「どうしてこんなに面白いの?」と思いつつ、書くことのツールについての本『Writing Tools』を読んでいます。2006年に50のツールを紹介する形で出版され、私が持っている出版10周年の記念版(2016年出版)(★2)では、ツールが5つ追加されて55のツールとなっています。55のツールは5つのパートに分けられています。一つひとつのツールは、どれも4−5ページの長さで、淡々と説明されていますが、飽きることなく、惹き込まれて、読んでいます。
著者は、ジャーナリズムの有名校で30年以上、書くことを教えてきたロイ・ピーター・クラーク(Roy Peter Clark)氏です。本を開くとすぐに目に飛び込んでくる献辞から、ライティング・ワークショップ関連の文献でよく登場するドナルド・マレー氏に捧げられた本だとわかります。また、10周年記念版の序文(xiiiページ)の最初のページには、著者のお勧め本が数冊記されています(★3)。その1冊は、2024年12月13日の投稿「書き手の『声』が溢れ出す、書くことについての本」で紹介したアン・ラモットの本 『ひとつずつ、ひとつずつ 〜「書く」ことで人は癒される』(パンローリング、2013年)です。
ドナルド・マレーとアン・ラモット。この二人の名前のおかげで、ツールを読む前から、私はすでに期待感いっぱいです。
今日の[その1]では、著者が「レントゲン読み」(X-ray reading)と呼ぶ読み方が出てくる「ツール43」「形と内容の両方を読もう〜テキストの下にある仕組みに目を向ける」(210-213ページ)から考えます。
献辞や序文で、インパクトの大きい人の名前(ドナルド・マレーやアン・ラモット)を出すのも、著者の使った魔法の一つのように、私には思えます。
さらに、ドナルド・マレーは、「ツール50の中」で、「私が教えることや私が書くことを、生涯に渡って変えた」(241ページ)教師として、カッコよく再登場します。初版は50のツールの紹介ですから、最後のツール50をドナルド・マレーの登場で締めています。ドナルド・マレーへの献辞でスタートして、途中でも、ドナルド・マレーに言及し、最後に、ドナルド・マレーからの学びがきっかけとなったツールを語ることで、着地が綺麗に決まった印象です。
思わず、「献辞での前振りを着地で回収」と、勝手にこの方法に名前をつけてしまいました。
(なお、ツール50は、それまでに紹介されたすべてのツールを俯瞰的に見ている印象です。このツールについては、「どうしてこんなに面白い? 書くツールについての本 [その3]」で紹介できればと思っています。)
さて、「ツール43」(210-213ページ)「形と内容の両方を読もう〜テキストの下にある仕組みに目を向ける」で強く感じたのは、二つの点で、優れた書き手は優れた読み手であることです。
一点目は、(自分が感銘を受けた本などを)何度も何度も読み直して、どうしてうまく書けているのかを考えることです。これができるだけでも、他の書き手から学ぶことは多そうです。
でも、著者のクラーク氏は、それだけでは終わりません。著者自身、何かを書く時には、そのトピックの[内容]に関わるものを読むことから始めるものの、同時に[形・ジャンル]についても目をとめていることを記しています。
そして、「よりよい写真のキャプションを書きたいなら古いLife誌」、「説明が上手になりたいなら、優れた料理の本」「気の利いた見出しなら、大都市でのタブロイド」等々を読むといいというアドバイスもしています(210-211ページ)。
また、以下のように読めることも紹介しています(212ページ)。
・書き手の声を聴くために読む
・これから発展できる可能性のある話のアイデアを求めて新聞を読む
・さまざまな新しいストーリーテリングの形を体験するために、オンラインで読む
・どうしても読みたくなったら本を全部読む。しかし、その一端を味わうこともやってみる
★1 Roy Peter Clark著 Writing Tools: 55 Essential Strategies for Every Writer (10th anniversary edition) (2016年, Little Brown Spark)の中の211ページで出てきます。
★2 上の★1で紹介した本です。
★3 それ以外で、邦訳が出ているものとしては、以下です。
・ナタリー・ゴールドバーグの『クリエイティヴ・ライティングー自己発見の文章術』春秋社 (1995/6/25)。この本は 2006年『魂の文章術 書くことから始めよう』へ改題・増補新装。2023年には新書版が登場 『魂の文章術』扶桑社新書
・スティーヴン・キングの『書くことについて』小学館文庫 2013年