子どもの遠い未来の姿を見据える
八田幸恵・渡邉久暢著『高等学校 観点別評価入門』(学事出版、2023年)は、現在の学習指導要領で求められる「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という三つの観点に即した「観点別評価」について、具体的な事例に基づきながら丁寧に書かれた本です。が、本書「まえがき」によると、「観点別評価」の仕方についての「ノウハウを伝達すること」をねらったものではなく、「現行の「観点別評価」をいかに教育評価の理念に沿って実施できるか、その方針を示すこと」を目的とし、「読者一人ひとりが自身の評価観を構築することに寄与すること」をめざした試みです。
「観点別評価」についての本ですが、著者たちの試みの中心は、どのような「理解」をすることができる人として生徒を成長させていくかということにあります。なるほどと思い、読み進めながら大事だと思ったところに付箋紙を貼っていきましたが、付箋紙だらけになってしまいました。
たとえば八田さんと渡邉さんは「教科で育てるべき資質・能力を階層的に捉える」ことを主張しています。
「表7・4 ノンフィクションをしっかりと読めるようにするには」(『理解するってどういうこと?』274~276ページ)には「効果的な指導法」として、「ノンフィクションのさまざまな構造」や「ノンフィクションの障害」を教えたり、そのために必要な「用語」を教えたりすることが挙げられていますが、それは「知っている・できる」「わかる」レベルのことだと考えられます。しかし、それらを「使える」レベルにするためには「ノンフィクションの構造や障害を示して説明できるようになるべき」だとされ、「ひたすら読んだり、書いたりする時間に、自分が読んだり書いたりしているノンフィクションの理解を促進するために、その文章構造や障害をどれだけ認識し、使いこなしているかをカンファランスしたり、仲間と話し合うように指導」することが必要だとされています。その過程で、八田さんたちの言う「じわじわと形成されていくもの」について、エリンさんは次のように言います。
「ひたすら読んだり、書いたりする時間」に読んだり書いたりしたノンフィクションを「カンファランス」したり「仲間と話し合う」ことで「子どもたちが教室を巣立ってから後にも長く使うことのできるツール」「私たちが想像もできないような難しいフィクションを読み、情報を理解するときに活用できる方法」を身につけ「使いこなす」ことが目指されているのです。子どもたちの未来の姿を見据えるまなざしがあります。
わたくしが、八田さんと渡邉さんのこの本のなかでとくに感銘を覚えたのは次のような箇所ですが、これらの言葉の奥にエリンさんと同じまなざしを感じます。
「どのような評価方法が望ましいのかだけを考えるのではなく、どんな大人になってほしいのか、大人になるためになぜこの教科を学ぶのか、高校卒業後に大部分の知識・技能を忘れてしまったとしても生徒の中に残っておいてほしいこの教科固有の理解や見方・考え方は何か、そのためにどの時点でどのような理解が確認できればよいのか、その理解(目標)をできるだけ直接的に評価できる評価方法は何かと考えるべきです。」(『高等学校 観点別評価入門』120ページ)
八田さんと渡邉さんも、教科で学んだことが、「子どもたちが教室を巣立ってから後にも長く使うことのできるツール」や「私たちが想像もできないような難しいフィクションを読み、情報を理解するときに活用できる方法」を身につけ「使いこなす」ことができるようになることを学習指導と学習評価のとくに大切な目標としていることを、とても大切なことだと思います。エリンさんが「ノンフィクションの指導法」について言っていることと、八田さんと渡邉さんが「評価方法」について言っていることとの間にこうした共通点を見ることができるのも、ともに、子どもがどんな大人になってほしいのかという、遠い未来を見据える確かなまなざしをもっているからなのではないでしょうか。
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