英語を教える先生たちとの研究会で、「大人のための対話読み聞かせ」を初めて体験しました。 「対話読み聞かせ」とは、「読み聞かせをしながら、子どもたちを読んでいることについての話し合いに招き入れる読み方」(『読み聞かせは魔法!』小学館、2018年、61ページ)です。
『リーディング・ワークショップ』(新評論、2010年)では、先生たちが「大人のためのブッククラブ」を体験し、そこから学んだことを、子どもたちがブッククラブを行うときのサポートに活かしていく様子が描かれています(『リーディング・ワークショップ』150-152ページ、217-218ページなど)。「大人のためのブッククラブ」と同じように、「大人のための対話読み聞かせ」も、まず大人が実際に体験することで、教室で使うときに活かせることが見えてくるのではないかと、楽しみでした。
「大人のための対話読み聞かせ」をすることになった研究会の準備段階のやりとりで、以下のようなメールをもらいました。
「大人のための対話読み聞かせ」をすることになった研究会の準備段階のやりとりで、以下のようなメールをもらいました。
「 単に『こんな本があるよ』と紹介だけするのではなく、また、『気に入った部分を私がただ読み上げる』のでもなく、その本が提示している問題を、対話を通して一緒に考えながら、読み進めていく、というのをイメージしています。また、生徒・学生向けに教室でも使える本というより、私たち教師が面白く読むということを念頭においています」
そして、当日、この先生は『子どもの絵の見方~子どもの世界を鑑賞するまなざし』(奥村高明、東洋館出版社、2010年)を使って、対話読み聞かせをリードしてくれました。
この先生は、前もって選んだ箇所を読み聞かせ、そのあと、スライドでその部分のキーワードを提示し、そのキーワードについてどう思いますか?と問いかけながら、対話が始まりました。
読み進むなかで、この本の中で登場する「子どもの絵」の写真を見ながら、お互いの気づきを対話し、また、「作品の評価」と「作品からの評価」というキーワードをスライドに写しての対話もありました。そして、しばしの対話のあと、また、この本の読み聞かせに戻ります。
子どもの「絵の評価」という話題から、たとえば「ライティング・ワークショップで子どもの書いた作品をどう評価するのか」も考えることもできて、美術の専門家でない私でも、ちゃんと対話・発言に、参加することができました。
今回は、その本のことをよく知っている人が、周到に準備をして、それにガイドされながら進むので、何よりも安心感がありました。対話から発見もあり、ここまで深く本の世界に入れるのだ、ということが驚きでした。
また、この「大人のための対話読み聞かせ」は、「ガイド読み」ならぬ、「ガイド・ブッククラブ」という印象も受けました。あらかじめ自分で読んでくるのが基本のブッククラブとは異なり、その場での読み聞かせが元になっているので、前もって読んでくることを要求しない(期待できない?)時にも、使える、ということも学びました。
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今回は「大人のための対話読み聞かせ」ということで、対話読み聞かせで使った本も大人向けです。また、長年の研究会仲間という信頼感のある中での「対話読み聞かせ」でしたので、教室での実践とは少しイメージが異なると思います。
今回の体験を踏まえて、『読み聞かせは魔法!』の第2章「対話読み聞かせ」(2章)を読み直しました。以下は私のメモ、そして→は私の感想です。
・「対話読み聞かせでは、読み進める過程で、子どもたちがどのような意味をつくりだしているのか(どのように理解しているのか?)を把握できる(62ページ)。
・読み聞かせをしている最中に、子どもたちにペアや小グループで話し合う機会を提供すると、読んでいることについて一層よく考えるようになる(62ページ)。
・教師は、子どもたちが自由に考えたこと、感じたこと、理解したことを言えるような環境をつくり、かつサポートする(74ページ)。
→ 上記3点は、今回の体験からも、「そうそう」と納得しながら読みました。
・対話読み聞かせの間、ペアや小グループで話す機会を提供しても、うまくついていけない子どもがでてくることもある。教師自身も、そういう体験があることを話すと子どもたちも安心できる。そして、クラス全体で「本についてしっかり話せるように聞く方法」を考えることもできる(66-69ページ)。
→ 私は、しっかり話せているペアや小グループに目が行きがちで、その話し合いの質がよいと、安心してしまうだろう、と思いました。「読み聞かせを止めた個所で、思わず何か言いたくなるような、魅力的な本を使えば大丈夫」と、「本の質」を重視しがちなので、「なぜ話せないか」という点に、十分、目が届かない気がします。
→ でも、私も読み手として「好み」がありますし、私自身、理解しにくい本、入りにくい本もあります。クラス全体に同じ本を使えば、その本についていきにくい学習者がいることにもっと目を向けなければ、と思いました。
→ 対話読み聞かせは、「好きな本にも、なかなか入れない本にも、どちらを読むときにも使える、理解を深めるための一つの良い方法」で、この方法を身につけるために、練習する機会を増やしていく、という視点も必要な気がします。
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「対話読み聞かせ」には、『読み聞かせは魔法!』の第2章に詳しく説明されているように、利点がたくさんあります。今回、教室とは少し勝手の違う「大人のための対話読み聞かせ」を体験し、『読書家の時間』(新評論、2014年)のプロローグ(3ページ)に記されていた先生の言葉を思い出しました。
「教師である私は、読書家の時間のなかで、こんな子どもの姿と出会えるなんて思ってもいませんでした。本を読んで話し合うということを軽くみていたのかもしれません。隠されていた子どもたちの力に驚きました」(3ページ)
本を読むこと、読んだ本について話すことは、やはり「軽く見れない」、本を読んで話し合うことの豊かさを実感できたのが、今回の「大人のための対話読み聞かせ」の一番の収穫だったように思います。そう思うぐらい、いい時間でした。