【時々投稿をお願いしている吉沢先生に、今回も以下の投稿をお願いしました】
2022年1月8日の投稿で、小学生の詩を集めた『小さな目』という本からいくつかの作品を紹介しました。この本には、小学生を対象に書かれたコメントが掲載されています。★1
私はこのコメントにとても魅力を感じました。子どもの発想を認め、個性の表れた作品を評価する一方で、子どもの陥りがちな問題をストレートに指摘しているからです。
今回は、そのような問題に対する評者のコメントに光を当てたいと思います。次の4点から紹介します。
(1) 人間には我慢してやらなければならないこともある
(2) 通信簿など心配しても仕方がない
(3) 形だけ整えて安心してはいけない。自分の本当に言いたい中身を見つけるべき
だ。
(4) 社会的な事実について、一足飛びに結論をだしてはいけない。
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(1) つらいことも我慢してやらなければならない
次の作品は小学校1年生のものです。★2
なつやすみ
なかた かずま
これで
にっきをかくのが
しまいです
うれしくでたまりません
もう
にっきかいたか と
いわれません
→ これについて評者は、「このしには きらいなことをやりとげて ほっとした よろこびが でている。これは これでいい。」と認めた上で、「しかし うれしがってだけ いたのでは ダメだ。」と言います。評者は、毎日の生活で好きなことと嫌いなことを区別してみることを提案しています。ご飯やおやつを食べること、遊ぶこと、寝ることは好き。歯を磨いたり、学校へ行ったり、勉強したり、日記を書くことは嫌い。そして、次のように言います。
「こうして かぞえてみると きみが きらいなことは にんげんだけが やることだ。きみの すきなことは いぬやねこだって やっている。にんげんが にんげんとして りっぱに なるためには、すこしくらい きらいなこと つらいことも がまんして やらなくては いけない。」
(2) 通信簿など心配しても仕方がない
次の作品も小学校1年生のものです。★3
つうしんぼ
きよの ひでお
ぼく たいていおこられるな
れんらくちょうに
かかれただけで
おこられるんだもの
ぼくのおかあさんは
ぼくのテスト
「みたくない」って
つうしんぼ
なんてんだろうな
ぼく とってもしんぱい
→ 評者は言います。「きよのひでおくんは 『つうしんぼ』を とても しんぱいしているが、そんなもの しんぱいしても しかたがない。わるかったら こんど しっかり やればいい。」
なんどストレートなコメントでしょう。作品としての出来ばえ以前の問題として、そこに表わされている子ども自身のあり様を評者は心配し、助言しています。たかが通信簿ではないか、という評者の声が聞こえてきそうです。
(3) 自分でなくては作れない特別なものを書くこと
次の作品も小学校1年生のものです。★4
えんそく
かわぐち のりこ
せんせい
はしがあるよ
せんせい
ばらがさいてるよ
せんせい
はんかちおとしちゃった
せんせい
つかれちゃった
せんせい
おべんとうにしてよ
せんせい
ばななはんぶんあげるよ
→ 評者は「いかにも とかいの子らしい きのきいた しだ。」とし、「せんせい」という言葉の繰り返しがリズムを作り出していることを認めつつも、次のように言います。
「でも この しには どうしても このひとでなくては つくれないという とくべつなものがない。どこの だれの えんそくにも でてくるようなことを ただ ならべてそれを「せんせい」で つないだだけだ。(中略)あなたのような しっかりした子は、もっと こころのこもった じぶんでなくてはかけないようなしを かいてほしい。」
(4) 一足飛びに結論を出してはいけない
次の作品は小学校6年生のものです。★5
さむらい
工藤 順二
さむらいはどうして
きり合いをするのだろう
同じ日本人でありながら
きり合いをすることは
ばかげたことだ
たったひとつしかない
命を
むだにするなんて
ばかなことだ
→ ばかげているとわかっていてもきり合いをして命を捨てる武士がいるという現実をどうとらえるべきでしょうか。
「むかしは子どもがそんなことをいうと、へ理屈をこねるといってしかられたものだ。いまは子どもがこういう詩をつくると、さすがは現代っ子だ、はっきりしている、といっておとなたちは感心する。しかしこんなことでいい気分になっていたら大変だ。ものごとをなんでも表面からだけ常識的に解釈して、それでわかったつもりになっていたらとんでもない。」
武士の命のやりとりには、それ相応の理由があってのこと。その時代の流れや、歴史的な事実を知りもせずに、一足とびに結論をだしてはいけない、と評者は言います。
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子どもの気持ちを受けとめ、個性を認めることが大切であることは、言うまでもありません。と同時に、間違っていること、至らないことについて、それを指摘し正していくのも大人の大切な役割です。この本のコメントから私は、子どもに真摯に向き合い、しっかりした人間に育って欲しいという評者の思いを感じます。
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★1 コメントには、書いた人の名前が記載されていないため、本稿では「評者」という呼び方にしてある。
★2 ★3 ★4 引用の詩とコメントは、朝日新聞社編『ぼくらの詩集 ちいさな目 1ねん・2ねん』(あかね書房, 1964)より。
★5 引用の詩とコメントは、朝日新聞社編『ぼくらの詩集 ちいさな目 5ねん・6ねん』(あかね書房, 1964)より。
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