2025年3月7日金曜日

「文字なし絵本」という、優れた教材

  現在、シンガポールのインターナショナル・スクール★1 で英語(日本の国語)と社会科を教えているケリー先生の実践を紹介します。

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 絵本はもはや小学校入学前の児童に限定されるものではありません。小学校の教師はもちろん、中学校の教師たちも、絵本がすべての学習者にとって受け入れやすく、テキストを素早く共有する方法として便利であり、あらゆるテーマに対応する絵本があるため、とても重宝しています。なかでも、私のお気に入りは文字のない絵本です。

私は授業で文字のない絵本を使うと、生徒たちをさらに深く考えさせることができるので好きです。なぜなら、生徒がすべての読解を自分で行えるからです。また、文字のない絵本が提供する、自由さと解釈の幅の広さが私は大好きです。

文字のない絵本は、「一人ひとりをいかす教え方」★2 にも役立ちます。生徒一人ひとりが自分のレベルでテキストに取り組むことができるのです。まだスキルを学んでいる段階の生徒にも取り組みやすいですし、もっと深く掘り下げていける生徒には素晴らしい挑戦と深みを提供します。

 文字のない絵本が、私の教育実践を向上させている4つの方法を紹介します。

1. 推測のスキルを向上させるのに最適

推測は、生徒が読むテキスト(本や文章)を理解し、より深く探究する際に重要な読解スキルの一つ★3 です。文字のない絵本は何が起こっているのかを意図的に文章で説明しないため、生徒はイラストに注意深く目を向ける必要があります。話し合いの際は、自分の推測を見たものから得た証拠を使って説明し合います。

文字のない絵本には、詳しい絵が描かれており、じっくりと観察することを促します。推測するスキルに最適な指導用テキストの一例は、Rogerio Coelho作の『Boat of Dreams(夢が詰まった船)』★4 です。この絵本は複雑なプロットをもっており、簡単には説明できず、議論の余地が多い内容です。なので、生徒たちは(大人も!)イラストを使って自分の考えを支持しながら、その解釈や理解をつくり出すのに長い時間をかけることができるでしょう。

2. 語彙(言葉)の使用を強化する

生徒は、文字がない絵本のプロットを再話し、学んでいる語彙を使うことに挑戦できます。さらに難易度を上げるために、生徒は物語に直接関連しない語彙(言葉)リストを使うこともできます。例えば、Daniel Miyares の『That Neighbor Kid(近所のあの子)』という、隣の男の子と一緒にツリーハウスを作る話を再話する際に、どれだけ多くの科学用語を使えるか挑戦することができます。これまで習った語彙リストを使わせることで、その語彙の意味を強化することができます。

さらに、この活動を発展させるために、生徒に「本にあったらいいなと思うイラストは何か、そしてその理由は?」と尋ねることもできます。この活動で、文字のないテキストと語彙(言葉)とのつながりを深めることができます。

3.描写的な文章を書くためのインスピレーションを得る

文字がない絵本は、クラスで描写的な文章を書くためのきっかけになります。書くアイディアを思いつくのが困難な生徒にとって、プロット、設定、キャラクターはすでにイラストによって提供されているので、生徒たちはストーリーを美しい言葉や対話で埋めることができます。

書く指導をする教師に人気のあるクリス・ヴァン・オールズバーグの『ハリス・バーディックの謎』★5 は、14枚の無関係なイラストと、それぞれに付けられた一行のテキスト(文章)が特徴です。これらの絵とキャプションは魅力的で、読者がその周りに物語を創りたくなるような刺激を与えます。私は教室の中にそのイラストをいくつか貼り、生徒たちに自分が魅力を感じる絵の前に座って、物語を書かせるようにしています。同じ絵が異なる人々に異なるインスピレーションを与えるのを見て、生徒たちはいつも楽しんでいます。★6

4.英語を学んでいる生徒の言語スキルの向上

英語を学んでいる生徒がスキルを向上するために使える文字がない絵本はたくさんあります。そのなかでも最も効果的な絵本は、年間を通して繰り返し参照でき、話し合いに詳細と深みを加えることができます。Anne-Margot Ramstein Matthias Aregui の『Before After(前と後)』は、クラスの図書館に加える価値のある一冊です。

この本は、簡単な見開きページに描かれたテーマ(材料とケーキ)から始まり、次第により複雑なテーマ(時間の流れ、都市開発など)に進んでいきます。この本は、授業の導入として使うことができますし、生徒たちが自分自身の「前」と「後」のイラストを作成し、それを説明し合うという授業の一環としても使うことができます。

絵本の選択

どの文字のない絵本を使うかは、どうやって決めるか? 幸いなことに、絵本をざっと見て、授業内容やクラスの子どもたちに適したものを選ぶのに時間はかかりません。使い勝手がいい絵本のタイトルをいくつか紹介します。

・『漂流物』デイヴィッド・ウィーズナー作 (この人も、文字なし絵本の作家です!)

・『ジャーニー 女の子とまほうのマーカー』 Aaron Becker(旅の3部作の1作目)

・『The lion & the mouseJerry Pinkney

・『Float Daniel Miyares

・『Bluebird Bob Staake

・『The Farmer and the ClownMarla Frazee

・『ズーム』Istvan Banyai(続編もあり)

・『PoolJihyeon Lee

・『アライバル』Shaun Tan(日本で多数出版されています)

・『MirrorJeannie Baker(『森と海のであうところ』が日本で出版されています)

・『Free the LinesClayton Junior

 あなた自身も、お気に入りの文字のない絵本を含めて、授業での使い勝手がいい絵本をぜひ探してみてください★7。また、絵本探しを楽しむだけでなく、ぜひ、その活用の仕方を考えることも楽しみ、そしてその結果(あるいはプロセス)を教えてください!

 

★1 日本にあるインターナショナル・スクールも同じですが、各国にあるインターナショナル・スクールはIB(インターナショナル・バカロレア)やリーディングやライティング・ワークショップの実践を含めて、世界基準で最先端の取り組みをしています。

★2 生徒は各自、そのもっている知識、情報、体験、興味関心、こだわり、読み/読解のスキル、学び方や学ぶスピード、レディネス等々が違います。それらの違いを踏まえた教え方として開発されたのが「一人ひとりをいかす教え方」です。『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』『一斉授業をハックする』『教育のプロがすすめる選択する学び』などを参照してください。

★3 「推測する」以外の読むスキルは、関連づける、質問する、イメージを描く、何が大切かを見極める、解釈する、読みながら修正するなどです。これらの身につけ方/練習の仕方については、『「読む力」はこうしてつける』と『理解するってどういうこと?』が参考になります。(※『「読む力」はこうしてつける』の巻末には、これらのスキルを練習する際に使える文字なし絵本を含めた絵本のリストが多数紹介されています。)

★4 この記事で紹介されている絵本は、文字がないか、あっても最低限なので、日本の出版社が出したものではなく、海外の出版社が出したものでも使えます。

★5 クリス・ヴァン・オールズバーグの他の絵本も、すてきな文字のないものばかりです。

★6 実際のこの絵本から、刊行25周年記念にスティーブン・キング、ルイス・サッカー、ロイス・ローリーなどの著名な作家たちの物語が収録されている本が出されました。『ハリス・バーディック年代記 14のものすごいものがたり』です。

★7 「文字がない絵本」や「文字なし絵本」で検索すると、たくさんの対象となる絵本が見つかるはずですし、公立図書館などの司書さんにも尋ねてみてください。

出典: https://www.middleweb.com/37177/4-ways-to-teach-with-wordless-picture-books/

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