社会科ワークショップ』や『あなたの授業力はどのくらい?』も早く読み終えたいです。

『読書家の時間』は、これまで読書や児童書にあまり関心がなかった私に「本を読みたい!」いう気持ちを起こさせてくれました。本書に紹介されている絵本や児童書を今はよみたくてうずうずしています。時間に余裕のある夏休みが終わってしまうのが、残念です。

これまでの学習指導や評価に、何かひっかかりを感じておられた方、国語や読書にあまり関心のなかった方、『読書家の時間』を読まれることをお薦めします。

購入希望者への割引情報: https://wwletter.blogspot.com/2022/06/blog-post_24.html

 

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