2022年4月9日土曜日

なんと素敵なノンフィクション(その3)〜作家ルイーズ・ボーデン

 3月4日、3月25日の投稿に引き続き、「なんと素敵なノンフィクション」その3です。これまでに書いてきたように、「なんと素敵なノンフィクション」という投稿を書き始めたきっかけは、ラルフ・フレッチャー氏の本Making Nonfiction From Scratch★を読み始めたことでした。

 そして、この本の中で紹介されている、子どもたちへのおすすめ絵本や作家を検索しているうちに、3月25日の投稿の最後で紹介した4冊(『しょうぼうていハーヴィー 〜ニューヨークをまもる』、『どこでもへっちゃら スーパーアニマル大全集 〜世界でいちばんつよいのはだれ?』『海時計職人ジョン・ハリソン 〜船旅を変えたひとりの男の物語』『戦争をくぐりぬけたおさるのジョージ 〜作者レイ夫妻の長い旅』を見つけ、町の図書館で借りてきました。この4冊のうち、最後の2冊の著者は、ルイーズ・ボーデンです。

 その中の『海時計職人ジョン・ハリソン 〜船旅を変えたひとりの男の物語』の書き出しは以下のようになっていて、ページを開いた途端、「うまいなあ」と思わずメモをとりたくなりました。

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18世紀のイギリスに、すばらしい時計を作った男がいた。

40年という歳月をかけて作った時計の数は、5個。

どれも船旅に強く、たいへん美しかった。

そして、そのうちのひとつは、世界を大きく変えたのだ。


男の名はジョン・ハリソン。彼が本書の主役だが、

ここには、天文学者、科学者、船長、国王、

何百年ものあいだだれにも解けなかった難問も、登場する。


それでは、ジョンの生い立ちから始めよう。

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 この続き(5ページ)は「ジョン・ハリソンは、1693年3月、イギリスのヨークシャーに生まれた」という文章です。でも、この最初の1ページの書き出しがあるおかげで、「1693年3月、イギリスのヨークシャーに生まれた」という、よくありそうな文章で始まる部分からも退屈せずに読めた気がします。

 こういう書き出しを見ていると、フレッチャー氏はノンフィクションで使えそうな要素として、例えば、以下を挙げていること(12〜16ページ)も納得できます。

・大胆な書き出し

・説得力のある人物描写

・注意を惹きつける詳細な情報

・正確な描写

・サスペンス/伏線(展開の暗示)

・暗喩と直喩

 また、フレッチャー氏が、読者を惹きつけるために、著者がどのような工夫をしているのかを、子どもたちに探させ、上手な書き出しを集める(12ページ)ことも面白そうです。こういう経験をたくさんすることで、子どもたちも、自分がノンフィクションを書くときに使える「技」のレパートリーが増えてくること、そして、ノンフィクションとフィクションで使える「技」の共通点にも目が向きます。

 ルイーズ・ボーデンの邦訳を検索しているときに、『ピートのスケートレース  〜第二次世界大戦下のオランダで』(ルイーズ・ボーデン/ニキ・ダリー/ふなとよし子訳、福音館書店, 2011年)という本も見つけました。ノンフィクションと思って読み始めたのですが、こちらはフィクションでした。

 そういえば、フレッチャー氏とのインタビュー★★の中で、ルイーズ・ボーデンは「ノンフィクションではなくて、史実に基づくフィクションにすることで、読者を惹き込む」という選択についても語っています。例えば、語り手を少女にして、その一人称で描くなど等です。『ピートのスケートレース  〜第二次世界大戦下のオランダで』も、ピートという少年の視点で話が進んでいきます。

 伝えたい事実がある、そしてそれを読者により伝わりやすくするために、フィクションという選択肢もできる。ノンフィクションを学びつつ、「ジャンルを変える」という選択肢を学ぶこともできそうです。

★Ralph FletcherのMaking Nonfiction From Scratch. Stenhouse Publishersから 2015年に出版されています。

★★上記の本では、『海時計職人ジョン・ハリソン 〜船旅を変えたひとりの男の物語』の著者ルイーズ・ボーデンへのインタビューに一つの章を割いています(25〜36ページ)。こういうプロのライターの経験から、折に触れてミニ・レッスンを考えていくこともできそうです。

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