2010年12月27日月曜日

実践に磨きをかける方法

◆ 今年の「WW便り」は、これで最後です。

 テーマは、「実践に磨きをかける方法」にしました。(「一年の計は、元旦にあり」に活かしていただくために?)

 それを図化すると、以下のようになります。
 (図をクリックすると、拡大して見られます。)




1 WWの実践に磨きをかけるなら、何よりもWWの時間を確保する必要があります。
 子どもたちが作家(本物の作家)になる体験を通して学ぶので、最低でも週2時間の確保が不可欠です。それは、教師の志気を維持するのにも必要です。

0 もちろん、その前段としては、自分がWW関連の本を読んだり、自ら体験して、WWの効果を納得した上で、時間の確保も含めて実践に取り組む「踏ん切り」が必要です。

2 WWが、従来の単元学習などと違うところは、試行錯誤を年間を通してやれることです。その分、教師の学びも、子どもたちの学びも多くなります。
 それは、記録を取るかどうかは保留するにしても、振り返ることで可能になります。振り返らないかぎりは、よりよい実践をすることはできませんから。(振り返りのさまざまな仕方については、『「考える力」はこうしてつける』を参照してください。)
 なお、振り返りの過程に、子どもたちを巻き込むと、「自立した書き手」「自立した学び手」「自己評価できる学び手」に子どもたちを育てていくためにも大きく貢献します。

3 日本の場合は、まだWWの実践者が自分の実践を紹介する本もブログも少ないですが、英語ではすごい数あるので、それらをチェックすることで、継続的な情報収集は可能です! 英語勉強にもなりますから、一石二鳥??です。

4 もちろん、実践の記録を取って、他の実践者や「大切な友だち」からフィードバックが得られると、実践のレベルはさらにアップしますし、と同時に他の実践者にも大きく貢献することができます。

 極めてシンプルかつパワフルな方法なので、まだ実行されていない方は、ぜひ1+2+4に挑戦してみてください。

★ 自分の実践をよりよくするために、上に紹介した方法以外に試みられている方がいたら、ぜひ教えてください。お願いします。

 以上、教師のWWの実践の磨き方として紹介したことは、他の教科でも同じように使えますし、子どもたちが書くことを含めて何を学ぶ際にも使えると思います。


◆ 来年は1月7日から再スタートします。
  よいお年をお迎えください。

2010年12月24日金曜日

書かない子をどうサポートするか (5) ~ 自伝風

私(吉田)自身、書けない子/書かない子でした。

ライティング・ワークショップ(WW)を紹介したいと思った最大の理由は、まさにそのことがあったからです。小中学校の国語の時間を通して書くことが嫌いになり、30歳ぐらいまで書けなかったからです。★
WWの本を読み始めたら、自分もこんな授業を受けていたら嫌いにならないですんだろうし、もっと書くことをいろいろ使いこなせていただろうに、と思いました。そして、私を書くこと嫌いにした指導法がいまでも主流であり続けていますから、先生たちに「子どもたちが書くのが好きになり、かつ書く力を身につけられる教え方」を知ってもらいと強く思う次第です。

30歳を過ぎて、何が私を書けるようにしてくれたのか? ワープロです。というか、キーボードです。いまでも、原稿用紙には書けません。1986年にワープロで報告書と事例集を「出版」してしまったことが大きなはずみをつけてくれました。自信になりました。(今思うと、「出版」の威力です。ちなみに、タイトルは『ワン・ワールド・ワークショップ報告書』と『“楽しく”世界とつながるイベントの事例集』でした。そのころから、ワークショップをやっていたことになります。両方とも、義務で書かされたものではありません。やりたくてやったことです。前者は、実際にやったことを紹介し、普及するために。後者は、イギリスでOne World Weekという世界とのつながりを感じるイベントを1978年から毎年実施しているのですが、それを参考にしながら、日本のも踏まえつつ作った事例集です。)
キーボードは、ハード面で私に書くことを可能にしてくれたわけですが、ソフト面では「これは(ぜひ出版して)伝えたいと思える内容」があったからだと思います。後者がなければ、たとえキーボードがあったところで、宝の持ち腐れだったことでしょう。それほど、誰かに伝えたいと思える内容(=書く題材)は大事だということだと思います。

ということで、ぜひ子どもたちに「これは伝えずにはいられない」という内容を見つけ出すのをサポートしてあげてください。(それは、「書くこと自体」が目的になっていては、難しいことかもしれません。社会科とか理科(生活科)とか、総合学習とか、その他の教科とか、さらには学校以外のさまざまな体験から浮かび上がってくるような気がします。)


★ つい最近、私が書けなかったことをある出版社の編集者に話したら、「実は、私も書けませんでした」と言っていました。書けるようになったのは、芥川龍之介の短編「蜜柑」を読んだからだそうです。「こんなのなら、自分にも書けるかな」と。この編集者の事例は、メンター・テキストの大切さを証明してくれていると思います。でも、メンターとなり得る作品は一人ひとりの子どもにとって違います。(教科書は、そのことが理解できないので、常に“古典”を掲載し続けます。結果的に読む力も、書く力もつけない結果を招き続けています。)その意味で、読み聞かせや教室の中の図書コーナー等を通して、たくさんの本に触れさせてあげることは、とても大切です。

2010年12月17日金曜日

書かない子をどうサポートするか (4)

今回は、Reclaiming Reluctant Writers (by Kellie Buis from Stenhouse)の第2章と第4章から中心に紹介します。

⑪ 読み聞かせの有効活用

著者のBuisは、「読み聞かせをどれだけするかと、書かない子どもたちが書けるようになるかは相関関係にある」と言っています。
もちろん読み聞かせする本は、絵本に限定されません。普通の本でもいいし、雑誌、新聞、カタログ、旅行のチラシなども可能です。何を選ぶかは、目の前の子どもたち(特に、書かない子たち)を念頭においた教師の選択にかかっています。

読み聞かせを「書き手の視点から振り返るためのシート」の案も提供してくれています。たとえば、以下のような項目が考えられます。(48~49ページ)
・ 読み聞かせはよかった/よくなかった? その理由は?
・ 作品で特に印象に残ったことは、
・ 特に興味のあった「作家の技」は、
・ 書く題材(テーマ)として思いついたのは、
・ 書き手の声/主張は聞こえてきたか?
・ 作品の構成や文の流れで気づいたことは、
・ 言葉の選択で気に入ったのは、

これらについて読み聞かせの後に書けるようになると、作家の目で読んでいることになるわけで、読み聞かせは、自分で読む(黙読する)よりも、作家の耳で聞ける/判断できるようになるために効果的です。

単に読んで理解するのと、書くのに役立てられるように聞く(=作家の視点で読める)ことは別物なので、いかに後者を念頭において教師が読み聞かせられるかは重要なポイントにもなります(47ページ)。
その際の注意点として、作家のスタイル(構成の仕方、主張、感情面の描き方など)や作家の技などについては指摘することも躊躇せずに、場合によっては黒板や模造紙に記録することも含めて、子どもたちが使えるように手助けしていくことが大切です。

書かない/書けない子どもたちには、詩の読み聞かせ(および10月22日12月3日に紹介した書き聞かせ)を繰り返すことで、特に助けになるとも書かれています。(57ページ)文章が短く、言葉も選りすぐられている分、インパクトも大きいのだと思います。また、短いのでそのことについて話し合うことができるのも、大きな助けになります。

以上の他に、読み聞かせは、クラスの中に「作家たちのコミュニティ」を作り出すのにも役立ちますし、読み聞かせする本を、メンター・テキストにしていくという教師側の意図にそって選ぶことで、一石二鳥の使い方もできます。もちろん、子どもたちは本から刺激を受けますから、書く際にたくさんの題材のヒントを得ることにもなります。(38ページ)

2010年12月10日金曜日

低学年のWWでの絵の役割 (絵を使う理由)

 今朝、通勤途中で読んでいた絵本ですが、かなり創造的な絵本でした。

 最初は、多くの絵本と同じように、(普通に?)絵と字があります。

 でも、本の途中から、それぞれのページの真ん中に、絵が一つ書いてあります。そ
してそれぞれのページに、その一つの絵をはさむように、横書きで絵の上と下に文が
書いてあります。

 上の文は、なんと文字の上下が逆なので、上の文を読むためには、本の上下を逆にしないと読めま
せん。

 そして本の上下を逆にしたとたん、絵は、逆から見ると違う絵に見えることに気
付きました(ただし、ページによっては、上下の文を読まないと、なかなか違う絵に
は気づけないページもありました)。

 そんなページが20ページぐらい続くのです。

 面白い! と思いました。

*****

 創造的なつくりかたの本を見ると、「いつかWWで紹介するときの1冊にしよう」と
思います。

 この本の場合は、その創造性は絵を抜きにしては語れない本でした。

*****

 この本のおかげで、「WWでの絵の役割とは?、なぜ絵を使って描くこともよく行うの?」と考えました。

 『ライティング・ワークショップ』を読んでいると、幼稚園から小学校1年生の教室
では、絵を使う(絵を書き足したり、絵に単語を付け加えたりすること(72ページ
参照)が書かれています。

 また5~7歳ぐらいの子どものための事例が中心のライティング・ワークショップの
本, 『
About the Authors』 でも、子どもたちが(絵)本をつくる話が紹介されていて、自分の取り組み中の作品に絵を描 くことでできるいろいろな可能性に子どもたちが気づくことも教えています。

 例えば、ある本の絵を描くときには、まずどの部分を絵にするのか、そして絵にする部分をどのように描くのか、絵本の絵を描く人は、いろいろな「選択」をします。

 絵本から、絵を描いた人が「どんな選択をして書いているのか」ということを、子
どもたちと話し、絵を描いた人が行った選択のリストをつくったりしながら、考えて
いきます。

 こうすることで、子どもたちは、自分の作品につかえるかもしれない、さまざまな
選択肢を学んでいきます。

 まだ文字や文だけでは十分に表現できない子どもたちも、絵ができることを学ぶこ
とで、まさに「作家が表現したいことを、よりよく表現するために、いろいろな表現方法の選択肢を自分のレパートリーに加え、そしていい選択を していく」という、ある意味WWの中核にあることを、絵も使って、学んでいるのだなと思いました。

*****

 上の本、『About the Authors 』の著者は、絵本を見て、子どもたちにしてみる一般的な
質問をいくつか挙げてくれていますので、そこから少し紹介します。

 例えば。。。

 「レイアウトはずっと同じなのか、あるいは途中で変わるのか? そのことの意味は?」

 (→ 冒頭の絵本の場合、上のようなレイアウトは本の途中からの真ん中の20ページです。この20ページは、一つの状況下での人々を描いています。最初と最後のレイアウトは、普通の?本です)

 「文字と絵との関係は?、レイアウトの特徴は?」

 (→ 冒頭の絵本の場合、文字を見ないと、2種類の絵を見分けにくいページもあ ります。また、絵の上の文字が上下逆なので、本の上下をひっくりかえすことになります)

 「色の使いかたで意味を伝えていることはあるか?」

 「どのような角度から見ているのか、また、近くから見たり、遠くから見たりしているのか? このような見方は、本が伝えたいこととどのように関連しているの?」

 「文字では伝えていない情報を、絵で伝えているか?」

 「絵だけの箇所があるか。その場合、言葉なしでどのように情報を伝えているのか?」

 (これは絵ではないのかもしれませんが)「文字の大きさ、色、フォントなどを意識して使っているところはあるのか? その効果・意味は?」

(出典: Katie Wood Ray著、About the Authors  (Heinemann, 2004) 183-187ページ

 ☆ なお、冒頭で紹介した絵本ですが、検索してみたのですが邦訳は見つけられ
ませんでした。題名はThe Turnaround Wind で著者がArnold Lobel, 1988年に
HarperCollins より出版されています。私は名古屋市の図書館で偶然、出会いました。もし、邦訳をご存知でしたら教えてください。



2010年12月3日金曜日

WW版「考え聞かせ」?

 今日のタイトルは「WW版『考え聞かせ』?」です。
「考え聞かせ」といわれると、RW(リーディング・ワークショップ)を思い浮かべる人が多いようにも思います。

 読んでいる思考過程は目に見えないので、教えにくい、
そこで、先生が、「よく読めている読み手」はこうやって読んでいるよ、ということを教えるために、先生の思考過程を、口に出しながら読みます。
 こういう「考え聞かせ」を行うことで、よく読めている読み手の読み方を、はっきり見せて教えることができます。

 目に見えにくい「読む」こととは違い、「書く」ことは目に見えます。子どもの書いた下書きや、リストや修正の様子などは、作家ノートなど、紙の上に残っています。

 しかし、紙の上に残っているもの(目に見えるもの)を書いているときに、その書き手が考えていること、つまり、どのような経過/過程で、そう書いたのかは目には見えません。
 このブログでも紹介したことのあるナンシー・アトウエル氏は、子どもの目の前で、OHPを使って書いて、その書いている過程を子どもに見せる、ということを行っています。
 より優れた書き手が、どんなふうに考えて、どんなふうに書いているのかを、リアルタイムで見せるのです。
 それは、先輩の書き手が「本当に」書くときに何を考え、どのように書いているのかを、つまり書き手の頭の中というか思考過程を見ることから子どもたちが学ぶことは大きいからです。
WWで「書いている過程を見える化する」のは大切だと思います。優れた読み手の読み方を「考え聞かせ」で学ぶのと同じように学べると思うのです。
 そして子どもの目の前で書くときは、なんといっても、「本当の読者と本当の目的のあるもの」を選んで書くのがいいと思います。例えば「明日、出す学級通信」などはいかがでしょうか。
 もちろん、「目の前で書いている過程を見せる」のは、ある題材についてどんな内容をいれようかという書くことについてのかなり初期段階でも、どうやって修正しようかということを考えている段階でも、つまり書くサイクルのいろいろな段階で可能だと思います。
 
 なお、アトウエル氏が書いているところを子どもに見せるというのは、アトウエル氏(Nancie Atwell)の著書、
In the middle (Second edition), Boynton/Cook, 1998) 331-369ページに、実際に授業で使った、印をつけたり、線で消したりした手書きの原稿も含めて、載っています。