2017年11月10日金曜日

アトウェルさんのリーディング・ワークショップの柱


 初代「グローバル・ティーチャー賞」を2015年に受賞したナンシー・アトウェルさんは、これまでも何度(何十回?)となく、このブログに登場しています。http://wwletter.blogspot.jp/2015/12/rwww.html
 私が知っている限り、彼女のリーディング・ワークショップRWは、ライティング・ワークショップWWをまずは実践することによって、その教え方のパワーを痛感して、はじめて「読むこと」にも応用した実践だったわけですが★、すでに『リーディング・ワークショップ』や『読書家の時間』で紹介している小学校段階の「ひたすら読む」=教師は個別カンファランスをする時間とはだいぶアプローチが違います!(これについては、最後に戻ります。)
 先週も、彼女が、クラスの生徒たち(18人)とリーディング・ワークショップRWの時間に、毎回やり取りする方法が紹介されていました。
 アトウェルさんは、カンファランスという言葉をRWでは使っていません。来年の夏(か、遅くとも秋)にはその翻訳が出版されるIn the Middleの第7章で自分のRWの柱として位置づけているのは、①チェックインと②レター・エッセイ(手書き形式の書評)の2つです。★★
 先週紹介したのは、このチェックインの方でした。
 それは、ほんの40~100秒のあいだ行われるカンファランス的なやり取り/会話です。先週号に書いてあるように、その主な目的は読書生活の進捗状況をチェックすることです。彼女がこの短い時間に、必ずしていることは、読んでいる本の現在のページ数と、その本がおもしろく読めているかを確認することです。読めていたら、それについて一つだけ簡単にやり取りし(教えたり/情報提供したり)、読めていなければ、その打開策を考えるといった具合です。時間的な制約で、当然のことながら深く掘り下げることは、最初から放棄していますし、その必要性があるとも考えていないようです。そんな会話をするよりも、リーディング・ゾーン(我を忘れて読むこと)をできるだけ長く体験してもらう方に価値を見いだしているからでしょう。

レター・エッセイ
 カンファランスに代わって、生徒との本を介した深いやり取りを実現するのが、レター・エッセイです。
 簡単にいうと、新聞の書評欄にあるぐらいの記事を中学生が書けるようにしてしまおうという実践です。しかも、それを年に1度か2度するのではなく、3週間に1回ずつ書き続けます。(彼女が、ここに行くつくまでには長年の試行錯誤がありました!!)

「読み終わった本の中から1冊を選び、3週間ごとに生徒は、私か他のクラスメイトに宛てて書きます。会話のような語調ではありますが、より高度なものになり、よりゆとりがあり、毎週やりとりをするよりもずっと実りがあります。
  生徒が書くレター・エッセイは、ノートに少なくとも3ページ書くことになっています。3週間を振り返り、最も取り上げたい本を選び、ある程度時間をかけて考えることで、鑑賞力のある批評家として学んでいきます。考えたことを書くことは、すべての人をより賢明にしてくれます。生徒たちは、作家が使っている技巧や目的を認識し、より一層、文学についての思考を深めます。高校生や大学生になると、本に書かれていていることを根拠にして議論を発展させるような批評を書くことが求められますから、レター・エッセイは中学生が次に向かっていくところへのしっかりした橋渡しとなります。」(255ページ)

 このプログですでに何度か触れてきましたが、思考を助けるため/伸ばすために書くことや、継続することの大切さと対象が誰かということをよく考えこんでいることが分かります。(日本の教育で、「考えるために書く」という捉え方および実践は、どれだけあるでしょうか? 同じレベルで「考えるために読む」「考えるために聞く」「考えるために話す」は?)
 教師だけが、エッセイ・レターを書く対象ではない、というのがいいです。教師に2回書いたら、次はクラスメイトに2回という具合です。(これは、教師の負担を減らすだけでなく、教室内に本を読むコミュニティーを作ることにも大きく貢献しています。)
そして、具体的な書き方については、教師自身が示す見本、それまでの生徒が書いたレター・エッセイの分析などを通して、繰り返しのミニ・レッスンで教えられます。さらには、生徒たち自らが教師と一緒につくり出す「すべてのレター・エッセイで批評家が行うこと」と「レター・エッセイで批評家がコメントできそうなこと」のリストを参考に書き続けます。そして、それらの項目自体が評価の基準にもなるのです。この辺について詳しく知りたい方は、2018年夏に刊行予定の翻訳本を参考にしてください。

 このアトウェルさんが中学生を対象にしたRWのやり方が、小学生を対象に使えるかというと、無理です。(高学年なら、クラスの1~2割は可能かもしれません。しかし、ある程度のレベルのものを期待するのは酷です。)100秒以下のチェックインで、事足りる子どもは極めて少ないと思いますし、中学年までは、レター・エッセイを要求しても、無理でしょう。(小学1年生段階から、WWRWを毎年体験していたら、十分に可能ですが!)
 小学校でのRWは、『リーディング・ワークショップ』や『読書家の時間』で詳しく紹介されているように、カンファランスが中心にならざるを得ない、です。そして、中学校段階は逆に、それの必要性がない(薄い)から、チェックイン+レター・エッセイというアプローチを選択しているわけです。(当然のことながら、小学校段階で一度もRWを体験していなかったら、アトウェルさん流のRWを中学校で実践することも難しくなります。)
 従って、一言でRW(あるいはWW)といっても、対象に応じた適切なやり方がある、ということです。RWWWでも、教科書アプローチに陥らないでください。目の前にいる子どもたちこそが何よりも大切です。さらに、同じクラス内でも多様な子どもがいます。同じことをみんなにすることが(たとえ、楽ではあっても)、教師の役割ではありません。


★ 彼女は、1980年代の初頭にWWに取り組み始め、同じころないし数年後にはRWも始めたと思います。In the Middleの初版は1987年に出ていますから。それ以降も、WWRWに40年近くも磨きをかけ続けています。

★★ 第7章では詳しくは触れられていませんが、RWをうまく運ぶための方法として、ブックトークも大事であることが、この本の他の章から分かります。
  もう一つ、第7章で触れているのが「読んでいる本について、授業時間外に起こるおしゃべり」です。しかし、それを彼女は「授業時間外」のいつでも、どこでも起こるものと捉えていますから、RWをうまく運ぶための方法/要因ではありますが、RW中にすることとしては位置づけられていません。(少なくとも、公式には。従って、アトウェルさんはブッククラブを授業中にすることも視野にありません!)

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