「生徒と私は、毎年、それぞれのクラスで、これは見逃してはいけないという本、250冊をブックトークします。ブックトークとは映画の予告編のようなもの。その本が気に入った人がみんなに読んでもらおうと本を薦める、それだけです。しかし、生徒がリーディング・ゾーンに入るのに最も貢献しています」(ナンシー・アトウェル『イン・ザ・ミドル』147ページ)。
リーディング・ゾーンは本の世界の中に入り込んで、夢中になって読む状態です。そして、アトウェルの『イン・ザ・ミドル』の教室の描写から、生徒たち(中学生)がリーディング・ゾーンに入っているのもよくわかりますし、質、量ともに、中学生でこんな本が読めるの?と驚くぐらい難易度が高い書名も散見されます。
ブックトークが読みたい本を見つけるのに貢献していることは、すんなり納得できますが、でも、それだけで、本の世界の「中」に入れるのでしょうか。
本の世界には「内」と「外」があることを意識させてくれたのが、「なぜ子供に読み聞かせをするべきなのか」(http://www.ted-ja.com/2016/12/nazezi-gong-nidu-miwen.html)というTEDトークです(英語字幕でも日本語字幕でも視聴できます)。(このなかで『シャーロットのおくりもの』を少し読み聞かせてくれますが、さすがに上手い!です。)
このTEDトークのスピーカー、ベリンガムは、コロンビア大学ティーチャーズカレッジで、リテラシーの専門家としてプログラムの講師を勤めているそうです。私が最も印象に残ったのは、「お話の中にいる気分だった、あんなにお話の中に入り込んだことはなかった」というジョーイという子どもです。ベリンガムは以下のように言っています。
・「ジョーイは読み聞かせによって、本の中に入っていくことができたのです。あたかもそれまでの彼は、お話の外にいたかのようです」
・「多くの子供が、読書は鍵のかかった建物のように感じています。鍵やパスワードや適切な経験がなければ、彼らは入っていけないのです。だから彼らは外側にいるように感じるのです。」
「本の世界に入れること」と「読みたい本があること」この二つが、リーディング・ゾーンに向けて進む両輪になりそうに思います。「読み聞かせ」と「ブックトーク」で強力タグが組めそうです。
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そういえば、「ブックトークは、生徒がリーディング・ゾーンに入るのに最も貢献している」というアトウェルも、子どもたちが読んでいるテキストの中に入れるような体験を、毎回の授業の最初の10分を使って行っています。アトウェルがここで読み聞かせるのは、詩です。★
「私が読む時には、できる限りニュアンスが伝わるように、前もって読む練習をします。それは生徒が私の声に乗って詩の世界に入り、その意味するところを私の声から聞き取り、どうやって経験豊かな読み手が詩を理解しているのかを、彼らが観察できるようにしたいからです」(『イン・ザ・ミドル』114ページ)と、アトウェルは教師が読む練習をすることの大切さを語ります。
アトウェルの「生徒が私の声に乗って詩の世界に入る」、これはまさにTEDで語ったベリンガムが自分の声に乗せてジョーイを『シャーロットのおくりもの』の世界に連れて行くのと同じだと思いました。
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★ アトウェルが毎日10分を使う「今日の詩」の時間について、詳しくは『イン・ザ・ミドル』112-117ページおよび67−68ページをご参照ください。ここで、生徒はアトウェル の音読によって詩の世界に入り、読み手としてのアトウェルの理解の仕方を観察した後には、「それぞれで詩の世界に戻り、読み返し、しるしをつけ、その後はクラスで話しあいます。アトウェルは、クラスで話しあうことで、「自分で詩の鑑賞を語る経験の乏しい生徒たちだって、そのための鍵になる語彙をもっている生徒や私から、詩の特徴――言葉づかい、イメージ、形式、テーマ、文の調子、転換点、比喩表現、リズム、そして音――を学ぶことができる」( 114-115)としています。同時に書くことについても、「段落の分け方は詩では教えられませんが、それ以外の、素晴らしい文章について私が実演して教えたいすべてのことが、『今日の詩』から始まります」(113ページ)「詩を教える効果は、生徒が書くあらゆるジャンルの本に見出すことができます」(113ページ)と、読むこと・書くこと両面にわたる効果を見出しています。
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