2020年7月24日金曜日

「作家ノート」プロジェクトがスタート!


ライティング・ワークショップを最初に紹介しはじめたとき(約15年前)から、ずっとやりたいと思っていたプロジェクトです。
 作家ノートは、ライティング・ワークショップ/作家の時間の「核」です。
 生徒一人ひとりが作家ノートを持つ形で、授業中以外も、書く題材集め、下書き、修正等を作家ノートに書き溜め続けます。ある意味では「常に」書き続けるというか、書くことについて考え続けることを意味します。★(それは、自分の人生およびその周辺について考え続けることを意味します!)

 本物の作家、詩人、俳人、歌人は、持っている人が多いです。ノンフィクション・ライターやジャーナリストは、取材ノートの名称で持っています。それがなければ、仕事にならないぐらいです。
 本物の書き手がしていることを同じように体験するのが、ライティング・ワークショップ/作家の時間ですから、作家ノート/取材ノートが「核」なのは当然です。

 すでに、4人のメンバーでスタートしていますが、あなたも参加できます。子どもたちに作家(取材)ノートを持ってもらい、そして書く題材集め、その中からの選んだ題材の下書きを書き出し、それをブラッシアップした修正文などをドンドン書き続けてもらうのです。★★ もちろん、子どもに自らの作家(取材)ノートのより効果的な使い方を開発してもらうのもOKです。そして、その中で本人(プラスあなた)がいいと思ったものをプロジェクト宛(pro.workshop@gmail.com)にお送りください。

 ちなみに、『A Writer’s Notebook(作家ノート)』という本を、『ライティング・ワークショップ』の著者のラルフ・フレッチャー氏が書いています。小学生も含めた子どもたちを対象にした本です。(対象が広いので、こちらの本の方が教師向けの『ライティング・ワークショップ』よりもはるかに売れています!)最初に読んだときから、「こんな本をぜひ出したい!」と思わせる内容でしたが、訳すことは最初から考えられませんでした。その本の中に登場しているような、日本の子どもたちの実践例を使わないと、日本の子どもたちには(そして、先生たちにも)インパクトがありませんから。
 そのフレッチャー氏のオリジナルの『作家ノート』の目次に含まれているのは、次のような内容です。
・「作家ノート」って、いったい何?
・忘れられない物語
・大いなる驚き(不思議)
・小さく書く
・たくさんのネタ
・頭に浮かぶ映像
・会話の一部
・リスト化する
・記憶
・元気にする文章
・読み直す ~ 宝石をさがし出す
・書くことについて書く

 これらは、フレッチャー氏が集まった子どもたちの作品をもとに構成した感じがします。なので、日本語版でもあらかじめ章立てを考えて、それを満たす作品を集めるのではなくて、集まった作品から本の構成(=章立て)を考えますので、みなさん(というよりは、子どもたち!)の参加をお待ちしています。
 可能なら、コロナウィルスの影響で、今年は短縮されている夏休みの期間中も是非フルに活用してください。
 「作家ノート」(普通のノートでOK)を渡すことと、あとはその使い方を簡単に説明するだけでOKです。たとえば、

【どんなノート?】
・作家、詩人、ジャーナリスト、ノンフィクション・ライターが作品を書くために使うノート
・書くことを楽しくするノート
・落書きでもいい!!(他人に見せたくないなら、それもOK

【何を書く?】
・自分がいちばん書きたいこと 
・ふと頭に浮かんだこと
・生活の中での気づき
・何気ない生活の一コマ
・心が動いた瞬間のこと
・問いと答え(問いについての自分の考え)
・生活の中で出会った言葉を書き留める。(テレビ、マンガ、本、友だち、先生、親・きょうだいの名言)
・何かを思い出すきっかけになりそうなことを記録する。

 教師も自分の「作家ノート」を持つことをおすすめします。教師が率先してモデルを示すことができれば、子どもたちも前のめりで取り組むことができると思います。
 もちろん、これは夏休みの期間限定ではなく、残りの年度めいっぱい使ってください。そして、年度末に子どもの作家ノートの一部を送ってください。(その間の疑問・質問はpro.workshop@gmail.comにお送りください。「作家ノート」プロジェクトのメンバーがお答えします。)

★ なので、自立した書き手になるための「核」というか、生涯を通して書き続ける人になるための「核」といえます。これはまた、教えられなくてもいいことを意味するかもしれません。一人ひとりの子どもが、自分で学び続けられることを意味するからです。

★★ もちろん、その中の光るものは、しっかり校正をし、清書して、出版し、フィードバックが得られるようにしてあげてください。これによって「作家のサイクル」が完成しますから。https://wwletter.blogspot.com/2012/01/blog-post_28.html サイクルを回せるようにすることこそ、書くことの指導でもっとも大切なことです。それ以上大切なものはありませんから、教師の役割の焦点もそこに当てるべきです(それは、上に書いたモデルで示すことを含めた、子どもたちみんなが書きたくなる雰囲気づくりと言い換えられるかもしれません。間違っても、添削などではありません! いくらホワイトボードを使って教えたり、添削にがんばったりしても、自立した書き手は育ちませんから、無駄な時間は割かないでください)。

2020年7月18日土曜日

「深く耳をすます」行為としての「積読」



『理解するってどういうこと?』の第4章「アイディアをじっくりと考える」の冒頭には、ジョン・ストーンという詩人の「早朝の日曜日」という詩が置かれています。これは、アメリカを代表する画家エドワード・ホッパーの同名の絵画作品にたいするオマージュですが、次の言葉で締めくくられています。



 起こっていることと同じくらいたいせつなのは起こっていないこと。



 この言葉は「沈黙を使う、深く耳をすます」という理解の種類を示唆しています。ホッパーの『早朝の日曜日』という絵では、一見何ごとも起こらない日曜日のアメリカのある町の一角が描かれるだけです。何ごとも起こらない絵だからこそ、描かれていない細部を私たちはことさらに想像することになります。「起こっていないこと」に慎重に耳を澄まして深く考えるという理解がうまれると言うのです。

 永田希さんの『積読こそが完全な読書術である』(イーストプレス、2020年)はいくつもの読書論にもとづいて「積読」のもつ意義を考察する本です。私には、永田さんが「積読」にこの「沈黙を使う、深く耳をすます」という理解の種類を強く認めていると思われてないません。たとえば、永田さんが鋭く考察するピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』(大浦康介訳、ちくま学芸文庫、2016年)では「読み落としや内容の失念など、わたしたちが本を読むときに避けることのできない不完全性」をあらわす「未読」のもつ状態が「理解」にとって積極的意味をもつとされています。

 バイヤールの言う「未読」には大きく言って「ぜんぜん読んだことがない」「ざっと読んだ(流し読みした)」「人から聞いたことがある」「読んだことはあるが忘れてしまった」という四つの状態があります。よくよく考えてみると「積読」という状態はこのすべてにあてはまるのではないかと永田さんは言います。いや、自分の読む行為を振り返ってみるとこのいずれかの状態で、本棚や机上に積み重なっている本のいかに多いことか!読み通せていない「やましさ」、内容をはっきり思い出せない「うしろめたさ」にとりつかれてしまいます。私などはこうした「やましさ」「うしろめたさ」ばかりが膨らんでい方です。

 だから、永田さんの次のような言葉に出会ってはっとしました。



 書物は、それを読んでいない時間とそれを読んでいる時間との「あいだ」に存在しているいるのです。(中略)たしかに本は、「読むためにある」という性質を持っています。しかしそれと同時に、矛盾するようですが、「読まれないため」にも本は存在しているのです。本という形態は、それを読まずに「とっておく」ためにも機能するようにできているからです。(『積読こそが完全な読書術である』33ページ)



 本は「読むためにある」という考えにとりつかれている状態を、永田さんは濁流の水をガブのみする状態だと言い、「「読まれないため」にも本は存在している」という考えを持ち込むことは、その情報の「濁流のなかに、ビオトープをつくる」ことだと言います。現実に濁流のただなかに「ビオトープ」をこしらえるというのは至難の業だと思いますが、読む行為に関して言えば「自分なりの積読環境」をつくることが「情報の濁流」のなかに「ビオトープ」をつくることになります。この「積読環境」が他律的なものではなくて「自分なりの」ものつまり「自律的」なものとであるということが肝心なところです。自分なりの「積読環境」なのですから、他人からとやかく言われるいわれはなく、「未読」の「やましさ」「うしろめたさ」からは自由になれるのです。だからこそ「未読」の本に耳を澄ますことが可能になるのですね。「積読」を「環境」と捉えることでずいぶん気が楽になります。



 人がある書物を開き、そこに書かれている文字に目を走らせるとき、その人は何をしているのでしょうか。ある本のあるページの、ある一文に目を走らせるだけで、その人は読書をしたことになるでしょうか。あるいは、その一文が書かれた一ページだけを読んで、それを読書だということはできるでしょうか。本に書かれている内容に「ざっと目を通すだけ」という行為を「未読」に含めて肯定したバイヤールならば、このような「拾い読み」も読書として認めるかもしれません。

 どこからが読書で、どの程度から読書ではないのか、これを厳密に定義することは不可能です。完全な読書が不可能なように、読書の完全な定義も不可能なのです。

 「積読」は、手に入れはしたけれどちゃんと読んでいない、という状態を指す言葉です。「積読」は、バイヤールが『読んでいない本について』で「未読」と呼んだ読書と読者の関係の在り方の別の呼び方だと言えるのではないでしょうか。(『積読こそが完全な読書術である』7879ページ)



 ホッパーの絵について「起こっていることと同じくらいにたいせつなのは起こっていないこと。」と言い切ったストーンという詩人の言葉と共通していませんか。「起こっていない」読む行為を営むことで、私たちは自分と本との関係に「深く耳をすます」ことになります。「積読」は、自分にピッタリ合った本を選んで読み続けることができる自立した読み手となる大切な条件なのかもしれません。

2020年7月11日土曜日

絵本の紹介 〜邦訳の出ている絵本を中心に、英語読み聞かせリストより

 私は英語を教えていることもあり、英語の絵本の読み聞かせサイトから、今まで知らなかった作家や作品に、数多く出会ってきました。先日、読み聞かせサイトのかなり包括的なリストを見つけました。今日は、そのリストの一部から、面白かった絵本で、邦訳のあるものを中心に紹介します。

 まず、その包括的なリストは以下です。これだけ網羅してくれているのは、私にはとてもありがたいです。

 上記のリストに含まれているいくつかのサイトから、以下、お薦め絵本の紹介です。英語ですが、以下のサイトで内容も確認できるので、便利です。

▶︎ Brightly storytime 

  リストの最初に出てくるのが、Brightly storytimeというサイトで。ここで読み聞かせをする女性が掲げている本(710日現在)は、ジャクリーン・ウッドソン著の名作『みんなとちがうきみだけど』汐文社)です。英語の題は The day you begin. 新しいところ、新しいクラスメートなどに向かって踏み出す時に、そっと背中を押してくるような本です。

  関連テーマの本として、スーザン・カウフマン『ようこそ! ここはみんなのがっこうだよ』鈴木出版)も、同じサイト(Brightly storytime)にあります。英語の題は All are welcome で、英語の絵本ではこの繰り返しが効果的に使われています。

 あとは、同じサイトからマイケル・レックス
『おれ、ピートくいたい』(評論社)
→ これは、びっくりの展開で、ちょっと怖いかも? こういう本は好き嫌いが分かれるかもしれません。

▶︎ Kid Lit TV 

 リストの3つ目のサイト Kid Lit TV には、著者自身が読み聞かせているものも多いです。2020年2月14日の投稿の最後の方で紹介したトッド・パール『しっぱい!とおもったけど』解放出版社)の、著者自身による、楽しい英語読み聞かせもここにあります。

 著者が読み聞かせていて、「あ、これ、好き」と私と波長があった本は、Patricia Lakin 著の Beach day です。これは邦訳がありませんが、ほとんど単語を並べているだけ、という感じです。それでも、十分に意味が通じ、かつクスッと笑ったり、楽しめたりできます★。 また、
こちらも、邦訳は見つけられませんでしたが、Tish Rabe著の Love you, hug you, read to you.「読んであげる(read to)」ということが、lovehug と同列に並んでいることがいいなと思います。また、この著者でしかできない読み聞かせ(歌いつつ。。。)も印象に残りました。

 邦訳があるものとしては、以下のような懐かしい本を何冊か見つけました。

 バーバラ・クーニー著の『ルピナスさん』(ほるぷ出版)。静かに語りかけてくる絵本です。

 ジョン・シェスカのオオカミ視点でオオカミが語る『三びきのコブタのほんとうの話』(岩波書店)。パロディを導入するときに、よく登場するのではないかと思います。

 そういえば、このサイトにはありませんが、パロディでは、ユージーン・トリビアス『3びきのかわいいオオカミ』冨山房)とセットがいいかもしれません。

▶︎ The Screen Actor's Guild -- Storyline Online 

 リストの4番目です。このサイトでは、読み聞かせをしている人の多くが、映画スターのため、さすがに読み聞かせが上手です。そして、邦訳されている本も数多くあります。ざっと見るだけでも、『ストライプ』『にじいろのさかな』『ありがとうフォルカーせんせい』『おとうさんのちず』『ロバのシルベスターとまほうの小石』『ゆうかんなアイリーン』『どろんこハリー』など、よく知られた作品が揃っています。

 上記ほど有名でないかもしれませんが、私は以下も大好きです。

・アヒルに育てられたワニのグジグジの物語。チェン・チーユエン『ぼく、グジグジ』(朔北社)。かわいくて勇敢なグジグジは、読み聞かせでも人気者になれそうです。テーマは深いものがある、と私は思います。これはかなり広い学年での読み聞かせに使えると思います。

・『ぼく、グジグジ』とテーマでは重なる部分もありますが、『ぼく、グジグジ』と比較して読んでみても面白いのが、ジャネル・キャノン『ともだち、なんだもん!』(ブックローン出版)。こちらは映画アイ・アム・サムの中でも使われていた本です。

・記憶を失った?高齢者の話であるメム・フォックス『おばあちゃんのきおく』(講談社)。

・ある出来事をきっかけに変わるハッチさんの変貌ぶりがユーモラスな、アイリーン・スピネリ『だいすきだよ、ハッチさん』(徳間書店)。

・図書館長さんも、出てくる子どもたちも、いい味を出しているミシェル・ヌードセン『としょかんライオン』(岩崎書店)。

・初めて学校に行くことになるアライグマの子どもとお母さんの愛情を描くオードリー・ペン著の『キスのおまじない』(アシェット婦人画報社)。

・ビル・マーティン Jr とジョン・アーシャンボルト著の『青い馬の少年』(アスラン書房)。目の見えない少年とおじいさんの思い、一見地味に見える絵本かもしれませんが、ゆっくり落ち着いて読みたい絵本です。

 (このサイトは、それほど冊数がないので、私は全部視聴しました。残念ながら、おそらく一番好きな本、The tooth は邦訳が見つけられませんでした。5分ぐらいですが、終わり方が見事ですので、英語の好きな方はぜひ楽しんでください。なお、抜けた歯を枕の下に置くと、翌日、歯の妖精がお金を枕の下に入れてくれる、という歯の妖精についての知識が必要です。)

▶︎ Brightly Storytime Flip-Along

 リスト6番目、実際にページをめくりながら読んでくれるサイトです。


 長く読み続けられている絵本を何冊か見つけました。

 ルドウィッヒ・ベーメルマンス著の『げんきなマドレーヌ』(福音館書店)。日本語のアマゾンのページに、「マドレーヌシリーズは2014年で刊行75周年を迎えました」と書かれていたので、びっくりです。

  ロバート・マックロスキー著の『かもさんおとおり(福音館書店)。こちらもロングセラーですね。日本語の出版年が1965年です。でも、今でもありそうな風景です。

 (『スター・ウオーズ』『秘密の花園』を簡単にしたものもあります。後者は私はとても好きな作品なので、こうやって短くしてしまうことには、やや複雑な気持ちもあります。)

*****
 今日は、私がこれまでよく観てきたサイトから紹介しました。懐かしい絵本にも再会し、長く読み継がれている絵本も多いことを、改めて思いました。絵本リストはまだまだありますので、また日を改めて、紹介できればと思います。

 他にも良いリストや良い本があれば、教えていただければ、嬉しいです。

*****
 

★ 上に記載したPatricia Lakin 著の Beach day に、私が「波長があった?」と感じた理由の一つに、英語のライティング・ワークショップに使えないかな?と思ったこともあります。
 「まず、文法と単語力をしっかり』学習させないと、英語で書くことを教えるのは無理でしょう」という人もいらっしゃいます。でも、こういう本をみていると、外国語でも、比較的早い時期に「表現したいことを表現することを教えていく」のも十分可能なのでは?と思います。
 母語でのライティング・ワークショップでも、補助的に絵を使ったりもしつつ、早い時期から、自分の表現したいことを表現することができると思うと、外国語のライティング・ワークショップでもいろいろ工夫はできそうに思います。

2020年7月3日金曜日

リーディング・ワークショップで、自立的な学び手を育てる

NPO法人みらいずworksの小見まいこさんが中学校で実践されているリーディング・ワークショップの授業の参観記を書いてくれました。「みらいずworks」は、「希望が持てない子ども・若者に対し、身近な家族や友達との人間関係を深め、地域や社会と関わりながら社会参画意識や課題を探究し学び続ける力を育てることで、『自分から自分らしくみんなとともに、社会をつくる人』を育てます」を活動目的に掲げて、主に学校や先生たちをサポートしている民間団体です

 佐藤可奈子先生が実践されている中学校の3年生のリーディング・ワークショップ授業を201912月に参観してきました。初めてリーディング・ワークショップの見学。生徒の様子として驚いたことは、自分の時間を選択し、その時間に没頭していたことです。佐藤先生は、受験目前の3年生ということもあり、読書だけでなく、テスト対策をするということも選択肢に入れていました。そのため、テスト勉強のためにワークブックに取り組む人、国語の教科書題材の理解を深める人、選書した本を読む人、レターエッセイを書く人がクラスに混在していました。まさに、自分自身の状況や関心に合わせた「選択する学び」★が行われていました。
 授業の成果物は、レターエッセイを最低1本は書くことです。選書して、自分の好きな本、苦手な本を知りながら、自分が面白いと思えた本について、批評的に評価したり、自分の反応や価値観を説明したり、していきます。今回の生徒は、リーディング・ワークショップに取り組むのは2回目だそうです。1回目の感想では、以下のような感想があったそうです。「第一期で自分の好みの本がわかったので、第二期では好みの本を中心に、3冊読了を目標にして、第一期よりも充実したリーディング・ワークショップにしたいです」「本を読むだけでなく、読み返しやアウトプットにより効果があるなと感じた。この有意義な時間のお陰で書くことの楽しさもわかったので、次回は書くこともしてみたいと思った。また、読むペースや質をあげたい」一期目の経験や学びを踏まえ、二期目である今回の授業では、生徒は自ら目標を設定し、自分のペースで、意識的に読む、より伝わるように書く時間を創っていたことがわかりました。
 佐藤先生は、生徒が自分の好きな本を読めるように様々な工夫をしていました。第一に、読みの手本を準備することです。リーディング・ワークショップで活用するスキルがわかるように、2冊の絵本に、佐藤先生の問い(問いのスキルの見本)が付箋で書き込まれていました(写真を参照)。それを選択した生徒は、絵本で問いのスキルを使って読むことを練習したり経験したりします。

第二に、選書リストをつくることです。これは教師がつくるのではなく、生徒がおすすめ度合い10点の満点をつけた本を黒板の下にリストアップして貼り付ける(写真を参照)、「自分にそっくりなもう一人の自分」におすすめする本をブックトラックに集めて借りられるようにする(写真を参照)、など生徒目線による選書リストをつくることを実践していました。それにより、選書に迷った際に、参考にできることに加え、他の生徒の読みを感じながら、視野を広げて本を選び、自分の好きな本を選ぶ力を身につけていくことにもつながっていきます。

第三には、環境づくりです。当日授業が行われた図書室には、ゴザが敷かれ、その上で寝転んだり、一人で自分の心地よい場所を選んで、読みをする生徒たちがいました(写真を参照)。どこで、誰と読むかも自分で選ぶことができます。同様に、心地よいBGMが流れていました。休憩時間から流しておき、生徒が徐々に自分の世界に入り込むための仕掛けだと感じました。佐藤先生は、どの工夫も試行錯誤で行っているようでした。生徒の様子を見ながら、より良い学びの環境づくりをするのが教師の役割であることを再確認しました。

 現在は、佐藤先生らと、「あなたの授業が子どもと世界を変える」(ジョン・スペンサー、A・Jジュニアーニ著、吉田新一郎訳、新評論、2020年)をオンライン・ブッククラブしています。その中で、自立的なマインドセットの鍵となるのは、「自発的に行動すること」と「自己管理できること」の二つの要素であり、自立的な学び手には、両方が必要だと論じられています(107p)。佐藤先生は、リーディング・ワークショップは、この二つの要素を満たしていると感想を記していました。自立的なマインドセットは、すぐに育つものではなく、自発的に行動する環境や機会があり、自分で目標や計画を作りながら、効果的な方法を選択して、自分で学ぶことの意義や楽しさを実感していく。その繰り返しで育っていくものだと学びました。
リーディング・ワークショップはまさに、自立的な学び手を育てる実践であり、これからの学びをつくる上で非常に参考になる方法です。私は教員ではないので生徒向けに授業の実践は難しいですが、リーディング・ワークショップによる授業を知ってもらえるように、事例発表やオンライン・ブッククラブの機会を作るなどして啓発をしていきたいです。

なお、佐藤先生の授業は、https://wwletter.blogspot.com/search?q=%E4%BD%90%E8%97%A4で紹介しています。

★ 生徒が選択できる授業はとても大事です。自分が主役になれる度合いが格段に高まりますから。もし、選択する部分が一切ないと、単に教師にお付き合いするだけになりかねません。その大切な選択を生徒に提供するための情報は、『教育のプロがすすめる選択する学び』で得られます。もちろん、リーディング・ワークショップとライティング・ワークショップの授業は、上で紹介されていたように生徒の選択を最大限に活かした実践と言えます。