3月に、鶴見俊輔の『文章心得帖』と桑原武夫の『文章作法』を紹介しましたが、今回は丸谷才一の『思考のレッスン』です。前の2つが「書くこと」に特化していました(とは言っても、両方とも「生きること」そのものとも言えなくはありませんでした)が、丸谷さんのはタイトルの通り、「読むこと」と「書くこと」も踏まえた「考えること」=「生きること」がテーマです。★ 一回ではとても紹介しきれないので、連載で行きますが、長くなるので、全部はメルマガでは流しません。興味を持たれた方はたまにブログを覗いてみてください。
上の2人もそうですし、丸谷さんもそうですが、いわゆる国語関係者ではない人たちの方が参考になることを書いているというのが、過去のこのブログからもお分かりいただけると思います。
章は、全部で6つのレッスンで構成されています。もともとは、雑誌の「本の話」で連載されたインタビューだったので、とても読みやすい本でもあります。(インタビューなので、口語体で、丸谷さん得意の「旧仮名遣い」にもなっていません!!)
章立ては、以下の通りです。
レッスン1: 思考の型の形成史
レッスン2: 考え方を励ましてくれた3人
レッスン3: 思考の準備
レッスン4: 本を読むコツ
レッスン5: 考えるコツ
レッスン6: 書き方のコツ
初回に紹介するのは、レッスン1の半分です。数字は、文庫版のページ数。青の斜字は、私のコメントです。
●レッスン1: 思考の型の形成史
12 「正しくて、おもしろくて、新しいことを、上手に」書くのが文筆業者の仕事。
四拍子全部がそろうことはなかなかむずかしいので、せめて新味のあることを言うのを心がけるべきではないか。
僕は、「遊び心」をとても大切にしています。新しいことを言い出す遊び心というか、遊びとしての新しい意見、みたいな気持ちがあるんですね。
<メルマガからの続き>
14 十代の十年間(=1935~1945年)、僕には不思議で不思議でたまらないことがいっぱいありました。中でも、2つことがらがどうしてもわからなかった。
その一つは、なぜ日本はこういう愚劣な戦争 ~つまり日中戦争を始めてしまったのか、どう見たって先行き見込みはないのに、なぜそれをずるずる続けていくのか、ということでした。
まさかその上、アメリカと戦争するなんて、これ以上バカなことをするはずはない、絶対にやらないと思ってましたよ。 ← 10代のまともな少年(青年)にわかることが、大の大人たちにとっては理解できなかった?
17 もう一つの謎は、「日本の小説はなぜこんなに景気が悪いことばかり扱うんだろう」ということでした。 志賀直哉しかり、正宗白鳥しかり。
20 「どうもこの戦争で自分は死ぬらしいなあ」という気持ちがかなりあったわけですね・・・・2つの謎が解けたらいいなあとは思うけれども、解ける見込みがあるとも思わない・・・・それが、僕の人生の基本的な条件だったんじゃないでしょうか。
23 本を読まない時代に、読んではいけない本を乱読する
25 フレイザーの『サイキス・タスク』(岩波文庫)を読んで、「ああ、なるほど。国王崇拝というのは原住民の信仰なんだなあ」と思って納得したことを、いまでも覚えている。つまり「現代日本人というのは、原住民と同じなんだなあ。原住民の信仰みたいなものを利用して、軍人が威張っているのがいまの日本の社会の構造なんだ」と思って、それが昭和十年代の僕の心の支えのようになっていた。 ← 構造は、いまも変わらない。そういえば、デューイが日本に来て批判したのもまさにこの点。覚めた目の人には見えてしまう! ちなみに、丸谷さんは約40年後の1982年に『裏声で歌へ君が代』を執筆。
26 「本を読むな」とペアになっていたのが、「暗記せよ」ということでした。「勅語」とか、「生徒心得」といったものを、ただやみくものに暗記する。筆写する。
28 精神教育と称していたけれども、あれはつまり富国強兵の具体的な方策が何もなかったから、ああいう呪文によって間に合わせていたわけね、結局。~ 丸谷さんにとっては、ずいぶん生きにくい時代だったでしょうね。
でも逆に、そういう「大真面目、バカ真面目、くそ真面目」への反発があって、僕の遊び心が養われたということはあるでしょう。そのせいでいま、戯文的随筆を書くのが好き、滑稽小説、喜劇小説を書きたいという気持ちがあるような気がしますね。
★ 私は、基本的に本(日本語の)は買いません。図書館で借りて読めるからです。鶴見さんのも桑原さんのも、そうして読みました。丸谷さんのは、読み終わって、すべてノートもとった後に、娘にも読ませたいと思ったのと、自分の手元においておきたかったので購入しました。それほどの本でした。本を買ったのは、過去3年ぐらいで3冊目です。
すでにこの本を読まれている方は、私がどんなところを面白いと思ったのか、比較してみてください。感想やフィードバックは大歓迎です。
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