1。本、本、本
いろいろな本についての対話が載ってる本、『ぜんぶ本の話』(池澤夏樹・池澤春菜 毎日新聞出版 電子書籍版 2020年)を通勤の時に読んでいました。これは池澤夏樹と池澤春菜のふたり(親子です)が、いろいろな本について対話しているもので、次から次へと書名が出てきます。登場する本の一覧が最後にあるので、それをざくっと数えてみただけでも200冊以上の本が並んでいます。登場する本は、章ごとのテーマ、例えば、「読書のめざめ」「大人になること」「翻訳書の楽しみ」「謎解きはいかが?」等で分類されています。自分が読んだ本と重なりが多い章もあり、大昔に読んだ本を懐かしく思い出したりもします。
多くの書名が登場する本と言えば、全国365書店より365人の書店員さんのお薦めの一冊が、手書きポップと短い紹介文とともに紹介されている『The Books ~365人の本屋さんがどうしても届けたい「この一冊」』(ミシマ社編 2012年)を、年末に地元の図書館から借りてきました。
この本では、書店名や書店員さん名も記載され、書店の地図もあります。各ページには、それぞれの書店員さんお薦めの一冊が、手書きポップと紹介文で挙げられています。加えて、同じページにその人の「次の一冊」も小さな字で小さく記されています。つまり、一人で2冊の書名をあげているので、2冊✖️365名。この本だけで700冊超の書名に触れることができます。
同じフォーマットで、中高生を対象とした『The Books, green ~365人の本屋さんが中高生に推す「この一冊」』(ミシマ社編 2015年)もあります。こちらも併せて図書館から借りてきましたが、「前作とは重複のない365書店、365名の書店員さんに選書」をしてもらったそうです。ここでも「お薦めの一冊」プラス「次の一冊」が記載されていますから、この本からも700冊以上の本の情報が得られます(「お薦めの一冊」プラス「次の一冊」には、ごく僅かですが重複があります)。
冒頭に書いた『ぜんぶ本の話』と年末に図書館から借りた上記の2冊で、合計1600冊以上となります。短い期間に、こんな多くの書名が手元の3冊にあるという経験は初めてです。
2。大好きなはずの「本の紹介」でも。。。
本の紹介を読むのは昔から好きです。高校の頃は、次に購入する本を決めるため、特に真剣に読んでいた気がします。本の紹介から、次に読みたい本に出合えたり、自分がすでに読んだ本であれば、「そうそう」とか「あ、そうか」等々と反応したり。ですから、この3冊と楽しい時間を過ごそうと思っていました。
しかし、年末年始、時間が取れず、『ぜんぶ本の話』は通勤で目が通せたものの、書店員さんたちのお薦めが詰まっている2冊は、ずっと手付かずのままで、図書館の貸出延長をして、それでも、積んだままでした。新年になり、図書館の返却期限が迫ってきて、慌てて、初めてページを開きました。
この本では、書店員さんたちは、それぞれ、「お薦めの一冊」と「その次の一冊」と合計で2冊しか選べません。しかも、『The Books, green ~365人の本屋さんが中高生に推す「この一冊」』の方は、年代を想定しているとはいえ、お薦めする相手は不特定多数です。この選書は難しいだろうなあ、どんな本が集まっているのかなと思いつつ開いてみると、予想していたよりも多様なジャンルの本が集まっていました。
『The Books ~365人の本屋さんがどうしても届けたい「この一冊」』だけを見ても、大昔、私が高校生の頃に読んだ本『赤頭巾ちゃん気をつけて』から、リーディング・ワークショップでもお馴染みの絵本『てん』や児童文学の名著『ギヴァー』もあります。
私の知らない本や作家も数多く並んでいます。タイトルだけみても、フィクションはもとより、エッセイ、ルポ、詩集、写真集、哲学書、図鑑等、これだけ幅のある本がよく揃ったなと思うぐらい、いろいろ出てきます。ジャンルを広げるという点でも有益だと感じます。
これはどんな本? 次に読みたい本は? と考えながら、あっちを見たり、こっちを見たりする時間は楽しいのですが、その反面、図書館の返却期限も迫る中、限られた時間では無理だとも思いました。私はTEDトークも好きで、よく視聴していますが、TEDトークは日々新しいものが追加されていくので、ウェブサイトを開くたびにその数に圧倒されます。それとちょっと似た感覚です。
3。「多量のお薦めリスト」と「上手に選ぶこと」のギャップ
返却期限までに書店員さんたちのお薦め本を読むのは諦めて、自分用に注文することにしました。「多量のお薦めリスト」は手元にあれば、時間のある時に活用できるかもしれないものの、そのままでは時間切れで「手付かず」で終わることもある。今回の年末・年始の経験から、「多量のお薦めリスト」と「学習者が楽しんで学べるものを上手に選ぶこと」のギャップを考えてしまいました。
英語を教えている私は、これまでも、自分の教えている学習者向けに、学校の図書館にある英語の本から作家別のお薦めリストをつくったり、お薦め本の紹介を書いたりしてきました。ここ2年は、オンライン授業の時期もあり、オンラインで読んだり視聴したりできる英語のサイト★も、それなりにいろいろと紹介してきました。できるだけ目を通し、紹介できる「量」は増えたものの、学習者が自分に合ったものを自立的にうまく選択することにつながっているようには思えません。リスト作成とその提示で終わってしまっています。
ゆったりとした時間があれば、お薦め紹介を読むこと自体、(うまくガイドすれば)楽しめるのかもしれません。しかし、現代の子どもたちも、私が教えている学習者たちもそれぞれに忙しそうです。特に「今学期中に○つのジャンルで、それぞれ○冊以上読もう」みたいな目標が設定されていれば、目標をクリアーすることが優先順位になりそうです。そんな時に、多量のお薦めリストや情報を提示しても、利用されることは少なそうです。
4。長期休暇中の読書
教師は、特に長期休暇中に、お薦めリストを使って欲しいと思うことが多いのではないでしょうか。
ここから二つのことを思い出しました。
一つは『イン・ザ・ミドル』(アトウェル, 2018年)の中の「長期休暇中の読書」という迫力ある(?)セクションです(『イン・ザ・ミドル』236−238ページ)。教室の図書コーナーから、少なくとも一人6冊は長期休暇中に読む本を見つけることを目標として、教師も生徒も、みんなですごい勢いでブックトークをすることが説明されています。教室の図書コーナーの本を貸し出すことにはそれなりにリスクがあるものの、方法を工夫してやってみると、紛失した本は過去3年間に2冊だけだったとのことです。
アトウェルの教室では、学年の終わりにお気に入りの書名を尋ねると、その90%程度が、アトウェルや他の生徒のブックトークで紹介されたものというぐらい、ブックトークが機能しています(『イン・ザ・ミドル』143ページ)。この教室のように、教室の図書コーナーに、幅広いジャンルで相当数の本があり、それが貸出できる状態であれば、それぞれ手元に読みたい本を持たせて、長期休暇に送り出すことができそうです。
しかし、上記のことが難しい教室もあると思いますし、卒業していく子どもたちには、上の方法は現実的ではなさそうです。
それで思い出したのが、『作家の時間』(新評論)の中にあるライティング・ワークショップのミニ・レッスンです。先生が子どもたちに、次のように投げかけます。「図書室の本のなかから、今日は自分が読みたいと思う題名を五つ選んで、作家ノートの最初のページに書き出してみよう。それでは題名探しに出かけて下さい」
これは、子どもたちが題名を決めるのに悩んでいたり、自信がなさそうにしているのを見た先生が、「図書室にはプロの作家が書いた本が溢れているので、子どもたちが題名を考える参考になるはずだ」と思って、図書室でミニ・レッスンをした時の様子です(『作家の時間』155〜156ページ)。
ライティング・ワークショップで、「題名は大切です」と言うことは簡単です。でも、実際にいい題がつけられるようになるためには、例えば、このミニ・レッスンのような「練習/体験」があることで、より効果も出てきそうです。
→ そう思うと、「選書」についても同じだろうと思います。もし、多量のお薦めリストがあれば、それを使う「練習/体験」のためのミニ・レッスンをして、それを使う練習が時には必要かもしれません。もちろん、この選書リストには、教室の図書コーナー以外の本(地元の図書館やオンラインで読めるものなど)を加えることもできます。そして、長期休暇の前は、お薦めリストと遊ぶ、というか、お薦めリストとの付き合い方・使い方を学ぶミニ・レッスンもありかも、と思います。そして、それぞれの教室や年代で、利用可能なリストのより良い使い方を一緒に考えてクラスの「上手な使い方」リストを作ったり、そこで選んだ本をメモしておき、どの程度うまく選べたのか、後で振り返ったり等々です。そんな一連のミニ・レッスンを考えてみたくなりました。
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★ 英語のサイトとしては、複数の絵本の読み聞かせ動画サイト、TED、日本語の補助輪のついている新聞記事やエッセイのサイト、アメリカVOAやイギリスBBCの英語学習者向けサイト、Lit2Goのような多量の読み物があるサイト、図書館のeBook等々です。図書館が紹介や運営していたり、会員登録せずに無料でアクセスできるものを原則とし探していますが、英語の場合は大量にあります。私の学生時代とは隔世の感がありますし、その分「選ぶ」ことの重要性も増しているように感じます。
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