最近、読んだ本『新・絵本はこころの処方箋 〜絵本セラピーってなんだろう』(岡田達信著、瑞雲舎、2021年)から、「絵本をきっかけにしたおしゃべり」という絵本の使い方について考えました。以下のページ数は上記の本のページ数です。
まず、この本のトピックである絵本セラピーとは何かですが、「大人が絵本を読むと癒される」とか「誰かに絵本を読んで癒してあげる」ということではないと説明されています(5ページ)。岡田氏も「絵本で誰かを癒してあげよう、何かを気づかせよう、感動させようという考えは、個人的にはあまり賛同していません」(5ページ)と記しています。
49ページには、絵本セラピーについて、以下のように説明されています。少し長いですが、抜粋します。
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「大人が安心して自分を表限し、ホッとできる場を絵本の力で作ることが肝心なのです。そんな場を作る方法を『絵本セラピー』と名付けました。
『絵本セラピー』とは、大人が絵本を読んでいる時に心の中で無意識に起きている事を出来るだけそのまま出してもらう試みと言えるかもしれません。絵本をきっかけに感じたことや出てきた感情をキャッチしたり、何かを思い出したり、自分のことに置き換えて考えてみたりすることです。
『どんな事を感じましたか?』『何を思い出しましたか?』など簡単な投げかけをすることで言葉に表限しやすくなります。絵本と投げかけがセットになっています」
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3章の「5。絵本セラピーができた」では、岡田氏が絵本セラピーに辿り着く(?)経緯も書かれています。研修などで絵本を使っている間に、「絵本を読んだ時に出てきた感想や解釈は内面を投影している」ことに気づいた氏は、同じ本を多くの人に読んでもらって感想を聞いたり(46ページ)、何人かで集まってグループで読んだり(47ページ)し始めます。
「絵本をきっかけにしたおしゃべりの会を何度もやっているうちに不思議なことに気がつきました。たとえ初対面同士でも絵本の会が終わる頃には仲良くなっているのです」(47ページ)
このことを「予想していなかった嬉しい副産物」(48ページ)という岡田氏は、仮説としつつも次のように分析しています。
「素直に自分を出して話したことに対して、相手は面白がって、興味を持って、受け取ってくれます。つまり、ありのままの自分を受け入れてもらえたと感じます。これをお互いに何度も繰り返すわけですから、自然と良好な関係ができていくのではないでしょうか」(47〜48ページ)
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→ この本を初めて読んだのが、新学期の新しいクラスなどで、どうやってお互いに話しやすい/学びやすい環境が作っていけるのかを考えていたときでした。そして、上のような記述を読み、一つの方法として、絵本を「きっかけ」にしたおしゃべり、というのも、十分「あり」なんだなと思いました。
→ リーディング・ワークショップやライティング・ワークショップの教室でも、絵本の読み聞かせや、「対話的読み聞かせ」などもよく行われていると思います。絵本を読み、簡単な投げかけをすると言う点では、絵本セラピーで行われていることと、一見同じように見えますが、しかし、立ち位置というか、目指している点が異なります。そこに私は興味を持ちました。
また、「結果として」得られるものも、重なることもあるかと思います。絵本セラピーで話している中で、ある絵本のテーマをより深く理解したり、著者の書き方から書き手の技に気づいたり等も起こりうることかとは思います。しかし、これらの結果が得られることがあっても、それらは、絵本セラピーでは「副産物」だと思います。
これは、ある意味、当たり前です。絵本セラピーは「大人が安心して自分を表限し、ホッとできる場を絵本の力で作ることが肝心」(49ページ)であるのに対し、リーディング・ワークショップやライティング・ワークショップの教室では、より良い読み手、よりよい書き手になれるようにサポートしていくことに力点が置かれているからです。
ですから、リーディング・ワークショップでは「本をきっかけしたおしゃべり」ではなく、子どもたちが、お互いに本に根拠を求めて話せるように教えていくことも大切となります。『リーディング・ワークショップ』(カルキンズ、新評論、2010年)第9章「読むことを話すことに活かす」の「本の内容から逸れずに、本を参照して話し合う」というセクションなどは、その好例です。
「本をきっかけにしたおしゃべり」という方法は、ある意味、ライティング・ワークショップで、絵本を使って、絵本を「きっかけに」題材探しをするという使い方と似ているのかもしれない、とも考えました。しかし、絵本がきっかけであっても、ライティング・ワークショップでは、うまく題材を探せるようになるという「書き手を育てる」ことがその延長線上にありますから、やはり向かっている方向が異なります。
そうやって見ていくと、読み手を育てる、書き手を育てるという路線と、「本をきっかけにしたおしゃべり」の接点は少ない?ようにも見えます。しかし、「予想していなかった嬉しい副産物」(48ページ)を、絵本セラピーに参加する大人だけに限定するのは、あまりにもったいない、とも思います。
このような絵本の使い方が有効と思える時には「本をきっかけにしたおしゃべり」を使う、それを「教師の絵本の使いかたの引き出し」に入れておきたいと思いました。
また、リーディング/ライティング・ワークショップでは、同じ絵本をいろいろなミニ・レッスンで使えますから、絵本セラピーのような立ち位置で活用し、後日、また読み手・書き手を育てるという立ち位置で使うこともできそうです。
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なお、『新・絵本はこころの処方箋 〜絵本セラピーってなんだろう』では、4章が「やってみる」というタイトルで、実際に誌上で絵本セラピーをやってみましょう、という章でした。ここで絵本セラピーが実際にどのように進むのかが紹介されています。また巻末には、「大人の悩みに『絵本の読み薬』50冊」として、50冊の絵本及びそれぞれの絵本についての絵本セラピストのガイドと問い(投げかけ)が一つ記されています。
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