2021年12月23日木曜日

『質問・発問をハックするー眠っている生徒の思考を掘り起こす』の紹介

 


 長年、高校で国語を教えた後、現在は大学で教員養成に関わっている佐藤広子先生(本の協力者の一人)が、紹介文を書いてくれました。

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この本は冒頭からいきなり、教師自身が自分の授業を振り返らざるを得ない問いかけで始まります。

授業において、あなたは生徒に対してどのような意図をもって質問をしていますか? 使う言葉に気をつけていますか? 質問するタイミングは? 質問の順番は? どのような種類の質問をしていますか? 生徒はあなたからの質問に対して、どの程度集中して取り組んでいますか? 生徒自身が、しっかりと質問について考えていますか?」

 このような質問リストが全編にちりばめられており、読むと同時に自分の授業について見直し、考え続けることができます。毎回の授業で「どのような質問を、いつ、なぜ、どのように」行うのか、改めて考えたいという先生にお薦めの一冊です。

 著者は自身も教師として、何百人もの教師と「授業研鑽チーム」のセッションを行っています。セッションは次のように進められます。

簡潔な事前説明――ホスト役の教師が授業内容を説明し、授業の進め方に関する質問に答える。②観察――ホスト役が授業をするとき、授業研鑽チームのメンバーに授業に関するさまざまなデータを収集するように依頼する。③振り返り――授業後に、授業研鑽チーム全員が授業を振り返り、ホスト役へのフィードバックを準備する。ホスト役は、まず何がうまくいって、何を変更すべきか説明したあとに具体的なフィードバックを求める。

この本は、著者が参加した300以上のセッションの記録を分析し、質問・発問の普遍的な要素を11のハック(改善点)にまとめたものです。11のハック毎に問題提起、解決のためにすぐにできること、解決までのステップ、留意点、課題の乗り越え方、実際にハックが行われている事例の順で提示されています。生徒主体の授業を作るために大切なのは生徒たち自身に考えさせることであり、教師は生徒の思考のプロセスに寄り添い、思考を活性化するための質問を適時投げかける必要があります。この本は、どのタイミングでどういう種類の質問をすればいいのか、授業者が読んで応用できるよう、わかりやすく示すための工夫が施されています。

例えば、ハック1「質問に対して全員の手が挙がると想定する――すべての生徒が学習に参加することを期待しよう」は、数名の生徒を指名して答えさせ、教師が補足説明をして終わるような授業を再考するきっかけになります。生徒主体の授業にするためには、今目の前にいる生徒は皆考える力を持っている、授業は教師の意図した答えを探る時間ではなく、生徒全員が自ら考える時間であるという認識がまず必要です。生徒全員の可能性を信じる教師の姿勢は、生徒を勇気づけます。認識を新たにした教師は、全員の可能性を引き出すにはどういう方法でどう質問すれば良いか、ハック1から多くのヒントを得られるはずです。

次のハック2「『分かりません』とは言わせない――自立的に考えるバトンを生徒にもたせ続ける」は、さらに踏み込んで「分かりません」といって生徒が考えることから逃げるのを阻止します。そこには、授業は「正解当てっこゲーム」をする場ではなく、時にはもがき苦しみながらも思考する場であるという前提があります。生徒が「分かりません」というのは、思考プロセスのスタート地点にすぎません。「分かりません」の理由は様々です。ここではその理由に応じて、どのように思考を続けさせることができるのか、対応策が提示されています。

 

このようなハックが系統性を持ちながら全部で11提示されています。11のハックに共通して言えるのは、生徒に考えさせるには、教師がどう質問で生徒の思考を引き出せるかを考え続けることが必要だということです。考え続けている教師の下で、主体的に考え続けようとしている生徒のいる教室の実例もハックごとに紹介されています。これらの実例を通して、ハックは決して理想論ではなく、実現可能であることを読者はイメージできると思います。

 

こういうハックを重ねていくと、生徒主体の学習が活性化し、教師の存在は見えなくなっていきます。生徒の可能性を信じるところから出発して、徐々に教師が前に出なくとも生徒同士で学び合い、思考を深めていける自立した学習者の教室ができていきます。最後のハック11「学びの安全地帯をつくる――生徒が挑戦できる環境を提供する」でh、生徒が安心して学べる安全な学習空間がどうやってできるのか、具体的に書かれています。その根底には信頼があるというメッセージでハックは閉じられます。

 

この本には、授業中に生徒が示した反応を読み解き、次の授業でどういう質問をすればいいか、考える材料がふんだんに提供されています。今まで行っていた質問の質は意識しなければ変わらないものです。本書をすぐに手に取れる場所に置いて、折に触れハックの質問リストに目を通してみてはいかがでしょうか。

 

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