2023年1月6日金曜日

意外に難しい? 「その本だけにしか当てはまらない、あらすじ的なこと」で終わらないためのミニ・レッスン

「ある日、青い短靴は緑色のブーツに出会いました。美しい緑のブーツです。緑のブーツは青い短靴にとても親切でした。でも、彼は青い短靴ではないのです。彼は緑色です。彼はブーツです。彼は青色ではありません。彼は短靴でもありません」

 上の文章は、『てん』などの絵本でよく知られているピーター・レイノルズのThe blue shoe という絵本の一部です。The blue shoe はネット上(★1)で全文が読めます。題名の通り、青い短靴が主人公。自分の真の友を探す旅に出る話で、旅の途上で青いスニーカーや緑のブーツと出会います。私のざっと訳で紹介した上の箇所は、緑のブーツに最初に出会った場面です。(なお、shoeをここでは短靴と訳しましたが、イラストを見るとパンプスのような形の靴となっています。)

 靴の「色」が違う。靴の「種類」が異なる。読みながら「色」や「種類」のところに、「肌の色、職業、宗教、クラブ、学校など、人間社会で、他の人との隔てになる可能性のある事柄」が示唆されていると感じる読者が多いと思います。

 しかし、この本を紹介する時に、「青い短靴が旅の途中に青いスニーカーや緑のブーツに出会う話です」と紹介してしまうと、その紹介から、他のテキスト、自分、社会などとのつながりを見出すのは困難でしょうし、読んでみたいという気持ちにもなかなかなれません。

 本の紹介を聞いていると、その本だけにしか当てはまらない、あらすじ的なことだけで終わるパターンが時々出てきます。その本だけで完結してしまうと、本の紹介の時間を定期的に設けても、読みたい本があまり増えないものになってしまうこともある、と感じています。

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 「その本だけに当てはまる、あらすじ的なこと」で終わらないように、以前は、時々、「あらすじとレヴューの違い」というミニ・レッスンを行ったりもしました。これは、あっという間に読める『だめよディビッド!』のような絵本で、その違いをはっきりさせます。レヴューは「他の人のために」行うから、「あらすじを言うよりも、そこに自分の評価や他の人の参考になる情報を織り込もう」みたいな練習をして、レヴューとあらすじとは異なることをはっきりさせたりしました。

 最近、ある著者が自分の絵本を読み聞かせる前に、「姉妹の連帯、強さ、そして何が起ころうとも自分の夢を追いかけることについての本です」という紹介をしている動画(★2)を見ることがありました。

 「姉妹の連帯、強さ、そして何が起ころうとも自分の夢を追いかけること」。こういうふうに紹介されると、抽象化されるので、その本だけで完結せずに、広がりが出てきます。その本の「テーマ」に関わることを言えると、ほかの本、自分、社会との関わりやつながりが見えてきます。この動画を見ていて、「このパターンを使う」ミニ・レッスンができそう、と思いました。

 つまり、本の紹介をするときに、「姉妹の連帯、強さ、そして何が起ころうとも自分の夢を追いかけることについての本です」のように、「〇〇についての本と言う」練習です。そして、〇〇の部分に入ることを複数考えます。その際「〇〇には、他の本にもつながりそうなこと(テーマ、時にはトピック)を意識して入れる」。この練習を何回か行います。

 また、時には、口頭で、自分の読んでいる本(あるいはお薦めしたい本)について、テーマを意識して「〇〇、〇〇、〇〇についての本です」と言ってもらうと、教師側は、読み手が全体をどう捉え、どのように読み取っているかを知ることができそうです。

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 テーマを見出すことは、読むときにも、書くときにも有益な概念です。上記は読むことを教える時の、テーマについての一つのミニ・レッスンですが、「テーマ」は、書くことを教えるときにも扱いたいトピックです。

 『イン・ザ・ミドル』(アトウエル、三省堂、2018年)では、書くことを教えるときに、「テーマ、目的、中心となる考え、動機といった、生徒にはピンとこない概念を端的に表す」ために「それで?の法則」(テーマ)を紹介しています。

 これは、ある生徒の回想録について、「この回想録のテーマは、サンタクロースが実在しないことを、ローラがどう理解しようとしたのか、ということなんです」と言ったことに対して、「サンタがいないってわかったのはいいんだけど、それで?」とある生徒が反応しことがきっかけとなっています。詳しくは『イン・ザ・ミドル』174−178ページ「それで?の法則」をご参照ください。

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(★1)

URLは https://www.fablevision.com/place/library/SHOE/index.html。この本は読み聞かせではないので、自分のペースで読めます。Forwardと書かれているところをクリックしていくと、次のページに進みます。ちなみにピーター・レイノルズはこのFableVisionというサイトの創設者として紹介されています。)

(★2) Maya van der Meerによって書かれた KUAN YIN—The Princess Who Became the Goddess of Compassionと言う本です。以下の読み聞かせの最初の方で、"It's a story about sisterhood, strength and following your dreams no matter what."と紹介しています。

https://www.youtube.com/watch?v=ltFiX81-OBE

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