友人の中学校の国語の先生(現在は、教育大学教職大学院に准教授として出向中)の飯村さんが書いてくれたので紹介します。
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犬塚美輪『読めば分かるは当たり前? ―読解力の認知心理学』(以下、A)と、吉田新一郎『(増補版)「読む力」はこうしてつける』(以下、B)の二冊を比較して読みました。
●両書の基本的な内容
まず、それぞれの基本的な内容について述べます。
Aは認知心理学の視点から「読解」という行為を多層的に捉え、どのようにして読解力が育まれるかを解説した一冊です。専門用語も多く登場しますが、平易な語り口で書かれており、理解しやすく感じました。私自身、これまで読解について漠然とした理解しか持っていませんでしたが、本書では脳内で起こるプロセスが構造的に説明されており、認知心理学の視点から捉える読解のイメージが明確になりました。特に印象に残ったのは、認知的負荷の個人差に注目し、それを軽減しなければ読みや理解が進まないという点、そして「スキーマ」の枠組みなしに読むことの困難さです。改めて、現在の国語の授業で一斉指導を想定したとき、読解に苦手意識を持つ生徒は全く太刀打ちできないということがわかりました。個々へのアプローチが必要だと感じます。
Bは、「読む力」を単なる情報の受け取りにとどまらず、思考力や生きる力として捉え直し、学校教育における読解指導を再考することを提案する書です。国語教育の目指す方向性や現在の課題について、非常に納得できる内容が多く含まれています。特に印象的だったのは、教科書にとらわれず、読みたい本を自由に読む「リーディング・ワークショップ」の手法を提唱している点です。これは日本の従来の国語教育を見直す上で有効な視点だと感じました。また後半では、「優れた読み手」が用いる読解方法を幅広く紹介し、それを授業でどう学び、どのように身につけていくかという具体的な方法も多数提示されています。国語教師として、自分の授業にどう取り入れるか考えるきっかけとなりました。
●両書の違い
ここからは、両書の主な違いについて私なりに整理したものをお示しします。
1. 前提の違い
Aは認知心理学の視点から、読むという行為について、万人に共通する脳の仕組みや働きの解明をスタート地点としています。対してBは読者反応論に基づき、読書が読者一人ひとりの体験や解釈に根ざすものだと捉えています。Bの視点は、多様性を尊重する現代の学習環境において有効だと感じます。
2. ゴール設定の違い
Aは読むことから「わかる」ことに至るまでのプロセスを示し、それぞれのつまずきに対する手助けの仕方を示しています。一方Bは、読む方法の多様性を提示し、読書が日常生活や人生においてどのような価値を持つかを考察しています。これにより、読解力を単なる学力としてではなく、もっと広い意味で捉えることが可能になります。
3. 「読むこと」への捉え方の違い
Aは読む行為を静的で共通性のあるものと見なしていますが、Bはそれをダイナミックなプロセスとし、多様な読み方を可能にする手法や実践を紹介しています。Bのアプローチは、学習者一人ひとりの特性に応じた柔軟な指導や、創造的な授業づくりに大きく寄与すると感じました。
●まとめ
このように、AとBは異なるアプローチで「読むこと」に光を当てています。Aの提示する認知心理学の視点から考えると、読むことは誰しも一様ではなく、それぞれの土台や段階に応じて自分の工夫や他者のフォローが必要なことがよく分かります。一方Bは、「苦手」や「分からない」といった課題に目を向けるのではなく、読書を、人生を豊かにする営みとして捉え、前向きな読みの姿勢を育むことを重視しています。多様性を尊重する現代教育において、Bのような視点は今後ますます重要になるでしょう。
ぜひ両書を手に取り、自身の「読むこと」へのまなざしをアップデートしてみてください。
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