ライティング/リーディング・ワークショップに関わるようになってから、「詩」というジャンルに興味と魅力を感じています。以前は、詩は、私にとって、遠いところにある、なにやら崇高?そうな、未知の分野で、苦手意識もありました。アメリカでも詩を読むことや詩を教えることに苦手意識をもっている先生は多いようで、ワークショップ関係の文献を見ていると、そういう苦手意識を持っている先生への助言もよくでてきます、
他方、詩をよく読む、詩が大好きな先生が、授業で詩を上手に教えられるのか、というとそうでもないようです。「詩は、情熱を持って読んできたものの、何年もの間、詩を教えることについては、最悪の教師だった」と、優れた実践者アトウェルは 、1991年に出版された Side by Side (Heinemann)という本の中で記しています(78ページ)。
アトウェルが詩を教えることのが下手だったと読んで、驚きました。というのも、『イン・ザ・ミドル』(三省堂、2018年)の「今日の詩」のセクションを見ていると、アトウェルほど、詩が好きで、詩を上手に教える先生はいないと思えるからです。そんなアトウェルでさえ、いきなり上手に教えられたわけではありません。
さて、今から25年以上前に出版された Side by Side によると、アトウェルがライティング・ワークショップを始めた頃、詩が大好きなものの、生徒には無理だと思い込み、また、生徒は「詩を書きなさい」という課題と「こうやって書きなさい」というやり方や形が与えられない限り、詩は書かない/書けない、とも思っていたそうです(78ページ、92ページ)。
そこで、授業で扱うのは、自分が大好きな詩ではなく、アトウェルの言葉を借りると水で薄められたような、教室向けの詩を提示して、それを1行ずつ解説したり、お決まりの詩の形を教えたりしていたようです(78ページ)。詩を書かせるときにも、「五感を使う詩」とか「5W(Who-What-When-Where-Why)の詩」、その他「願いごとの詩」「色の詩」等々を行っていたようです(92ページ)。
そんなアトウェルですが、ライティング・ワークショップの成功から、リーディング・ワークショップを導入し始めるころに、上のような教え方から、ワークショップで、詩を読み聞かせ始め、詩について語り始めることに移行していきます。そこから、生徒たちも詩を読み始め、語り始め、また書き始めていきます(93~94ページ)。
アトウェルは、詩を教え始めたときには、自分の好きな詩を集めてファイルをつくり、大好きな詩を生徒たちにシェアしました。つまらないと思っている詩を1行1行解説するのではなく、自分が本当に好きな詩を読み聞かせるので、子どもたちに詩が好きになるように招きやすくなります(89ページ)。
1987年に出版され、爆発的に売れた In the Middle の初版にも、生徒たちが書いた素晴らしい詩がたくさん登場しますが、それは「書きなさいという課題から出された詩ではなく、生徒たちが詩の中に入り込むようになって、そこから生まれてきたものだ」(94ページ)ということです。
アトウェルは上記の本 Side by Side の中で、詩に苦手意識を持っている先生たちが詩を教えたいときにできることを助言をしています。そこからいくつか紹介します。
・詩を教えたいと思っている先生にまず必要なのは、詩を読むこと。まず自分のために読み、詩に恋しよう。生徒に紹介したいと思う詩にしるしをつけよう(89ページ)。
・授業で詩を読み聞かせる。読み聞かせる前にはしっかり練習する。普通の自然な声で読むが、詩の意味や詩人の感情が伝わるように読む。詩は余白(改行も含めて)をうまく使っているので、詩を読み聞かせるときには、生徒が詩自体を見れるようにする(印刷して配る、あるいはスクリーンに映しだす等)(90ページ)。
・生徒には、読み聞かせる前に、教師が何度も読んだことを伝える。どうやって読もうかと考えた問題点も伝える。一度目、二度目、三度目、四度目に読んだときに自分が気づいたことも話す。こうやって、詩の読み手が「どのように」理解していったのかというプロセスがわかるようにする。生徒にも詩について思ったこと、その理由、気づいたことなどを訊ねる(90ページ)。
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上に書かれていることは、その後、改良を加えられながら、やがて、詩の教えかたに特化したNaming the World (Heinemann)という本(邦訳なし)の出版にいたり、そして、そのエッセンスは、昨年、邦訳が出た『イン・ザ・ミドル』の「今日の詩」(112~117ページ)のセクションへと引き継がれていきます。
Side by Side から「自分が大好きなこと」と「それを教えること」のギャップをどうやって埋めたのか、と考えると、アトウェルの場合は、当初は教師だけのもので生徒には無理と思っていた詩の世界の中に、生徒を招き入れることができたからのように思います。
そこには『イン・ザ・ミドル』の鍵概念でもある「譲り渡し」(『イン・ザ・ミドル』35~38ページ参照)があるのも感じます。