修正は、推敲のように「すでに書いた文章の表現や言葉遣いをより良くすること」がメインの目的ではなく(それも含まれますが)、「すでに書いた文章に新しい命を吹き込むこと」こそが中心的な目的です。
表題の実践紹介のはじめに、タミー・ルーロ先生は次のように書いています(以下、●の部分は先生自身の言葉で、◆は紹介者のコメントです)。
● 私は、小学校で作文を教えており、修正(revision)の重要性を強く感じていますが、これを教えることは難しいことも理解しています。修正は時に、堅苦しくフォーマットに縛られているように感じられたり、生徒がやる気を失ったりして、それを試みようとしないことがあります。最悪の場合、修正は生徒の文章を「直す」こととなり、彼らに自分の書いたこと(=考え)が間違っているという感覚を与え、作品を自分の意志で表現することを抑制してしまいます。その結果、個性が損なわれ、「先生が言ってほしいことを教えてよ。そのまま書くから」といった態度が生まれることもあります。しかし、修正がうまくいった場合、それはクリティカル・シンキングや創造的な言葉遊び、さらには社会正義を育むものであり、計画的で具体的な活動と、時間をかけて自然に進行するプロセスを通じて、作品を再構築する重要な方法となります。
◆ クリティカル・シンキングは、「批判的思考」ではなく、「何は大切で、何は大切ではないかを見極める力(であると同時に、その判断に基づいて行動する力)です。「言葉遊び」や「社会正義」を意識していることがいいです! 日本の作文の授業で、これら3つは意識されているでしょうか? 「計画的で具体的な活動」と「時間をかけて自然に進行するプロセス」を、これから紹介してくれると思います。修正は、生徒が書いている作品を「再構築(revise)」する重要な方法です。それは、一人ひとりの子どもが「自分の人生を再構築する/生き直す/自分自身をつくり出す」重要な段階と言い換えられますから、とても大切です。
● 私はジャマイカ・キンケイドの「文章を書く際に頭の中でアイディアを反復し、修正を加えるプロセスを大切にしており、それは衝動的に行うのではなく、時間をかけて心の中で整えられていきます。執筆において決まったスケジュールや流れもありません」という書き方や修正の仕方に影響を受けて、私のアプローチに活かそうとしています。
◆ ジャメイカ・キンケイドの本は、4冊ぐらい翻訳されています。教師にとってモデルにしたいメンターや「メンター・テキスト」(本ブログの左上で検索をかけるとたくさんの情報が入手できます)があると、実践が進化します。
● 修正は、書くときだけに使うのではない。他の教科でも、「修正」という言葉は、「再考する(考え直す)」「創造的に斬新な解決法を考え出す」「すでに作成したものを改良・改善する」などに置き換えて使えるように指導しています。そうすることで、修正の価値を理解しやすくなり、子どもたちにとって自然に理解を深めることができます。
◆ 文章を書くときに大切な「修正」は決して特別なものではなく、他の教科でも大事にされている考え方であることがわかります。他に、どんな言葉が実際に使われているでしょうか/考えられますか?
● 芸術作品を分析する。私は、モネが同じ主題を何度も再訪し、その都度異なる視点で見直して描き直すというアプローチを、執筆における改訂の架け橋として使っています。
◆ モネは、フランスの印象派の画家のことです。モネの作品では、同じ風景や主題を異なる時間帯や気象条件で何度も描くことが特徴的です。このアプローチは、同じシーンを異なる視点で見ることで、時間や環境が作品に与える影響を強調するために用いられました(たとえば、「睡蓮」シリーズなど)。この手法は、変化する環境や視覚的な体験を強調することで、印象派の特徴的なスタイルを作り上げました。これを、「モネのアプローチ」と言っており、執筆における再構築や見直しに関連づけられています。
音楽や舞台芸術なども使えるでしょうか?
ロール先生は、他の方法も紹介してくれています。自分(ないし誰か)が書いた作品を、漫画に書き直したり、手紙を詩にしたりして、作品を新たな視点で想像/創造し直します。外国語の詩を、その言語の知識や翻訳アプリの助けを借りずに翻訳し、作品の自分なりのイメージを作りあげる方法などです。ジャンルや言語を変えることで、異なる方法や視点で再構築したり、創造的に新たに解釈したりすることを可能にします。これは、前の作品に新しい命を吹き込むことを意味します。(修正の本来の意味は、これではないでしょうか? 推敲★とは、根源的に異なる視点に立っています!)
● 教師の書き方を開示する。自分の混沌とした書くプロセスを隠すのではなく、それをモデルとして示し、最初から最後までの思考過程をあえて紹介します。それには、作品を一度置いておき、何度も戻ってくる過程も含まれます。私たちは作家が行う選択、特に一見型破りに見える選択についても分析します。これにより、言葉のニュアンス、文学的手法、そして執筆における書き手の本当の声について議論する場が開かれます。また、他の言語や方言、スラング★★の使用を促します。私たちの目標は、作品を完璧にすることではなく(それは声を抑圧することになる可能性があります!)、書き手の声を見つけることです。
◆ ルーロ先生は、書く際に自分がすることをオープンにし、完成度を追求するのではなく、独自の声を見つけることに重点を置いている点を強調しています。日本の作文教育で、この点はどのくらい大切にされているでしょうか? 作品第一主義になっていないでしょうか? ライティング・ワークショップの最大の特徴は、「作品をよりよくするために教えるのではなく、よりよい書き手になってもらうために教えます」。
● 修正は、ポジティブな体験であるべきです。信頼し合い、協力的な教室での書き手のコミュニティーを作ることが大切です。最初は、判断やフィードバックをせず、感謝や称賛だけを共有し、生徒が自分の貢献を個々のスキルのレベルに関わらず大切にできるようにします。私と生徒たちがフィードバックを始めるときは、まずポジティブな点から始め、その後、もっと明確にする必要がある部分に移ります。
◆ ポジティブな体験とは、書いてよかった、自分は貢献していると思える体験です。私たちの目は、批判的になりがちなので(それは、練習しなくても、すぐにできてしまいます。それに対して、感謝や称賛は相当の練習が必要です!)、とにかく書かれていることや生徒がしていることの「いいとこ探し」を徹底的にします。教師が、そして生徒たちが相互にフィードバックをする際に参考になるのが「大切な友だち」のやり方です。
https://projectbetterschool.blogspot.com/2012/08/blog-post_19.htmlを参照。生徒たちは(大人も!)、これをしてもらうのが大好きです。ファンレターは、場合によっては、自分が書いたものよりも大事な宝物になることすらあります。
以上のような実践を通して「修正」の大事さと方法を教えているルーロ先生は、次のように言います。
● 修正に限らず、書くこと全般に関して、一人の生徒に役立つことが、他の生徒にも同じように役立つとは限りません。そこで、基本は一対一のカンファランスをベースに教えています。
こうした実践を通して、私の生徒たちは自信を高め、書くときに実験的な姿勢が増しました。生徒は書くことが楽しいものであるという考えをもち、修正が極めて重要なステップであることを理解し、小学校高学年以降でより高度な内容や概念で書く準備ができています。
◆ 生徒への個別カンファランス(のちには、ピア・カンファランスも)を中心にした教え方が、ライティング・ワークショップが開発された理由の一つです。これは、読むことに関しても、そして他の教科でも同じように大切と言えるでしょうか?
生徒たちは、書くことに対して前向きな態度が身につき、修正を重要なプロセスとして捉え、いろいろなジャンルを含めて、高度なスキルにも挑戦できるようになった様子が伝わってきます。
★ChatGPTに修正と推敲の違いを尋ねてみました。その回答は、以下の通りです。
推敲は、主に日本語に特有の言葉で、文章や詩を何度も読み返して、表現や言葉を練り直す作業を指します。特に、より美しい言葉や響き、意味を追求する意味合いが強いです。言葉の選び方やリズムにこだわりながら、繰り返し練り直すことが特徴です。
一方で、revision/修正は英語圏で使われる言葉で、文章を修正する、改訂する、という意味です。内容の改善や誤りの訂正、または構成の変更を含む広範な作業が含まれます。厳密に言うと、「推敲」のように表現を美しくするだけでなく、論理的に整える、情報を追加する・削除する、新しい発見や再構築なども含まれることがあります。
★★スラングは、友人同士や若者の間でよく使われ、時にはユーモラスだったり、親しみを込めて使われたりする言葉のことです。
出典:https://www.edutopia.org/article/teaching-revision-elementary-school
0 件のコメント:
コメントを投稿