『みんな羽ばたいて』(キャロル・トムリンソン著、新評論、2023年)は、まるでドラマのタイトルを冠しているような本です。これまで、日本では学校を舞台としたテレビドラマが数多くありました。それぞれの時代性を背負って、ある時は校内暴力を、ある時はいじめを、またある時は受験を扱ったドラマがありました。これを読んでいる先生方にも思い当たる番組があるのではないでしょうか。
『みんな羽ばたいて~生徒中心の学びのエッセンス』もまた、ドラマを提供してくれる本の一冊です。著者キャロル・アン・トムリンソンは何十年にもわたる教職生活を経て、生徒と、同僚とともに学び合い、それこそドラマのような瞬間を味わってきました。本書にはそのエッセンスが凝縮されています。核となるのは「生徒中心の学び」です。
日本の学園ドラマでは、授業を真っ向から扱うことはほとんどありません。授業はあくまで人間ドラマの脇にあって、勉強はどこかつまらないもの、テストは辛いものという見方で捉えられることが多かったと思います。しかし、誰がなんと言おうと、学校の本質は授業であり、それを行うのは教師と生徒なのです。そこに正面から取り組むのは、私たち教員にとっての「リアル」です。このリアルなドラマで、生徒、教師がいきいきと活躍できるというのは本当に理想ではないでしょうか。それは本書で扱われる「生徒中心の学び」によって成し遂げられるのです。
これまでの授業は、教師がすべてを決めて、生徒はそれを受け止め、従うものだったと思います。それではドラマは起こりません。しかし、本書をもとに、一つひとつ見直していってみてください。近年よく言われる「アンラーン」であり、「リスキリング」の一環でもあると重います。
そもそも学校とは何が目的なのか、もう一度考えてみるところから本書は始まります。著者は、「生徒が有意義で、生産的で、満足のいく人生を送るために、学校で過ごす12年以上にわたる教室での経験に必要なのは何でしょうか? また、生徒にはどのようなニーズがあるのでしょうか?」(本書12ページ)と問いかけます。あなたはどう考えるでしょうか? ぜひご自分でも考えてみてください。
その後、著者は、教師、生徒、学習環境、カリキュラム、評価と、順を追ってその土台となる部分を扱い、豊富な実例と問いかけを用いて読者に語りかけます。ぜひ日本の学校の現場と比較しながら読んでみてください。(参考として、本書40ページと42ページの図を掲載しました。これまでの授業と、生徒中心の授業を比較表しています。)
もしかしたら理想論に聞こえるところもあるかもしれません。しかし、著者の長年の経験と、豊富な研究、実践に裏打ちされている記述は極めて説得力があります。日本の学校の常識を一度離れて、教育というものを見つめ直すためにとても良いレンズとなることと思います。
授業における具体的な教え方については、読者に問いかけることを通して考えてもらうような構成になっています。こちらもぜひ、ご自分の授業づくりと合わせて考えてみてください。私は国語の教師として、共感できるところが多々ありました。私たちはつい学習指導要領にあること、教科書にあることを全部教えようとしてしまい、肝心の生徒がどう思うか、何をやりたいのか、ということは置いてけぼりになってしまいがちです。例えば、作文だって、読み取りだって、一体、なんのためにやるのか、考えてみてほしいです。本当に将来の生徒の力になるように意識してやっているでしょうか? 忙しさを理由に、型通りの作文や、単純で画一的な読み取りを良しとしてしまっていることはありませんか? ちょっと立ち止まって考えてみたい視点がたくさん紹介されています。
また、紙幅の都合で割愛した第8章では教育哲学的な部分が述懐されていますが、あまりの捨て難さに、インターネット上で公開しています。こちらもぜひご覧ください。 ( https://docs.google.com/document/d/1NLGVsiRh8x0I6F0zA900PpteAIXA6JKGagGyLslQ4ec/edit )
人生は筋書きのないドラマだとよく言われますが、学校や教育も同じことだと思います。生徒中心の学びを実現したとき、これまで傍に追いやられていた授業がメインステージとなり、生徒も教師も躍動するようなドラマが展開されることでしょう。これまでの学校の常識、日本の常識という蓋を取り除いて、「みんな羽ばたいて」いく、そんなドラマです。
本書を手に取って、生徒も教師も羽ばたいていくイメージを胸に、学校のこと、授業のことを一緒に考えてみませんか(飯村寧史)。
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