2022年7月30日土曜日

新学期最初のライティング・ワークショップ 〜高校の英語授業の場合〜

(★ 時々、投稿をお願いしている吉沢先生に、今回、以下を書いていただきました。)

ライティング・ワークショップを、高校の英語の授業で取り組むようになって数年になります。新学期、「私の授業では『書く』ことを中心に進めます。」と言うと、生徒たちは悲しそうな表情で、押し黙ってしまいます。何人かに聞いてみたり、アンケートをとったりして、生徒たちが「書く」ことについて次のように思っていることがわかってきました。

・書くことは面倒くさい。

・書くことは難しい。まして、英語で書くなんて。

・書きたいことなんかない。

このような生徒たちに対して、 ライティング・ワークショップをどのような手立てで始めればよいのでしょうか。今回は、新学期のスタートの授業をどのように組み立てるかについて、私の実践を紹介します。


<意図していること>

新学期、授業をスタートするにあたり、私は次の5つのことを意図して授業を組み立てます。

1. 前置きの説明をしない

ライティング・ワークショップの意義や進め方についての一般的な説明はしません。生徒はまだ、それを体験していないのです。まずは、体験させることが大切です。そして、授業が進んでいく途上で、どのような意義があるのか、どのような心構えが大切かといった説明をはさむようにしています。

2. スモール・ステップで進む

書くために必要なさまざまな作業を、細かいスモール・ステップに分けて、一つずつ進むようにします。

3. 「書くサイクル」を体験させる★1

何を書くかについてブレーン・ストーミングをし、構想を練り、下書きをします。

書きながらカンファレンスを受け、仕上がったものを修正して、さらに良い作品にします。そのプロセスの中で、クラスメイトと共有する活動もします。

4. とにかく「書けた!」という体験をさせる

英語で書くのは難しいことです。あるまとまった分量の文章を、生徒自身が「私も書けた!」と実感することを大切にします。

5. 英文を組み立てる手がかりを与える

これは、英語の授業に特徴的な項目です。英文を組み立てる知識・技能が不足しているために、生徒たちは「書けない」という思いにとらわれています。それを手助けする工夫をします。しかし、それはあくまでも手がかりであって、一朝一夕に書けるようになるわけでもありません。そこを励ましていくことも大切です。


<何を書くかについて>

ライティング・ワークショップでは、書く内容は生徒自身が決めるのが原則ですが、私は新学期の最初については、ある緩やかなトピックを与えることを試みてきました。英語という外国語で書くことを考えると、まずは、高校生の英語力で書きやすそうなトピックでやらせてみるのが良いのでは、と考えたのです。

ただし、それは生徒たちの思考を刺激し、しかも楽しく取り組めるものである必要があります。

一昨年、昨年と私が行っているのは、「私のお気に入りスポット」です。★2 「みなさんの住む地域や学校の周辺などで、お気に入りの場所はありませんか?」と投げかけます。よく訪れる、景色が良い、そこに行くとホッとする、有名ではないが人に薦めたい・・・といった場所です。普段そんなことを考えたことがない生徒たちは、はじめキョトンとしていますが、考えを巡らせているうちに、ノートにリストアップして作業に入り込んでいきます。


<最初の8時間>

私が行うライティング・ワークショップは、多くの場合、週2コマ(1コマ50分)です。その限られた時間をどう使ったかを紹介します。

▷第1時間目 

「私のお気に入りスポット」と板書し、私自身の例を話します。まず、教師自身が本当に自分の気に入っている場所について話すこと。これが導入に欠かせません。

それを受けて、ノートに、思い当たる場所をリストアップするように言います。いくつか書けたところで、イメージ・マップを描かせます。ノートの真ん中に円を描きその中に選んだ場所を入れ、思いつく言葉を周囲に書いて、広げていくのです。★3

気楽に取り組ませることが大切です。頃合いを見て、ペア活動をします。お互いにイメージ・マップを見せ合って話をするのです。教室が会話でにぎわいます。

次に、文章に書こうと思う項目を選び出し、ノートに書き出すように言います。箇条書きでかまいません。これを「アウトライン」と名付けておきます。

ここまでできたら、次は英語で下書きを書くステップに移ることを予告して授業を終わります。

▷第2〜3時間目

前回の授業で行なったプロセスを簡単におさらいしてから、「主語は何か」についてのミニレッスンをします。日本語では、主語を省略することがよくありますが、英語では必ず主語をおきます。日本語では「お腹すいた」で通じますが、英語では I am hungry. です。いくつかの日本語の例文を出して、英語でどう言うか考えるエクササイズを行います。このエクササイズをしたからと言って、すぐに完璧に使えるようになるわけではありませんが、英語を書き進める時に意識すべきポイントを教えておくのです。

英語で書くにあたって、「自分の知っている単語を並べて、わからないところは空けておいていいですよ」と言います。とにかく、ちゃんと書かねばならないというプレッシャーを与えないようにします。

書けた人から個別にカンファレンスをします。カンファレンスのポイントは2つ。1つは、書かれている中身について、「面白そうですね」「よく分かります」などの反応を返すこと。もう1つは、英語面でつまずいているところを指摘することです。口頭で説明したり、ノートに書き込んだり、黒板に書いて見せたりします。

3時間目の終わりには、下書きを提出してもらいます。

▷第4時間目

「私のお気に入りスポット」というトピックで書かれたモデル作文を2編、読ませます。過年度の生徒の作品をストックしておき、そこから細部が書き込まれている作品を選びます。生徒たちの書く下書きの多くは、「私のお気に入りスポットは〜です。そこには….と….があります。」といった内容でほぼ終わっています。取りかかりとしてはそれで良いのですが、それをどう肉付けしていくかという課題が次にあります。モデル作文はその一助となります。

また、生徒に英語にふれるチャンスを作り、英語の表現を身につける一助とするという側面もあります。音読は必ず行います。そのことは、ひとときの気分転換にもなるでしょう。

「修正する」という取り組みの意義を伝えます。「書いて、提出して終わり。」というパターンに慣れ親しんだ生徒にとっては、「書き直す」という言葉を聞いただけで抵抗感を感じる生徒もいるかもしれません。「何度でも書き直し、そのたびに良くなっていくことが学びです。」と、励まします。生徒たちは第2稿の作成にとりかかります。

▷第5時間目

生徒の書いた下書きから、2〜3編を選び紹介します。下書きをチェックした時に目星をつけておくのです。「具合的な地名が入っていますよね」「自分がどんな気持ちだったかが書かれているのがいいですね」といったコメントを伝えます。クラスメイトの作品が紹介されることは、他の生徒たちにとって刺激になるようです。

このあたりから、カンファレンスは、内容面でのアドバイスが多くなります。「ここがもっと詳しく知りたいですね」「この場所のイメージが具体的にわかるといいね」といった感じです。もちろん、それに伴って、必要となる英文も複雑になるので、英語面でのサポートも継続します。

▷第6時間目

「間違えやすい表現」というミニレッスンを行います。生徒の書いた下書きをチェックした際に、頻出する間違いをメモしておき、間違いさがしの練習プリントを作ります。

「これ、皆さんの書いている英文によく出てくる間違いが含まれています。」と言って、どこに間違いがあるか考えさせます。

ミニレッスンで扱った内容は、カンファレンスの材料に組み込みます。「これ、この間プリントでやりましたね。どのように直したらいいかな?」というふうに問いかけたりします。

▷第7〜8時間目

このあたりで、「どちらが上手かな」というミニレッスンを行います。★4 これは、過去の生徒の作品を使って、(A)原文と(B)教師が手直ししたものの2つの作文例を提示して、どちらが上手にかけているかを考えさせるものです。例えば、書き出しの部分。

(原文は英語です。)

(A)  私のお気に入りのスポットは忍ケ丘駅です。四條畷市にあります。忍ケ丘駅は便利です。近くにお店がたくさんあります。周囲には木があります。私はこの安らかな雰囲気が好きです。私は以前、この駅のそばに住んでいました。

(B)  私のお気に入りスポットは忍ケ丘駅です。大阪府の四條畷市にあります。忍ケ丘駅は便利です。近くにお店がたくさんあります。周囲には木もあります。私は以前、この駅のそばに住んでいました。よく「大阪パル・コープ」というスーパーで新鮮な野菜を買いました。10才の時にこの町を離れましたが、ここの安らかな雰囲気が私は好きです。

(A)だけを読めば、「ああ、そうか」で終わってしまいますが、(B)と対比すると、こちら方が情報が詳しくなっていることがはっきりします。「スーパーの所、『買い物をした』じゃなくて、『新鮮な野菜を買った』と書く。それだけでリアルになるでしょう」といったふうに言うと、生徒たちはうなずいています。

生徒たちは、カンファレンスやミニレッスンで学んだことを生かして、第2稿を書いて提出します。

<最後に>

英語の習得を兼ねて、いくつかのエクササイズやレクチャーをはさんでいますので、国語の授業でライティング・ワークショップをする場合は、もっと違う展開になるだろうと想像します。

最後に、私がライティング・ワークショップを進める時に、自分に言い聞かせている心構えを記しておきます。

1. なかなか書き出せない生徒に対してどうするかが大切であること。★5

ライティング・ワークショップは、書くことの中身は生徒自身が考えて決めます。ところが、そのこと自体ができないと、向かうべき対象がない状態に置かれてしまいます。読み書きの経験が不足していたり、自分の思いつくことを自分で批判的にチェックしてしまうケースが多いようです。しんぼう強く、その生徒に付き合うことが教師の仕事です。

2. 書くプロセスの途上で紹介する表現のスキルを、性急に教え込もうとしないこと。ここで教えたことを、次のステップで全員が使えるように指導する、そして一つでも優秀な作品がかけるように導く、というふうには考えないことです。もちろん、カンファレンスで、ノートへのコメントの書き込みで、折に触れて、ミニレッスンで教えたことに触れて、それを使えるようにうながしますが、最終的にその表現スキルを使うかどうかは、生徒本人の選びです。性急に教え込もうと構えることは、生徒自身の選びを受け止める余裕を失わせます。それはライティング・ワークショップの目指す所ではないでしょう。

3. 書くのは個人だが、クラスメイトがいるこの場で書くことに意義があるということ。

時々、こんな生徒がいます。授業中だらっとしているので、集中して取り組むように言うと、「先生、私、家でちゃんとやってくるから大丈夫。締め切りはいつですか?」と返してきます。私は次のように言います。「今、クラスメイトがいるこの場で書くことが大切なのです。作文が出来あがればいいのではありません。クラスメイトがここにいる、そのエネルギーで書くのです。」

<注>

★1 「書くサイクル」については、R.フレッチャー&J.ポータルピ(小坂敦子・吉田新一郎訳)『ライティング・ワークショップ』(新評論, 2007年)81〜91ページを参照。

★2  この実践の源は、長崎政浩氏(高知工科大学)の大学での実践である。

★3  プロジェクト・ワークショップ編『増補版 作家の時間』(新評論, 2018年)106〜108ページを参照。

★4 この実践は、国語教育者の市毛勝男氏の考案した方法をもとにしている。市毛勝男著『小論文の書き方指導』(明治図書, 2010年)参照。

★5 「書き出せない子どもへの勇気づけ」について、『増補 作家の時間』33〜34ページの実践も参考になる。


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