2018年11月10日土曜日

大好きな絵本『てん』から再考する「勇気づけ」という、かかわりかた

 大人にもお薦めの、私の大好きな絵本の中に、『てん』★(ピーター・レイノルズ著、谷川俊太郎訳、あすなろ書房)があります。
 日本の教室でのライティング・ワークショップの実践を描いた『作家の時間』(プロジェクト・ワークショップ編、新評論)の「最初の10時間で行なったミニ・レッスン例」の5時間目のミニ・レッスンで、『てん』を、なかなか書き出せず、迷っている子への勇気づけに使っています。『てん』を読み聞かせた後で、先生が次のように言います。

 「作家の一番大切な仕事の一つは、何を書くかを決めるということです。何を書くかっていろいろ迷うよね。そんなとき、この本のワシテみたいに一歩踏み出してみれば、いろんなアイディアが生まれてくるかもしれないよ。ワシテのように勇気を出していろんな作品にチャレンジしてみてね。もし、迷ったり困ったりしたことがあったら、先生にも相談してね! では、今日も楽しんで作品を書きましょう!」(『作家の時間』34ページ)

 実は、私は「勇気づけ」というテーマで『てん』という絵本を考えたことがなかったので、初めてこの箇所の原稿を読んだときに少し驚きました。

 最近、読んだ心理学の本『人間関係が楽になるアドラーの教え』(岩井俊憲著)★★の56ページに、「相手が他者に活力を提供できる」ようになることは「勇気づけの最終的な目標」だと書かれていて、『てん』と勇気づけが、初めて自分の中でつながりました。

 つまり、『てん』で先生がワシテに行った勇気づけが、最終的に、ワシテが他の男の子に対して行った勇気づけにつながっていきます。勇気づけという「モデルを示し体験させる」ことで、その「モデルで示されたことを生徒が自分のものにしていった」とも理解できます。 
 
 そんなこともあり、勇気づけ、という概念が気になって、上記の本の「人間関係は『勇気』から始めよ」という題の、2章を読み直しました。心理学が専門ではない私の、不十分な理解ですが、興味を持ったこと・考えたことを、以下、いくつか記します。

・「勇気=困難を克服する活力であり、勇気づけとは『困難を克服する活力を与えること』」。これは「向こう見ずな豪胆さとは違う」(どちらも54ページ)。

・人間関係において、勇気づけは、①相手の自己肯定感を高められる、②相手との信頼感を高められる、③相手が他者に活力を提供できる(55~56ページ)。

⇒ 上の③から連想する、ワシテの成長プロセスについては、「WW/RW便り」を月に2度くらい書いているShinlearnさんが、2010年5月25日に、「私の好きな絵本」というタイトルで、「ギヴァーの会」というブログで詳しく書いています。
https://thegiverisreborn.blogspot.com/2010/05/blog-post_25.html)

⇒ このブログから、「教師が行っている、いい問いかけ/投げかけ」がないと書けない子どももいること、その「クリティカルな投げかけ」が先生から発せられたことによって、ワシテには点を描くという自分のビジョンができたこと、展覧会で発表するチャンスを得たあとに次の子に提供するようになったこと、というプロセスで起こっていることが、よくわかります。

・ 具体的にどうするのかの中に、「ダメ出し」の反対の「ヨイ出し」が書かれていました。これは「相手の長所に目を向けて、良い行為であると言葉に出して伝えること。ヨイ出しは見返りや服従を求めない(『人間関係を楽にするアドラーの教え』76ページ)。

⇒ 「うまく書けているところをほめて書き手を育てる」(『ライティング・ワークショップ』70~71ページ)を思い出します。

⇒ アドラー心理学では「勇気づけ」と「褒める」ことは別物で、褒めることはむしろ人間関係をダメにする(69~71ページ)となっています。「人間関係をダメにする褒めること」ではなくて、この本で言うところの「ヨイ出し」にするためにも、「ほめる」ことよりも「具体的に良い点を良いと指摘する」ことに主眼を置くように注意しようと思います。

・「ダメ出し」は最悪の手段(76ページ)。相手のダメなところを指摘することは、人から困難を克服する力を奪う「勇気くじき」になる(82ページ)とも書かれています。

⇒ 私は、日々のいろいろな場面で、どうも「できない点の指摘」のほうが得意なので、反省です。

⇒ とはいえ、ワークショップでは、できない点を学習者自身が理解し、それに向かって取り組めるようにすることも大切です。それを「勇気くじき」につながる「ダメ出し」しないためにできることは、まだ自分のなかで整理しきれていません。相手との関係性や相手への理解、と言ってしまうと簡単な気はしますが。。。もう少し考えます。
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 なお『人間関係が楽になるアドラーの教え』によると、自分を勇気づけられないひとは、自己肯定感が低いらしく、自分を勇気づける四つのルールとして、以下が説明されていました。項目のみ、記しておきます(57~61ページ)。
① 「目的志向」で生きる
② 「建設的な人」を目指す
③ 笑いを取り入れる
④  楽天主義でなく、楽観主義になる
 普段、あまり心理学の本を読むことがないのですが、勇気づけという点から教室を眺めてみると、結局は「自分を変える・成長させる」という点がセットになっている気がします。

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 余談ですが、『てん』はこの1冊で完結していますが、続編的に読める絵本が、このあと2冊続きます。『てん』の最後に出てきた男の子が、『っぽい』(なかがわちひろ訳、主婦の友社)の主人公となり、『っぽい』にでてきた女の子が、『そらのいろって』(なかがわちひろ訳、主婦の友社)がの主人公になります。どちらもお薦めです。


★★「勇気づけ」という概念に興味を持ったのは、「ライティング・ワークショップ実施中。生徒にどう働きかけるかという問いをめぐって」という題の、あすこまさんのブログの書き込みの中で、以下の文を読んだことが、きっかけです。

 
「アドラー心理学では、問題行動を起こす人のことを「勇気をくじかれている」状態と捉え、それを四つのステージ(注目、権力闘争、復讐、無気力の)に分けて考えるんだそう(詳しくは下記の本などをごらんください)」
(https://askoma.info/2018/09/16/6899)



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