10月22日の投稿「『狩猟者』としての読者」では、三中信宏氏の『読書とは何か―知を捉える15の技術』(河出新書、2022)が紹介されていました。この投稿の中で、三中氏が「読書の技能訓練」として指摘している以下の二つのことは、しっかり納得しました。そして、読み手の人生?をより良いものにするためにも、「必須で押さえたい、不可欠なこと」だと思いました。
A. その同じ本を他の読者がどのように読んだのかを知ること(『読書とは何か』67ページ)
B. 同じ著者が書いた他の著書をひもとくこと(『読書とは何か』68ページ)
(*この時の投稿では、上記2点は「読書行為を個人の枠内にとどめないという点で重要」であることも指摘されています。なお、上記の「A」「B」は、説明の便宜上、10月22日の投稿者によって付けられたものです。)
今回はこの2点について、ここしばらく考えていたたことを投稿します。
まずBの「同じ著者が書いた他の著書をひもとくこと」については、なんといっても、自分のお気に入り作家に出会える可能性を確保するという点からも、ミニ・レッスンの必須項目!と思いました。それは、ある作家の最初に読んだ1冊が、今ひとつ自分に合わない時に、「あ、この本は苦手だ」ではなくて、「この作家は苦手だ」と決めつけてしまうことが、私には少なからずあったからです。
ですから、ミニ・レッスンで達成したいのは、「ある作家について、この作家が好きか嫌いか、読み続けるか続けないかを決めるためには、1冊で決めない、同じ作家の違うシリーズもしくは違うテーマの本をあと2冊読んでみる」みたいなアプローチを、常にできるようになることです。
(→「1冊だけで、ある作家が好きか嫌いかを決めない」ことは、選書以外にも「ある一部で全体(あるいはある人)がわかったつもりになって判断しない」という姿勢につながるかもしれません。短絡的な私には、そういう姿勢が身につくと、読書以外にもプラスがあるように思います。)
ミニ・レッスンでできそうなこととしては、教師の体験や子どもたちの知っている作家から、1冊で決められないと思った例を、時々、紹介するのも一つの方法かと思います。また、日々の読み聞かせで、ある本を読んだ後に、「この作家には『○○○』という、全く異なる雰囲気の作品があるよ、1冊で作家の好き嫌いを決めるのは難しいね」等を、さらっと、でも、頻繁に伝えていくのもいいかもしれません。
子どもたちが読みそうな作家では、例えば、私の大好きな作家の一人、アヴィ(Avi)は、「え?同じ作家の作品?」と思うほど、幅の広い作品を書いています。
アヴィの『星条旗よ永遠なれ』(ニューベリー賞銀賞受賞、唐沢則幸訳、くもん出版, 1996年)は、初めて読んだ時に、強い印象を受けました。対象年齢は小学校高学年か中学生以上ぐらいかと思います。この最初に出合った一冊のおかげで、一時期、アヴィの作家読みをしました。おそらく70冊以上の著作があり、ミステリー、ファンタジー、歴史もの、冒険もの、家族もの、学校生活、絵本、動物が主人公のものなど、テーマもジャンルもそこから受ける印象もあまりに異なるので、(全てを読んだわけではありませんが)その幅の広さにびっくりしました。そしてもちろん、その中には「私としてはイマイチ」というものもありました。
邦訳されている作品は10冊程度かと思いますが、その中で、私がうまく入れなかったのは『クリスマスの天使』(金原瑞人訳、講談社、2002年)です。まず、「クリスマス」「天使」という題名から期待したイメージとは大きく異なりましたし、怖い感じが楽しめませんでした。もし、アヴィの最初に読んだのがこの本であれば、「いまいち好きではない作家」で終わってしまったかもしれません。
(なお、今日の投稿の最後には、邦訳の出ているアヴィの本をいくつか紹介しますので、よろしければお読みください。)
10月22日の投稿の中で、三中氏が「読書の技能訓練」として指摘している 1点目「A その同じ本を他の読者がどのように読んだのかを知ること(『読書とは何か』67ページ)」については、10月22日の投稿では「Aについて、三中さんは、いま自分が読んでいる本について書かれた他の本や文章のことを取り上げていますが、共通の本や文章を複数の読者が読んで語り合ったり、書き合ったりすることも含まれると思います」と書かれていました。
共通のものについて、複数の読者が語ったり、書いたりするという点では、私は定期的に絵本やTEDトークなどを紹介して、「10段階での評価とその理由」という活動を行っていますが、それについての自分の見方が変わりました。
これまでは10や9の高評価が多いと、単純に「これは評価が高いから、いいものが選択できた。来年も使えそう。いいものを選べてよかった」と喜んでいました。逆に高評価が少ないと「もっと上手に選ばなくては」とがっかりしていました。
でも、今回、上記の(A)を読んでから、「評価が分かれる」ことの面白さや価値に目が向きました。低い評価であっても、その理由を読むと「よく考えて低い評価にしている」と思うこともあります。また、それぞれに評価の理由として取り上げている箇所も異なります。
→ 次年度に使うものの選択を考えるときも、評価の高いものだけを選ぶ必要がないと認識しつつあります。
→ 反応や評価が異なっていることを、教師だけが知って終了していたことはもったいないと思いました。反応が評価が異なることが当たり前であることがわかるような時間を、もっと日常的に取り入れたいとも思いました。
(おまけ)
★アヴィの邦訳が出ている作品についての短い紹介
・『星条旗よ永遠なれ』(ニューベリー賞銀賞受賞、唐沢則幸訳、くもん出版, 1996年)ドキュメンタリー・タッチです。こんなことは実際にはあり得ないかもしれませんが、ある行動から周りが動き始めると、歯車が狂っていく? そんなことは起こりうるだろうと思って読みました。
・ニューベリー賞を受賞した『クリスピン』(金原瑞人訳、求龍堂 2003年)。そして、これまたニューベリー賞銀賞受賞の『シャーロット・ドイルの告白』(茅野美ど里訳、偕成社、1999年)。どちらも、ストーリーがどんどん進むので、気がつくと読み終わっている感じです。どちらも、本から受ける印象は『星条旗よ永遠なれ』とは異なります。
・『ぼくがいちばんききたいことは』(青山南訳、ほるぷ出版、2019年)は短編集。訳者あとがきによると、原題は「息子たち、父親たち、祖父た血の話」だそうです。「すっきりハッピーエンド」を集めたものではなく、味わいは少しずつ異なりますが、だからこそ、いい短編集だと思います。
・『父さんの納屋』(谷口由美子訳、偕成社、1997年)これはアメリカ開拓時代が舞台。
・絵本もあります。『そんなこともあるかもね!』(福本友美子訳、フレーベル館, 2007年)は、クスッと笑えそうな短編を集めた絵本。
(そのほか、『はじまりのはじまりのはじまりのおわり 小さいカタツムリともっと小さいアリの冒険』(松田青子訳、福音館書店、2012年)という絵本もあります。また、『ポピー ミミズクの森をぬけて』(金原瑞人訳、あかね書房、1998年)と『ポピーとライ 新たなる旅立ち』(金原瑞人訳、あかね書房、2000年)もあります。この3冊はかなり前に読んだので、詳しくは思い出せません(汗)。すみません。)