2015年9月18日金曜日

『たった一つを変えるだけ』と『理解するってどういうこと?』


 
 
 
 自分がブルース先生の教室の4年生の一人であると想像できますか? こんなエネルギーを一日中浴びると想像してください! きっともっと自分から質問して、答えを探りたくなるとは思いませんか? もっと自分の怖れに向き合ったり、感情を表現したり、そうした感情を使って自分が読んだものからより深い理解を引き出すだろうと思いませんか?(『理解するってどういうこと?』第9章 342ページ)
 
 『理解するってどういうこと?』には少なくとも2度、ブルース・モーガン先生という魅力的な人物が登場します。彼はいつも子どもたちに問いかけ、子どもたちの内面を耕し、思考を活性化する先生でした。あの本を訳しているあいだも、その後も、活気溢れるブルース先生のような人になることは、どのようにすれば可能なのだろうかと考えていました。
 先々週この「RW/WW便り」で紹介されたダン・ロスステインとルース・サンタナ(吉田新一郎訳)『たった一つを変えるだけ―クラスも教師も自立する「質問づくり」―』(新評論, 2015)は、ブルース先生のような知性と感性を育てるために何が必要なのかということをわかりやすく伝えてくれる本でした。四六判300ページ弱、少し時間を見つけること のできた日の午前中に一気に読み終えました。また、そういう読み方ができるような、わかりやすくて印象に残る日本語が、訳文として選び取られています。
 どういうことが書かれている本かは手に取って読んでいただくほかありませんが、この本の目次は、この本のキーワードと何が書かれてあるかを、きわめてわかりやすく示しています(スペースの都合で章見出しだけ掲げますが、実際は章見出しの下のレベル(節)までありますので、もっとわかりやすい!)。

 はじめに

 第1章 質問づくりの全体像――多様な思考力を磨く方法

 第2章 教師が「質問の焦点」を決める

 第3章 質問づくりのルールを紹介する

 第4章 生徒たちが質問をつくる

 第5章 質問を書き換える

 第6章 質問に優先順位をつける

 第7章 質問を使って何をするか考える

 第8章 学んだことについて振り返る

 第9章 教師や指導者へのアドバイス

 第10章 生徒もクラスも変化する――自立した学び手たちのコミュニティ

 おわりに――質問と教育、質問と民主主義

 『理解するってどういうこと?』の資料A「理解するための方法とは?」にある七つの理解するための方法の一つに「質問する」があります。読む前は、この『たった一つを変えるだけ』は「理解するための方法」の一つの教え・学びについての本かなと思いました。
 しかし、見事に予想が裏切られました。たとえば、第4章では生徒たちの質問づくりの事例が示されていますが、質問づくりのなかで生徒たちは「関連づける」「イメージを描く」「推論する」といった理解のための方法を使っているのです。いえ、質問を考えることは、理解のための方法を総動員することなのだということを本書の教師と生徒たちの姿は教えてくれます。とくに、119から123ページに書かれている、生物の授業での「富栄養化」について生徒たちがつくった13の質問についての著者の分析は、訳者も注で「この本のハイライトの一つ」としていますが、圧巻です。読者としての私自身がワクワクしました。

 そのほかにも。

・「閉じた質問」から「開いた質問」へ、またはその逆に自分たちの質問を書き換え。これをやることで「修正しながら意味を捉える」方法を駆使することになる。(第5章)

・質問に優先順位をつけるというアイディアが展開される章の159ページには、「適切に重要なものを選び出す」ことが「比較、分類、分析、評価、統合などを含めた多様なスキルを駆使する極めて知的な行為」だと書かれています。これは、「何が大切かを見極める」という理解のための方法そのもの。(第6章)

・本の後半では学習者の言葉や先生のたくさんの言葉が掲げられていますが、いずれも「理解する」ことについて触れています。「質問づくり」を通して得られたわかることについてのたくさんの発見は貴重です。(第7章~第9章)

もう一つ。第3章には、四つの「質問づくりのルール」が示されています。それらは著者たちによるじつに繊細な生徒観察によるものです。たとえば、なぜ出された質問を「評価しない」のかということについてはこう書かれています。

質問をするということは勇気のいる行為です。「それは、おかしな質問だ」といわれたり、(さりげなく、本音あるいは教育的配慮なのかは分かりませんが)「でも、こんなふうに考えた方がいんじゃない」、あるいは「こういうような質問で……」といったような反応をされると、次に質問する勇気がくじかれてしまうものです。(『たった一つを変えるだけ』 88ページ)

このような言葉は、本書の随所に見られます。このように、生徒たちの感情と論理に耳を傾ける姿勢が本書をつらぬいています。それは『理解するってどうこうこと?』の最後の言葉「ジャミカ、あなたが理解するのを手助けするために、私たちは問いかけるだけでなくて、しっかり聞くことを約束します」とつながっていると思うのです。

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