2021年1月29日金曜日

読むことを嫌いにする国語の授業に意味があるのか?

 先日発売された「読む文化をハックする」の副題「読むことを嫌いにする国語の授業に意味があるのか?を見てドキッとしました。読むことを嫌いにする授業それは、きっと私の授業だと思ったからです。


 私は某市の公立中学校で国語を教えている者です。現在は育休中で、時々ブログを拝見しております。

 ずいぶん前に「『読む力』はこうしてつける」(旧版)を拝読いたしました。リーディングワークショップやライティングワークショップの存在を知り、これらに取り組めば、きっと子どもたちは読むことや書くことを好きになる。そう思いながら、未だに取り組めていません。それは何故か。自分の中にいくつも解決できない問題があるからだと思い至りました。このままではずっと前に進めないし、なんとか解決の糸口がほしいと思い、突然ですがメールをいたしました。的はずれな質問もあるかもしれませんが、もし可能であれば教えていただければと思います。

1.教科書にこだわる方との戦い方(定期テストや成績など)

 教科書「を」教えるのではなく、教科書「で」教えると言われて久しいですが、それでも教科書の内容を深く読み込む授業が私の周りでは多い気がします。恥ずかしながら、私も同じようにしてしまっています。それは、定期テストには、教科書の文章が出され、そのテストの点数をもとに評定が出され、その評定が高校受験の際に大きく関わるからです。定期テストなんて大した意味はないと個人的には思いますが、子どもたちにとって目先の高校受験は大きな問題です。まずは自分の受け持ちのクラスだけでも取り組んでみたいと思っても、教科書を教え込まれたクラスとテストで点数の差が出るのではないかと思うと、実施に 踏み切れません。
 公立学校でリーディングワークショップやライティングワークショップに取り組まれている先生は、このような問題にどのように対処されているのでしょうか。教科書は使われないのでしょうか。定期テストはどうされているのでしょうか。もしご存知でしたら、教えていただければと思います。

2.目標の明確化(言語事項、ミニレッスン)

 私自身が不勉強のため、国語の授業で身につけるスキル(言語事項)の理解が曖昧だと感じています。目標が明確でないと、リーディングワークショップやライティングワークショップに取り組んでも、時間ばかり費やしてしまって、結局何を学んだか分からないということになりそうです。(それでも、読むことや書くことを嫌いにさせないだけまだましかもしれませんが。)

 まずは、私自身が国語の言語事項を整理したい、作家の技や読書家の技を身につけたいと思っているのですが、何かおすすめの本などありましたら教えていただけないでしょうか

 また、その言語事項を端的に教えるのがミニレッスンなのかなと思っているのですが、ミニレッスンの内容やミニレッスンの動画、実際の授業の様子が見られる教室などありましたら、教えていただきたいです。

 

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以上の問い合わせを、今週いただきました。

 

そして、以下は、何とか「読む時間」「書く時間」は捻出する努力はしているが、国語ではできていないという小学校の先生から、だいぶ前にもらったお悩みメールです。

 

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理想の授業を実現しようと思ったときの最大の弊害は「単元(教科書)ベース」の授業だと思うのですが、現状は、学校で導入している評価システムも融通の効かない「単元(教科書)ベース」になっています。まさに「成績のための評価」です。

 

作家ノートは続けています。授業以外の時間も書き続けている子もいます。

WWRWについては、上述のテストと「成績のための評価」という縛りが以前より強くなっているため、自分が目指す授業が完全にできているわけではありません。教科書を扱う時間が増えているのが現状です。総合や学活等の時間をやりくりして、「読む時間」「書く時間」はできるだけ確保してしていますが。

 

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来週、これらのお悩みにお答えします。

似たような課題をお持ちの方、ぜひ声を挙げてください!!

子どもたちを読み・書きを嫌いにする国語をやり続けないといけないというのは、悲劇ですから。

 

2021年1月22日金曜日

新刊『学校図書館をハックする』

 この本には、学校図書館を活性化させるための具体的なアイディアがぎっしりつまっています。生徒が図書館に来ない? 読書したがらない? 図書館の資料を活用した授業をする教師が少な過ぎる? ネット環境がしょぼい? 管理職に理解がない?

そうです、そうした現状と日々果敢に取り組んでいる学校司書や司書教諭のみなさんにこそ手に取って欲しい。

でもそれだけじゃありません。学校図書館が生徒の学びのためにできることは無限にあるということを、この本は教えてくれます。ですから、本書が想定している読者は、自分の頭でものを考えられる子どもを育てる使命を持つすべての人です。とりわけ、学校の管理職、教職員、教育委員会や教育行政に関わる方々には必読の書です。学校図書館がこれからの学校教育にとってなくてはならない装置であることを明らかにしているだけでなく、その装置を常に滑らかに駆動し続け有機的に成長させるにはどうすれば良いかを具体的に示しているからです。

 各章が扱うハックは、以下の流れで示されています。

・問題(取り組むべき課題)

・ハック(課題を解決するための方法の概要)

・あなたが明日にでもできること(手始めにやるとよいこと)

・完全実施に向けての青写真(ステップを踏んで取り組む具体的な方法)

・課題を乗り越える(取り組みに対して起こりうる抵抗に立ち向かう方法)

・実際にハックが行われている事例(1つか2つの具体的な実践例)

 

 翻訳するにあたり、日本の読者が隅々まで参考にできるよう内容をできる限り精査し、北米に特有の教育内容を省いたり、テクノロジーの情報をアップデートしたりするなどの手を加えています。とはいえ、テクノロジーは日進月歩ですので、アップデートしきれていない部分が出てしまう可能性がありますが。その点はご容赦ください。

「この本が自分の新採用の時にあったら!」と思わずにいられません。どうぞ「10のハック」をワクワクしながら楽しんでください。 (以上、「訳者まえがき」より)

 

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2021年1月15日金曜日

「自立心」を引き出す働きかけ

 『理解するってどういうこと?』の第4章の後半には、チャールズ・レイク小学校のキャスィ先生とジョディ先生の、自立心と協調性にあふれた教室が描かれています。リタという、英語を学び始めたばかりでまだうまく話せない子ども(彼女の母語はスペイン語です)とキャスィとのカンファランスに触れて、エリンさんは次のように書いています。

 リタとのカンファランスを聞くことによって、自立心を生み出すということは、子どもたちが読んだり、書いたりしているときに、新しいことに挑戦させること、そしてそのときには、その新しいことが今子どもが理解していることの少し上のレベルにあるということを十分に理解しながら促すことなのだということを私は理解しました。普通の教師なら、『おじいさんの旅』はリタにはむずかしすぎると考えるでしょう。しかし、思い出してみると、彼女がはじめから終わりまでこの本を読むのを、確かに私は見たのです。彼女には読む時間と意志がありました。これまでにその本の読み聞かせを4回も聞いていました。単語の認知と理解に必要な方法も身につけていました。私たちの多くは、彼女のような子にはもっと簡単なものを読むように言うことでしょう。でも、それはとんでもない間違いなのです。キャスィは『おじいさんの旅』を読めるというリタの能力を強く信じていました。だからこそ、リタは、自分はこの本が読めると確信させることができたのです。リタとのやりとりでキャスィが果たしていた役割は、「柔らかい金づち」のようなものでした。彼女の声は甘く、励ますような感じで、とても穏やかで、ユーモアも漂っていましたが、リタは必ず大事な課題に取り組むことができるという強い思いを持っていました。だからといって、キャスィは、単語の認知と理解に必要な方法を提供せずに、むずかしい本をリタに読ませようとしたのはありませんでした。しかし、キャスィは、英語の学習を始めたばかりのリタにはできることとできないことがあると決めてかからなかったのです。この教室が自立心と協調性との緊張関係を具体的にあらわしていたことは言うまでもありません。(『理解するってどういうこと?』132133ページ)

 ここで言われている「リタとのカンファランス」は『理解するってどういうこと?』のこの引用の直前、127ページから130ページに書かれています。「協調性」とはその教室にある「尊敬」「信頼」「自由」などです。「自立心」とは、他の人から言われなくても深く考え抜いて反応し判断するということです。リタとキャスィ先生とのカンファランスはそのなかで営まれました。では、英語がまだ覚束ないリタがどうして『おじいさんの旅』(アレン・セイ、BL出版)を「読める」と確信し、この本の内容について深く考え抜いて反応することができたのでしょうか?

 エリンさんの考察の後半に書かれているようにキャスィ先生が「リタにはできることとできないことがある」と決めてかからなかった――つまり、読めない子だと「診断」しなかったからだったからではないでしょうか。キャスィ先生は次のようにリタに話しかけていました。「何が本当に重要なのかな? どんなことについて考えたくなる? どこの出身だろうと、誰にでもあてはまることはあるかな? リタ、すぐに言わずに、頭を働かせて、じっくり考えて頭のなかの声を聞いてみて。」「リタ、本のある部分が他の部分よりも大事だということについて、みんなでどんなふうに話しあったか覚えているなな?」「えっとね。リタ、自分の知らない単語に出会ったときにあなたにできるのはどんなこと?」子どもを信頼しながら、自分の頭のなかでじっくり考えたり、思い出したりするように働きかけて待っているのです。まるで医者が患者と対話しながら治療法を探るように。

 國松淳和さんの『医者は患者の何をみているか―プロ診断医の思考―』(ちくま新書、202010月)に書いてあることと重なります。いえ、正確に言えば國松さんの本はエリンさんの本の内容とはまったく関係ありません。徹頭徹尾、医師が「診断」で使う思考法を丁寧に解説してあります。一般的なそれというよりも、國松先生の「みる」方法をです。「診断における【十一の斬りかた】」(110ページ~ )など、プロの意思の思考法を(むずかしいですが)とても明快に示しています。

この本のなかで心に残るのは「診断は実在しない」という言葉です。もちろん治療に対する影響は大きいのですが、それが最終目的ではないという意味でもあります。形のないものをみようとする医師の営みについてわかりやすい言葉で、明快に語った本の最後に次のような言葉がありました。

 私はこの本で診断のことについて述べました。この本でいいたいのは、ある医師にかかれば必ず自分の症状が解決できる診断名を得られるはずだということではありません。(中略)診断名なんてなくたって、治療を受けて、改善していけば良いと思いませんか? 治療の方が大切ですよ。(中略)私は、診断については医師と一緒に考えたいです。患者さんとは治療について考えていきたいです。患者さんとも診断の話はしますが、治療の話をするときに少しお話しするくらいです。治療について考えることが、症状に困る患者さんへの救済になると私は思っています。(『医者は患者の何をみているか』217218ページ)

私には「患者とは治療について考えていきたい」という國松さんのスタンスが、「リタにはできることとできないことがあると決めてかからなかった」キャスィ先生のスタンスと重なって見えます。むしろ協調性に満ちた環境を作り出して「自立心」を引き出すような働きかけを工夫することで、状況を改善していくことができる、國松さんも、「キャスィ先生」も、そしてエリンさんも、そういうことが一番大事だと言っているように思います。

理解をうみだす教え方を工夫するうえで「みる」(診断する)ことは教師にとって大切です。しかし、学習者にとって大切なのは、その「みる」の成果にもとづいて教師が「する」ことです。医師で言えば「治療する」ことですが、教師にとっては,キャスィ先生がリタに向かって働きかけていたような「自立心」をいざなう問いかけです。頭のなかでじっくり考えたり、思い出したりできるような言葉かけなのです。國松さんも、患者の「自立心」を引き出す働きかけをしているのだと思います。それは学ぶためにも、自分の身体を理解するためにも、とても大切なことに思われます。

2021年1月9日土曜日

学習者に培ってほしい資質を、一連の絵本を使って教える

 私は、ライティング・ワークショップやリーディング・ワークショップを学んだおかげで、大人になってから絵本が大好きになりました。時には「お見事!」と感心したり、「えっ?」と驚かされたりしながらも、「あ、この絵本は『終わり方』を教えるのに良い」「この2冊の絵本は『同じテーマでも異なるスタンス』を教えるのにぴったり!」等、ミニ・レッスンやカンファランスのアイディアが浮かぶこともあり、そんな時は二重に得した気持ちです。他方「明日の授業では回想録というジャンルを教えたいけど、それに適した絵本は?」と目的を持って探すと、なかなか見つからなくて困るときもあります。

 学年や年齢を問わず、絵本を使うと学びやすいことはたくさんあります。比較的短時間で読めますし、絵もあるのでストーリーが把握しやすいのは大きな利点です。特に、テキストに書かれていることから「一般化できる概念」(つまり、他の本や他の場面に応用ができる概念)を取り出す、というような抽象的な思考が必要な場合、絵本を使うと、その道筋をはっきりと提示しやすいのも魅力です。(その他、ライティング・ワークショップやリーディング・ワークショップ関連の本では、絵本を使うことの利点はあちらこちらで言及されていますし、「メンター・テキスト」として使えることも大きいです「メンター・テキスト」については、かなりの回数で紹介していますので、この投稿のブログ版「RWWW便り」で検索し、ブログ版の左上に「メンターテキスト」と入力してください。過去の関連する投稿が出てきます。)

 さて、絵本でできることの中の一つに、「一連の絵本を使って、学習者に培って欲しい資質を教える」ことがあります。一つの実践例を、最近、読み直している本(Conferring: The Keystone of Reader's Workshop)★から紹介します。以下のページ数はこの本のページ数です。

 ここでは、より良い読み手になるために、「忍耐を持って、根気強く頑張り抜く」資質をどうやって培っていけば良いのだろうかと、小学校3年生を教えるアレン先生が考えるところからスタートします。アレン先生は、まず「忍耐を持って、根気強く頑張り抜くこと」を教えてくれるような引用を子どもたちに二つ紹介し、それについて、もし、反応したいこと等があれば、ノートに書いておくように促し、先生自身も自分のノートに書きとめます(アレン先生は「自分がやりたくないことは生徒にはやらせない」ことにしていますので、先生もその場でノートに書いています。 ← こういうスタンス、いいなと思います。)(52ページ)

 そして「忍耐を持って、根気強く頑張り抜く」ことについて、生徒たちがどんなことを知っているのか、どのように考えているかを把握した上で、一連の絵本を使って「忍耐を持って、根気強く頑張り抜く」ことを培うレッスンのスタートです。(52~55ページ)

 「これからの2、3週間、このトピックについて学ぶ」ことを生徒に伝えた上で、1冊目の絵本の登場です。ノンフィクションの絵本★★です。絵本とはいえ、一度の読み聞かせではちょっとカバーしきれないので、この時は複数回に分けたようです。「学習者が自分でできる部分をだんだん増やす」ことを意識しているアレン先生は、最初は先生の「考え聞かせ」からスタートです。「根気強く頑張り抜く」に関わるような箇所が出てきたら、その箇所を読んだ後に、「『時間』ということも関係あるかな? 登場人物たちが時間をたくさんかけていることが書いてある」等と、考え聞かせをします。(55ページ)

 こんな感じで生徒たちが「根気強く頑張り抜く」ことに、それぞれに関わることに気づき、自分のノートにメモできるようにサポートし、学びを続けていきます。

 読み終わった後に、それぞれがノートに書いたことを参考に、この1冊の絵本から学んだ「根気強く頑張り抜く」ことについて、クラスでリストを作ります。そのリスト例を見ると

・どんな時であろうとも信頼する

・計画がある

・辛抱強く、前向き

など、なんと「根気強く頑張り抜く」に関わることが、18項目も並んでいます。(56ページ)

 その後も、同じテーマで考えることができそうな一連の絵本を生徒たちは読みながら、最終的にはそれぞれにとってインパクトの強かった3冊を選び、題名、「根気強く頑張り抜く」とはどういうこと? 学び手としての自分に教えてくれることは? などを、それぞれに、自分のシートに記入しています。(57〜61ページ)

 また「読み手」という視点からもクラス全体で考え、「読み手」として「根気強く頑張り抜く」ことの「助けになること」と「それを妨げること」のリストもクラスで作成しています。(63ページ)

 アレン先生は、生徒たちに、先生が紹介した以外の他の本や読み物からも、「根気強く頑張り抜く」登場人物が出てきたら、このテーマを考えよう、とも励ましています。教室でのアレン先生の1冊の絵本の考え聞かせからスタートした探究が、関連するテーマの一連の絵本を教室で読む時にも、また、教室の外で読む時にも考えられるようになる、ということを意識されているように思います。(62ページ) 

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 この実践を読み直しつつ、思ったことや、今後、引き続き、さらに考えてみたいことが何点か出てきました。

▶︎ 読み手として成長するためには、「リーディング・スタミナ」と言われように、根気強く読み続けることも大切。このセクションをみていると、リーディングに限定されるスキルというよりは、学習者が多くの面において活用し、「学び手」としての成長できるような資質を学ぶことの後押しになっているのを感じます。

 アレン先生自身も「忍耐を持って、根気強く学ぶ、ということがどういうことかを考え、そこで学んだことが、読み手としてだけでなく、書き手として、算数を学ぶ人として、思考する人として、活かせるかを考えていこうね」とも言っています(54ページ)。ある意味、当たり前のことかもしれませんが、リーディングを学ぶ時に、こういう他の教科の学びにも役立つことを教えることもできるし、逆に他の科目でも、読み手の成長に貢献することを教えることができるのだなと思います。

▶︎ 絵本を使うことで、学習者に培って欲しい資質を導入するための文脈が生まれます。例えば「他者との協力や協同」を文脈なしで教えようとすると、「他の人の考えも尊重しつつ、しっかりグループで協力して勉強してください」という掛け声だけになりそうです。これでは、定着する効果はあまり期待できません。

▶︎ 絵本の使い方として、二つのベクトルというか、二つの方向がありそうに思いました。一つはアレン先生のように、教えたい資質やテーマを決めておいて、それに沿った絵本もたくさん準備し、また、教室外でもそのテーマを意識するように教える。絵本を読む時のポイントを教師側で予めガイドして、それに沿って読むということです。子どもたちも、探したいことをある程度、意識しながら読んでいると思います。今後、自分で何かテーマを決めて探究する時にも、このような読み方を学んでおくことは大きなプラスだと思います。また、先生があらかじめガイドしてくれた概念に関連することを見つけ出して、それを概念に沿った形で言語化すること自体が、「具体的な事例を一般化する」という練習になっています。自分で一般化できると、他の文脈にも応用しやすくなりそうです。そうやって考えると、ここからできるプラス面がたくさんありそうです。

 もう一つの方向は、見つけてほしいポイントなどは、予め指摘やガイドをしないで、「テキストに語らせる」という方向です。この場合は、「テキストが語っていること」を読書家・批評家として、楽しめる・気付けるように教えることをサポートしていくことになります。

 おそらくこの二つは、はっきり二つに分離しているものでもないと思います。あるテーマに関連する情報を探そうと探究的に目的を持って読んでいても、その本が語りかける他のことに目がむくこともありますから。また逆の場合もあると思います。

 ただ、教える側として、こういう二つの方向があること、時にはそのバランスを考えることも必要なのかなとも思います。この二つの方向については、この投稿を書きながら興味が湧いてきました。これからさらに考えを深めて、また投稿できればと思います。

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★Patrick A. Allen 著の Conferring: The Keystone of Reader's Workshop (Stenhouse, 2009年) という本の51-62ページが、忍耐をもって、スタミナを培うというテーマで書かれていて、上で紹介した例が詳しく書かれています。

★★『そして、奇跡は起こった!―シャクルトン隊、全員生還』(← こちらは単行本で、253ページあります)を書いたジェニファー・アームストロング (Jennifer Armstrong)の、同じテーマについて絵本です。絵本の方は、邦訳は見つけられませんでした。絵本のタイトルはSpirit of Endurance: The True Story of the Shackleton Expedition to the Antarcticです。

2021年1月1日金曜日

新刊『読む文化をハックする』

 先月の『生徒指導をハックする』に続いて、訳者の一人の中井悠加さんが本の紹介をしてくれました。

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「読むことを嫌いにしてしまうようなら、クラス全体で教科書や国語の勉強をすることに果たして意味があるのでしょうか?」

本書の著者であるジェラルド・ドーソンさんは、読者の私たちにこう問いかけます。この本の中では、そうした「国語の授業」や「教科書」について直接批判をしたりそれらの問題点を指摘したりするわけではありません。むしろその代わりに、教室を、本を読むことが大好きな生徒でいっぱいにするような、ワクワクするアイディアが紹介されています。それらのアイディアを読むことで、学校でこんなふうに本に出合っていたら、いつも本を抱えて歩くこと、ふとした時に本を開くこと、本を読んで誰かと語り合うことがもっと好きになっていただろうな、と自然と思わされたのは事実です。国語の授業はこうした本との出合いを支援する「読む文化」をどれだけつくれているだろうか、という思いが、翻訳書の副題である「読むことを嫌いにする国語の授業に意味があるのか?」に込められています。

本書で紹介されている方法は、取り組みそのものはシンプルで「明日から早速やってみよう!」と思えるものばかりです。私は、この「明日から」という、継続した取り組みになることがもっとも大切だと思っています。文化をつくることや習慣をつくることは、根気の必要な取り組みであり、アイディアのひとつひとつが「すぐ明日使える」ものだったとしても、効果がその次の日に現れるわけではありません。ドーソンさんは、そもそも「読む文化をつくる」ことにはっきりとした終着点はなく、それをめざして日々取り組む過程そのものに意味があり、それこそが目的だと述べています。

すぐ目に見える成果を得るための近道を探すのではなく、むしろカットしてしまってきたことに目を向け、その道をじっくりと進んでみた時に見えるもの、得られるものがたくさんあることを本書は改めて教えてくれます。その姿勢は、まるで1冊の本を最初から最後までじっくり味わいながら読み進める「読書家」の姿のようです。

そうだと分かっていても、やはりカリキュラムの制約の下で日々の仕事にも追われ、外から成果を求められる中で、そんな悠長にじっくり「文化づくり」に取り組むことが出来るのだろうか、と不安に思う方も多いことと思います。本書では、①読書家としてのアイデンティティーの育て方を基盤として、②読むことがカリキュラムにぴったり合うような文化づくりの進め方、③読むことが当たり前になる教室環境としての図書コーナーのつくり方、④読むコミュニティーづくりに役立つ評価方法、そして⑤本が宝物のようになる学校文化のつくり方が紹介されています。きっと著者のドーソンさんも、日本の教育現場が抱えるものと同じような悩みとたたかいながら実践に取り組み続けてきたのだろうということが、これらの「ハック」を見るだけでも読み取れます。

もちろん、「読む文化づくり」はこの本に書いてあることがすべてではありません。本書が、手に取ってくださった方々にとって、自分の視野を超えた外の世界にアクセスし、もっと色々な情報を集めて学び考えたいと思えるきっかけとなることを願います。