2025年6月13日金曜日

どうしてこんなに面白い? 書くツールについての本 [その3(最終回)] 〜ツールを収納する道具箱や作業台を自分仕様にする

   「ものを書くとき、自分の力を最大限に発揮するためには、自分専用の道具箱をつくって、それを持ち運ぶための筋肉を鍛えることである。そうすれば、何があっても、あわてふためくことなく、いつでもしかるべき道具を手にとって、直ちに仕事にとりかかれる」(149ページ)(★1)

 スティーヴン・キングは、『書くことについて』の中で、書くことに関わるツールを「道具箱」に入れるというイメージで、大工だったオーレン伯父とのやりとりを紹介しています。ドライバー1本で用が足りるなら、3段重ねの道具箱を持ってくる必要はなかったのではないかと問うスティーブン・キングに対して、オーレン伯父は、次のように答えています。

「『そりゃそうかもしれない。でもな、スティーヴィー』オーレン伯父はかがみこんで、道具箱の取っ手を握った。『ここへ来てみなきゃ、ほかにどんなことをしなきゃいけないかわからない。だから、道具はいつも一式持っていたほうがいいんだよ。そうしたら、予想外のことに出くわしても、おたおたせずにすむ』」(148-149ページ)(★2)

 「どうしてこんなに面白い? 書くツールについての本 [その1]と[その2]」(それぞれ4月25日、5月9日の投稿)」で紹介した本(★3)では、著者のクラーク氏は、ツールの保管場所として「作業台(workbench)」というイメージを使っています。[ツール50] 「自分用の作家の技を自分のものにする 〜自分のツールを収納できる執筆用の作業台をつくる」(240-244ページ)で、ここまで学んだツールの活用について述べています。

 クラーク氏が比喩として使った作業台 workbench という単語を画像検索すると、引き出しなどの収納も充実した、かっこいい写真がたくさん出てきます。かっこよくても、使えなければ、宝の持ち腐れです。今回の[その3] (最終回)では、使いやすい作業台の作り方を考えます。なお、以下のページ数は、[その1]と[その2]と同じ本 Writing Tools: 55 Essential Strategies for Every Writer (10th anniversary edition) からです。

 日常生活で整理があまり得意でない私にとっては、探しているものがすぐに見つけられないことが、時々、あります。

 見つけやすくする(探す時間を減らす?)一つの方法は、「分類」です。著者のクラーク氏は、ツールの分類方法の一つとして「書くときに通るステップごとに分ける」を提案しています。氏は、優れた書き手であるドナルド・マレーの1983年のプレゼンで学んだ「書くときに通るステップ」からスタートし、その後、25年以上、それらを整理し、拡げ、再編成し、応用してきたと記しています(241ページ)。(★4)

 きっかけとなったドナルド・マレーの考えはとてもシンプルで、以下の5つの単語で表されています。

idea (考え)

collect (集める)

focus (焦点を定める)

draft  (下書きをする)

clarify (明確にする)

 クラーク氏は、「言い換えれば、作家はアイデアを思いつき、それを支える事柄を集め、その作品が何についてなのかを発見し、初稿を書き、より明確にするために書き直す」(241ページ)と説明を加えています。

*****

 私であれば、「書くときに通るステップ」以外に、「使う頻度が高いツール」と「ぜひ、近いうちに使ってみたいツール」という引き出しを、作業台の目立つところに設置したいような気がしました。

→「使う頻度が高いツール」は、それぞれの書き手としての特性(強みも弱みも)が強く出る引き出しかもしれません。評価のカンファランスなどで、「使う頻度が高いツールは?(書くときの助けになることで、よく行っていることは?)」と、子どもたちに尋ねてみると、書き手としての子ども理解につながるかもしれません。

 また、読み書きを統合したワークショップ関連の本を読んでいると、読むこと・書くこと両方のツールを一緒に収納する作業台や道具箱を作るのも、いいかなと思ったりもします。

*****

 今回、3回に分けて紹介したクラーク氏の書くツールについての本のおかげで、ここしばらく、上記のスティーヴン・キングの『書くことについて』など、書くことについての本を何冊か読みました。特に以下の2冊からは、書き手側の工夫を強く感じました。

・ナタリー・ゴールドバーグの『魂の文章術』の英語のポケット版(★5)。7.8センチ✖️11.5センチで名刺の1.5倍ぐらいです。厚みは2センチありますが、軽くて、持ち運びがとても楽です。この大きさと軽さという物理的な工夫に拍手です。

・4月18日の投稿「本を選ぶことは明日の自分を選ぶこと」がきっかけで読んだ、古賀史健の『さみしい夜にはペンを持て』★6。主人公がタコの〈タコジローくん〉で、登場人物は海の生物たち。こういう題名と場面設定で、ストーリー仕立てで、書くことについて学べることに驚きました。

 クラーク氏、キング氏、ゴールドバーグ氏、古賀氏。教えてくれていることは、それぞれの書き手としての経験が土台になっています。プロにコーチしてもらって学ぶ授業はこんな感じなのかなとも思います。そして、教師も、書き手であり続ける努力を継続することで、コーチに一歩ずつ近づけるのかもしれません。

*****

★1 と ★2 スティーヴン・キングの『書くことについて』小学館文庫 2013年

★3 Roy Peter Clark著 Writing Tools: 55 Essential Strategies for Every Writer (10th anniversary edition) Little, Brown Spark

★4 ドナルド・マレーのプレゼンをきっかけに、クラーク氏は以下の8つを挙げ、それぞれに短く説明がついています。(242-243ページ)

Sniff (Sniff around)  嗅ぎ回る

Explore (Explore ideas) アイディアを探索する

Collect (Collect evidence)  証拠(裏付けになるもの)を集める

Focus (Find a focus) 焦点を定める

Select (Select the best stuff) 一番良いものを選ぶ

Order (Recognize an order) 順序を決める

Draft (Write a draft) 下書きを書く

Revise (Revise and clarify) 推敲を重ねて明確にする

★5 Natalie Goldberg. Writing Down the Bones, Shambhala, 2006. 最初に出版されたのは1986年。私が持っている2006年のポケット版には、新しい序文と著者へのインタビューが加筆されています。

★6『さみしい夜にはペンを持て』ポプラ社 2023年。私が図書館で借りたのは2023年10月出版で、すでに第7刷でした!

0 件のコメント:

コメントを投稿