数日前に、ダウン症のバービー人形が発表されたというニュースを目にしました(★1)。褐色の肌のバービーや車椅子のバービーなどの多様なバービー人形のラインアップに、また新しいものが加わったことになります。同様に、英語の絵本を見ていると、登場人物も多様化し、多様な子どもたちが教室の中にいることがわかる挿絵もよく目にします。
いろいろな登場人物が主人公になったり活躍したりすることが当たり前になり、時には自分がなんらかの共感や好感をもてる人がいると、教室の風通しがよくなり、子どもも教師も、呼吸がしやすくなる気がします。
例えば、「こうあるべきだ」という思い込みが、現実ではないことがわかると、ほっと深呼吸できそうです。
古い絵本ですが、『いじわるブッチー』(★2)の女の子。「ママはいろんな人とお友だちにならなきゃだめよ」というけど、ブッチーとは遊びたくない。「もうちょっと、お互いに快適な距離のとりかたはできないの?」と、私は思ってしまいます。でも、「すべての人とお友だちなれるわけではない」という出発点があって初めて、次に進めるのかなと思ったりもします。
『Harriet, You'll Drive Me Wild!』(★3)という絵本に登場する若いお母さん。なかなか親の思うように動いてくれない子どもハリエットちゃんは、悪気はないけど不器用で失敗ばかり。お母さんは、すごい忍耐力で接しています。しかし、ある時、キレて大爆発。なかなか見事なキレかたで、惚れ惚れ?します。
『としょかんライオン』(★4)で図書館長として活躍するメリーウェザーさん。図書館に突然ライオンが登場しても動じず、他の利用者と同じように、温かい厳しさをもって受け入れます。挿絵を見ていると、やや年配の女性のようです。毅然としていますが、人間味たっぷりで、ちょっとドジ。なかなかカッコいいです。(ちなみに図書館員のマクビーさんは中年の男性。本の前半では、ライオンが登場すれば、びっくりして焦ったり、図書館にライオンなんていらない、と思ったり、とよくありそうな「普通の」反応です。しかし、後半で、彼は大きく変わります。)
もし、ブッチーと分かり合う努力の大切さが謳われていたり、もし、ハリエットちゃんのお母さんがひたすら忍耐の人であったりすると、なんだか息が詰まりそうです。
また、もし、メリーウェザーさんとマクビーさんの性別が逆であれば、私は今と同じぐらい、メリーウェザーさんが好きになれたかな?とも思います。いまだ「男性の上司」の比率が高い日本ですから、図書館長のメリーウェザーさんを女性にした設定にも魅力を感じたのかもしれません。
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知人の大学教員で英語の絵本を授業で使っている人がいます。学期の終わりに学生たちにお気に入りを尋ねると、「同じ何冊かの本に集中することなく、ばらつく」と言います。それぞれにとって、ほっと一息ついたり、力づけてくれる本は異なる、ということかと思います。
そう思うと、教室の図書コーナーにいるヒーローやヒロインたちが多様であることの価値の大きさを思います。私であれば、メリーウェザーさんのような年配の女性が活躍している本が印象に残りやすい反面、いろいろな年代の男性を不自由にしている「こうでなければならない」という思い込みに、風穴を開けてくれるような絵本は、素通りしているかもしれません。
「ほかの人の立場で考える力」が問われるところです。
『ポスおばあちゃんのまほう』(★5)のポスおばあちゃんは、優しいおばあちゃんですが、積極的で勇気に満ちた選択ができる人です。著者のメム・フォックスによると「4歳の女の子の読者に、70年後にこうなってほしいというモデル」(★6)とのことです。
そう思うと、「4歳の女の子の読者に、70年後にこうなってほしいというモデル」の本を選んだ後は、「4歳の男の子に70年後にこうなって欲しいというモデル」というイメージで、意識的に本を選んでみるということも面白いかもしれません。
自分の好みや偏りを自覚しつつ、教室にいる、また読み聞かせで使う本のヒロインやヒーローも多様にしていく、そのことの価値は子どもにとっても教師にとっても、大きそうです。
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今朝のCNNニュース(★7)で、フロリダ州の「本の禁止」に関わって、作家ジュディ・ブルームのインタビューがありました。ここ数年、アメリカでは、人種差別やLGBTQ関連ほか「禁止される本のリスト」がニュースで取り上げられています。彼女の本も一部の教室から撤去されているようです。子どもたちの本に多様性が増える一方、逆行するかのように、これまで教室にあった本の多様性がなくなるということも起こっているようです。
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★1 https://www.cnn.co.jp/business/35203122.html
★2 『いじわるブッチー』バーバラ・ボットナー(著)、ペギー・ラスマン(画)、東春見(訳)、徳間書店、1994年
★3 『Harriet, You'll Drive Me Wild!』 Mem Fox (著)、 Marla Frazee (イラスト)、Clarion Books、2003年
★4 『としょかんライオン』 ミシェル ヌードセン (著)、ケビン ホークス (イラスト)、福本 友美子 (訳)、岩崎書店、2007年
★5 『ポスおばあちゃんのまほう』 メム フォックス (著)、ジュリー ヴィヴァス (イラスト)、加島 葵 (訳)、 朔北社,
2003年
★6 『Radical Reflections』Mem Fox(著)、Harcourt、1993年、161ページ
★7 2023年4月29日午前9:00-10:00(日本時間)放映の「Anderson Cooper 360°」
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