2019年9月14日土曜日

自分の立ち位置を「書き手」にする

 前回の詩のワークショップについての記事を読みながら、「プロの詩人や作家が各ワークショップのチューターを務めていることも特徴的」と読み、「書き手」が教えてくれるワークショップであることの魅力を感じました。

 ライティング・ワークショップでは、「教師はモデル」で、「書き手が、書き手を教える/育てる場だ」と、よく言われます。しかし、そのためには、教師は「自分が書き手だ」というところに立つ必要がでてきます。

 教員経験も長く、教員の指導も行っているレジー・ラウトマン(Regie Routman)には、(直訳すると)『子どもの詩~小学校3,4年生に、詩を書くのが大好きになるのを教えよう』という書名の本があります。(これはシリーズで「幼稚園用、小学校1年生用、小学校2年生用」も出ています。)★ 

 題名どおり、子どもが詩を書くのが大好きになるような本ですが、この本の中でも、教師が書き手になることが奨励されています。ラウトマンも、自ら、生徒の前で、考え聞かせをしながら、詩に取り組むところを見せたりもしています。

 生徒に教える自由詩を今までに書いたことのない、4年生担当の先生も登場します。もちろん、生徒の前で考え聞かせをしながら詩を書いた経験も、生徒に見える場所で詩を書いた経験もありません。

 この先生は、生徒の書く時間に、生徒が見える場所で自由詩を書くことにトライします。この先生の下書きは、線でいっぱい消したり、書き込みがたくさんあったりします。また、自分がキックボールのメンバーに呼ばれるかどうか、不安も感じながら待っていた時間についての詩だったので、こういう時間も、詩の題材になることを生徒も学び、自分にとって、ちょっと困難な時間を詩の題材に選ぶ子もでてきたそうです。その詩を書くプロセスと詩が、生徒に好影響を与えているのがわかります(24ページ)。

 教師が書くプロセスを見せたり、段階を追った下書きを見せたりすることが、いかに効果的かは、『イン・ザ・ミドル』の「教師が書くプロセスを見せる」166―168ページ、「教師が自分の書いた詩を使って教える」168―174ページにも、詳しい具体例が載っていますので、ご参照ください。

 長年、よりよい授業を追及してきた実践者アトウェルであれば、「ワークショップでの私は、経験豊かな書き手・読み手です。どうすればいいかを生徒に示し、役立つ助言を与え、自分がしっかり理解した上で生徒に伝えています」(『イン・ザ・ミドル』36ページ)と言い切れます。でも、自分を「経験豊かな書き手・読み手」と認識できるまでには時間も労力もかかりそうに思えます。

 時間も労力もかかるからこそ、上の4年生担当の先生のように、まずは、自分を「書き手」の立ち位置に置くこと、そして、そこに留まり続けることが必要なのかもしれません。

 アトウェルは、書き手として、あまり自信のない教員に対して、以下のようにも書いています。

 「もし、あなたが、書き手としての経験に乏しく、自分の書くプロセスがどのようなものかを実感できていないならば、1行ずつ空けて書いたり、メモ書きを使ったりという方法を、実験的に試してみる機会だと考えてください。生徒たちに、こういう方法をやってみたところ、こんな結果を出せたのだと伝えればよいのです。生徒たちにとって大切なのは、生徒たちよりも、ほんの少しだけであっても先輩の書き手が、紙を目の前にして考え、その考えを変えたり、どんなふうにすればよい文になるのかに思いを巡らしたり、自分らしい文や内容をつくり出そうとしている、その実際の姿を見ることなのです」(『イン・ザ・ミドル』167―168ページ)

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 実はアトウェルも、「1980年3月の朝、初めてライティング・ワークショップを行った日には、ワークショップに、私自身に、そして生徒に何を期待できるのか、まったくの未知数」(『イン・ザ・ミドル』92ページ)だったとのことです。

 アトウェルの場合は、ライティング・ワークショップを行いながら、基本的な原則をつくり始めます。半年後には「ワークショップで期待すること」という、以下のような短いリストができたそうです。

 ・自分で取り組む題材を決めて発展させること
 ・毎日のワークショップに「執筆中ファイル」を持ってくること
 ・他の人のフィードバックをもらうまえに、自分の書いたものを批評家のような目で読み直すこと
 ・たくさん書くこと
 ・書くプロセスを試してみること

                   (『イン・ザ・ミドル』92ページと94ページ)

 未知数で始めたライティング・ワークショップ。そして、その半年後にできた上記のリストを見ると、「期待すること」は、教師が「書き手としての立ち位置」にいるからできたリストのように思います。「書き手」として必要だと思うことから、生徒ができそうなこと・必要なことを、具体化したリストのように思えます。

 授業に「期待していること」を具体的に書き出してみる、それが「優れた書き手(あるいは、優れた読み手・優れた学び手)」が行っていることかどうか、を考えてみる、そんなところから、「書き手として、書き手を教える」という目標への道筋が見えてくるのかもしれません。

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★Regie Routman著 Kid's Poems: Teaching Third and Fourth Graders to Love Writing Poetry (Scholastic, 2000). タイトルの副題の3,4年生(Third and Fourth Graders)のところが、幼稚園 (Kindergarten)、1年生 (First Graders)、2年生 (Second Graders) になっている本も同じ著者、同じ出版社から刊行されています。

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