2026年1月9日金曜日

『教師のためのアート・オブ・コーチング』の著者のエリーナ・アギラーという人について

  エリーナさんが、教師になったのは1994年のことです。

 当初、教師になるつもりはなかったそうです。大学院に進むために、お金がなかったので学校で代用教員になり、それで教えることの楽しさに開眼してしまったそうです(そして、大学院に行くことはやめました!)。

 彼女がなったのは、英語(日本での国語)の先生です。彼女がどこかで書いていたり、語っている記録を見出すことはできませんでしたが、1990年代は、彼女が先生をしていたカリフォルニア州も含めて全米で普及しつつあったのがリーディングとライティング・ワークショップ(RWWW)なので、大なり小なり影響されていた、ないし実践していたことは想像がつきます。(彼女がつくり出したトランスフォーメーショナル(変革)コーチングとの関連性についてはあとで触れます。)

 自分にとって、教えることは楽しくてしかたがなかったのですが、生徒たちが彼女に尋ねた質問の一つは、なんと「先生は来年もここにいますか? 学年の終わりまで残りますか?」でした。彼女は「もちろん残るよ」と答えましたが、生徒たちは「多くの先生はそうじゃないんです」と言ったのです。そこで彼女は、教師の離職率の高さ、そして教師が抱える圧倒的な負担やストレス、燃え尽きの問題をすぐに理解しました。これは、1990年代の半ばないし後半のことです。

 教師になって最初の数年間、彼女もコーチングを受けたそうです。「それは、とても技術的で、授業の指導法に焦点を当てたものでした★1。しかし私が本当に必要としていたのは、『このすべてプレシャーをどうやって乗り越えるのか』、つまり感情や日々の圧倒的な負担をどう扱うかというサポートでした」と回想しています。

それから約15年後★2、私は自分が設立に関わった学校でコーチになりました。そこで私たちが特に懸念していたのは、やはり教師の高い離職率でした。私が開発したコーチングの方法は、ある意味で私自身が教師時代に受けたコーチングを土台にしています★1。つまり、授業改善や生徒のエンゲージメントに焦点を当てるインストラクショナル・コーチング★3の要素を含みつつ、直感的に「信念」や「あり方」に関するコーチングを始めたのです。なぜなら、そこにこそ燃え尽きやストレス、圧倒的な負担感、そして感情についての対話が生まれるからです。感情は美しく、前向きで励みになるものですが、同時に困難も伴います(引用は、https://www.youtube.com/watch?v=mjrEfCJgO0w の動画より翻訳。その動画ではインタビューされているエリーナさんを見ることもできます)。

 さて、このブログの読者にとっての関心事であるRW&WWとエリーナさんが実践している変革コーチングの親和性についてですが、次の表のようにまとめられます。

テーブル

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 この表は、https://projectbetterschool.blogspot.com/2015/03/blog-post.html にある表の一番右側と共通性が多いと思いませんか?

 また、『教師のためのアート・オブ・コーチング』に付けられた解説「アメリカを中心にした欧米諸国におけるコーチングの歴史とその普及の経緯」の424ページで紹介されているもう一つの表(出典は、Responsive Literacy Coaching: Tools for Creating and Sustaining Purposeful Change, by Cheryl Dozier, 2006, Stenhouse Publishersの11ページ)を見ると、コーチが柔軟に個々の教師にニーズに応えながら(教師が同じことを対生徒で行うことと対比しながら)学びをつくり出す理論的な枠組みが示されています。

 これら3つの表から読みとれることは、日本の授業と教員研修が、まだそのような形では行われている割合は極めて少ない、ということです。

 理想的には欧米各国のように各学校にコーチを配置することですが★4、過度期には、管理職、指導教諭、主幹教諭、教科主任や学年主任などが、コーチング・スキルを身につけて若手教師を中心に同僚にコーチングをしたり、ピア・コーチングをしたりすることが現実に考えられるし、求められています。

 インストラクショナル・コーチングが始まったアメリカの歴史を振り返ると、出発点はRWWWの普及だったことは間違いありません。その成功によって、優れた実践者をコーチとして採用して普及を図ったのです。その成功が、次の段階では算数・数学を中心に他教科やICTなどのコーチにも広がりました。

 すでに表に示したように、RWWWとコーチングの間にある親和性は大きく、授業で日々カンファランスをしていた優れた教師たちの多くが、優れたコーチになっていきました。その意味では、RWWWを実践するということは、いいコーチになるための準備もしていると言えるわけです★5。逆に言えば、RWWWの実践をしていないでコーチになることのハードルは、かなり高いと言えるでしょう。練習の量がものをいいますから!

 

★1 彼女もコーチになった当初は、行動だけに焦点を当てて教師をコーチングしていたそうです。しかし、それでは数か月後には元に戻ってしまうことが多いと彼女は指摘しています。例えば、協同学習を導入することに同意して、何度も練習して実践できるようになったのに、何か月後かにその先生の教室を訪ねてみると、「なぜ生徒が列に並んでいるのか」「なぜ教室が静まり返っているのか」といった場面に出くわします。そこで彼女は「静けさ」や「生徒の発言」に関する教師の信念を掘り下げる必要性に気づいたそうです。その信念が選択にどう影響し、生徒にどう作用するのかを理解することが、真の変容につながるからです。

 この点は、授業にそのまま応用できてしまうと思いませんか? 教師ががんばってたくさんの知識やスキルを詰め込んでも(あるいは、生徒本人がそれらを一時的に詰め込んだとしても)、残念ながら、それらが生徒たちの中にあまり残らないことを誰もが知っています。

それでは、定着する学び、生徒であれ教師であれ、心底理解して、変容する学びはどのようにつくり出すことができるのでしょうか? 少なくとも現在、日本で行われている教員研修や授業は、そのことをほとんど考えずに行われていると言えないでしょうか? 要するに、「ごっこ遊び」レベルの研修であり、授業が続き、リアルな当人たちが使いこなせるレベルの研修や授業ではないということです。

 https://projectbetterschool.blogspot.com/2025/12/blog-post_21.html および

https://projectbetterschool.blogspot.com/2025/12/abd.html を参照ください。

★2 彼女が、コーチとしての取り組みを始めたのは2003~4年ごろという情報もあるので、15年後ではなく、10年後が正しいかも? 『教師のためのアート・オブ・コーチング』は彼女のコーチとしての約10年間の経験をまとめたものであり、コーチになったばかりの人(2003~4年当時の自分)が知っておきたいことをまとめた本です。

★3 これについては、『インストラクショナル・コーチング―授業と学校を変革する教師の最強パートナー』ジム・ナイト著、図書文化、2026年2月刊行予定を参照ください。

★4 https://projectbetterschool.blogspot.com/2024/09/blog-post.html

   https://projectbetterschool.blogspot.com/2024/04/blog-post.html

★5 それと比べて、日本でいいと評価される授業を教室で実践し続けることは、必ずしもいい研修会や協議会等での講師になることは保証していません。依然として、「話した(教えた)のに、覚えてないの」的なアプローチが主流ではないでしょうか?

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