作家のサイクルは、ご存知のように図1です。(『作家の時間』の91ページ)
ジャーナリストも、詩人も、書く人たちは、このサイクルを繰り返し使っています。

WWは、それを子どもたちが書くときにも使ったら、書くことが好きになり、かつ書くスキルも身につくのではないかと考えました。それは、みごとに当たりました。100%とは言えないまでも、95%以上の子どもたちは書くことが好きになり、かつ書く力を着けていきます。
この図1に欠けていることを、いくつか補います。
・ まず、題材集めの前に、当然「日々の暮らし、体験、興味・関心、たくさんの記憶」などがあります。それらが、題材のベースです。★
・ 修正は、すでに下書きとして書いたものを単に「直す」というよりも、「新しい光る何かを見つける」(英語のre-vision)と捉えた方がいいです。
・ 作家のサイクルでもっとも特徴的なのが「出版」。それも、本当に存在する対象に向けて書くことだと思います。ですから、必ずフィードバック(ファンレター)をもらえるので、更なる書く意欲につながります。
・ 出版した後には、それに至る過程で学んだことを振り返ったり、身に着けたスキルを確認します。
・ 題材として決めたものが、すべて出版までこぎつけるわけではありません。10分の1よりも少ないと思います。下書きすらしないもの。下書きで消えるもの。修正で消えるもの。修正から下書きに戻るもの。出版の直前でボツになるものなど、いろいろです。その意味では、図の黒の矢印は片方に向いているのではなく、両方向に矢印がついていたほうがいい気がします。
『リーディング・ワークショップ』を訳して紹介して、日本でも先生たちが実践するようになってから、「読書のサイクル」について考え始めています。
WWの方は、作家、ジャーナリスト、エッセイスト、詩人・俳人等の職業が存在し、「作家のサイクル」や「作家の技」と言えるものも確固としてありますが、RWには職業として読書家はいませんし、「読書家のサイクル」や「読書家の技」と言えるものも存在していません。
ですから、RWがWWを応用して始まったように、「読書のサイクル」も「作家のサイクル」を応用する形で考えてみました。図2をご覧ください。(ここ2~3年考え続けていますが、考えるたびにどういう言葉を使ったらいいのか揺れ動いています。従って、あくまでも現段階の暫定的なものとして紹介します。なお、これら2つのサイクルと行ったり来たりしていると、作家のサイクルにも若干違うルートがあってもいいのではないかと思えたりしますから、考え続ける価値は十分あると思います。)
図2に解説を加えます。
・「一人/ペア読み」=「ひたすら読む」で、作家のサイクルの「下書き」=「ひたすら書く」に相当します。対象によって、一人で読む場合も、ペアで読む場合も、読み聞かせの場合もあり得ると思うからです。
・作家のサイクルの「修正」=「新しい光る何かを見つける」(英語のre-vision)に相当するものとして、読書のサイクルでは「ブッククラブ」を選んでいます。それが、理解や解釈を深めたり、広めたり、修正したりするのに役立つからです。
・作家のサイクルの「校正」に相当する部分は、読書のサイクルでは「読みの修正」になっていて一番弱いところです。何かいいアイディアがある方は、ぜひ教えてください。
・作家のサイクルの「出版」に相当するのは、読書のサイクルでは自分(たち)がこれはいいと思った本の「紹介」です。出版の場合と同じで、これを実際にする本は、全体の中のごく一部です。その方法は様々考えられます。中でも一番効果が薄いのは読書感想文と言えます。本当に読んでもらうには、何をどう紹介するのが効果的かを真剣に考えなければなりません。「紹介」というよりも、プレゼンテーションと言ったほうがいいぐらいかもしれません。
・図には描かれていませんが、紹介/プレゼンテーションに至る過程で学んだことを振り返ったり、身に着けたスキルを確認して、再び新しいサイクルを回していきます。
いかがでしょうか?
作家のサイクルと読書のサイクルのいいところは、本当の仕事でも使われていることです。ですから、学校の中だけで役立つ作文や読解と違って、生涯にわたって使えるものを身につけることになります。もちろん、これらのサイクルは、理科、社会、算数などそのまま他教科に応用することもできます。実際そうしていかないと暗記科目のままになってしまいますから、早急にアクションを起こすべきです。
★ 作家やジャーナリストやエッセイストや詩人や俳人は、特別な暮らしや体験や興味・関心をもっている人たちかというと、かならずしもそうではなく、それらをいろいろな切り口で見られる人たちのような気がします。従って、子どもたちにもそういう見方を身に着けてほしいわけですが、特に小さい子たちの場合には、たくさんの刺激的な生活、体験、興味・関心がもてる機会が大切だと思います。