2021年10月2日土曜日

新刊案内『ピア・フィードバック』

新潟の国語教師・佐藤先生が、本の紹介文を書いてくれました。


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国語の授業(や学級活動)で「振り返り」や「フィードバック」を書かせたとき、子どもたちが「○○ができていないので○○したい」「きれいにできてよかったです」「○○さんがさぼっていたのでやめてほしいです」「自分なりに頑張りました」「改善できました」「これからの生活にいかしたいです」のようなコメントを書いているとしたら、大人の顔色を伺う子どもを育ててしまっているかもしれません。

本書のタイトルは『ピア・フィードバック ICTも活用した生徒主体の学び方』です。

フィードバックが機能するための環境づくりと、様々な手法を教えてくれます。

「フィードバックってコメントを返すことじゃないの?」

「ピアってことは子ども同士でフィードバックをさせるということ? どうやって?」

そんなふうに思われる方こそ、ぜひ本書を読んでほしいです。

近年、「フィードバック」という言葉がビジネスでも教育でも使われるようになりました。

学校で言えば、教員対象に行われている「教員評価」、児童生徒に配られる「通知表」がイメージしやすいと思います。「反省」「振り返り」「リフレクション」は自分主体ですが、フィードバックは相手、他者の目線が送られてきます。一定の成果を前にして「素晴らしい」「改善できました」「努力が必要です」と反応が伝えられてきます。

しかし、よくあるフィードバックは「空虚な決まり文句」の伝達で、これをやり取りする行為や時間が役に立つことは、ほぼありません。時期の問題もありますが、通知表の所見に至ってはクレーム回避のためにほぼ定型であり、例文の本まで出版されている始末です。本書では、こうした言葉を「空虚な決まり文句」「聞き心地のよい言葉」「真実から目をそらすためのもの」と表現しています。人を育てることに資さない内実のない言葉がばらまかれているだけだからです。

そもそも私たち大人ですら、受けたフィードバックを忘れてしまいます。校長室を出たとたん、教室を出たとたん、授業終わりのチャイムが鳴ったとたん、休日が来たとたん、忘れてしまうのです。ですが、今日も多くの教室では「空虚な決まり文句」が飛び交っています。

なぜなのでしょう。

本書は明快に答えています。

P77L1~「私たちには、生まれながらにして身につけていると思い込んでいるスキルや、生徒どこかで身につけたはずだと思い込んでしまって、あえて教えていないというスキルがあるように思えます。フィードバックを適切に(送ったり-評者追加)受け取り、それを活用することは、まさにそのようなスキルだと言えます。」

つまり「習っていないから、送ることも、受け止めることも活用もできないのだ」ということです。

思い返せば、「反省」「振り返り」ですら、しっかり教わったでしょうか。教師になって理論的に教えたでしょうか。清掃の反省会では「きれいにできました」、失敗を咎められて「反省してます」と言いさえすれば、その場から解放してもらえると思っている子どもが多くいます(同じことは、家庭でも訓練されています!)。形式的な反省と振り返りが生活の中にはびこっているのです。「フィードバック」で他者目線をったとしても、受け止めて活用する術を知らないので、空虚な「反省」「振り返り」と同様に空気に流されて消えてしまうのです。

「フィードバック」は単純な評価活動ではありません。児童生徒の出来栄えを賞賛したり、弱点を指摘したり、教師の自己評価を肯定的に語って勇気づけたり、たった一回のやりとりで人を変えられたりする取り組みではないのです。

絶対に必要なのが子どもたちの聞く力を育てること。そして、たくさんの練習をさせること。P98L11「フィードバックと修正は継続的なプロセス」なのです。「フィードバック」を使いこなすようになることは、教師から正解を与えられることを待つのではなく、自ら学びのハンドルを握って、学びに立ち向かう力をもつことになるのです。「主体性(エイジェンシー)」「オウナーシップ(自分事という意識がもてること)」「エンパワーメント(自分が本来もっている力を引き出せること)」は、身に付けなさいと言われて身につくものではなく、継続的なプロセスを教室で経験する必要があるのです。

本書に書かれている全てをいっぺんに実現することはできません。私たち大人の多くが「フィードバック」を理解できていないからです。

では、どこから始めたらいいでしょう。

・教師の態度を変える

・教室の環境、雰囲気を調整する

・具体的でタイミングの良いフィードバックを試す

・フィードバックの受け取り方を学ぶ

・生徒の聞く力を育てる

・ルーブリックを生徒と作る

Googleドキュメントを使う

など、本書では様々な考え方や方法が紹介されています。

関係づくりに興味がある方は第2章から、ICTが得意な方は第7章から、フィードバックを生徒に教える方法を学んでみたい方は第4章から、というように、興味を惹かれたところから手を出してみてください。

疑問に思うところ、難しいと感じるところ、現実的じゃないと思うところがありましたら、ぜひメール、Googleドキュメント、Twitterなどで一緒に読書会―ブッククラブ―をしませんか。きっと「フィードバック」の体験ができると思います。

 

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