「考え聞かせ」(Think Aloud)とは何か。『理解するってどういうこと?』のなかで、「読み聞かせをしながら、途中途中で自分が読みながら考えたことを紹介する」ことであるとされています。そうです。斎藤さんの本では、常に、その優れた自分の本の捉え方や反応の仕方の考え聞かせ(本だから「書き聞かせ」、い、いや、「考え読ませ」といった方が正確なのかもしれません)が行われるのです。
その「考え聞かせ」(「考え読ませ」?)の達人が、なんと文庫本の「解説」を取り上げたのですから...、面白くてたまらない・・・のではないかと思って手に取った、読み始めて本当に面白かった本が、『文庫解説ワンダーランド』(岩波新書、2017年)です。夜っぴいて読みました。
たとえば、赤川次郎『三毛猫ホームズの推理』(角川文庫)の辻真先さんの「解説」について、次のように書かれています(〈 〉内は齋藤さんによる引用)。
〈お待たせしました。/記念すべき三毛猫ホームズシリーズのはじめての文庫版であります。/(略)なんの誇張もありません。探偵小説の歴史をひもといても、動物が探偵役をつとめるなんて例は、おとぎばなしの世界でもないかぎり皆無といってよろしいでしょう〉
以上が書き出し。このシリーズがいかに画期的かを記した後、辻は続ける。
〈一般のミステリー大好き人間ならまず以て、期待するのは、意外な犯人のはず〉
〈では作者はホームズ第一作のために、どのような「意外な犯人」を準備したか!/実は、ですね。/…………/…………/えへへ、期待させて申し訳ない。/解説から読みはじめる読者のために、ここで凶悪犯人をばらすのはやめておきます。〉〈その代わり、といってはなんですが、よりお目をとめていただきたいのが「意外なトリック」です〉
ここで解説はミステリーにおけるトリックのしくみを解説し、〈「ホームズ」第一作には、嬉しいことにこの密室が出てまいります〉と続ける。
〈えい、内緒でトリックをばらしちまいましょう。/実は、ですね。/…………/…………/えへへ。ぼくがばらすわけないじゃありませんか。(略)/むしろご注目いただきたいのが、「意外な伏線」であります〉。そしてまた同じオチ。
〈さてその伏線とは/………/すみません。お察しのとおり、内緒、内緒〉
この解説のどこが優れているかといえば、ホームズシリーズの新しさと正当性を紹介しながら、同時に「ミステリーの楽しみ方」を初心者のために噛み砕いて解説しているということだ。(200~201ページ)
これは、辻さんの「解説」の優れた点を取り上げた部分ですが、斎藤さんはこのような感じで、文庫解説を読み解いていくのです。1ページほどの分量で、辻さんの文庫解説の勘所を「考え読ませ」しているのです。斎藤さんの選んだ引用を読み、またそれについての斎藤さんの思考をのぞき見ることができるのです。そしてこれは、本についての紹介の仕方についての「考え読ませ」でもあります。
当然、解説にはいいものもわかりにくいものもありますから、次のようなことも書かれています。
日本の現代文学の解説には、しばし次のような特徴が見られる。
①作品を離れて解説者が自分の体験や思索したことを滔々と語る。
②表現、描写、単語などの細部にこだわる。
③作品が生まれた社会的な背景にふれない。
同人誌的の合評ならいざしらず、解説としては落第だろう。このようにして作品は歴史や社会と切り離され、「ねえねえ、どうなってんの!?」な作品のリストが増える。
悪習を絶つ方法は簡単である。第一に、五年後、一〇年後の読者を想定して書くこと.第二に、中学校二年生くらいの読者を対象に書くことだ。(145~146ページ)
こうなると、解説だけにとどまらない問題ですね。友だちに本を薦めることが皆さんもあると思いますが、どうでしょうか? ①から③のようなことはないですか? 少なくとも五年、一〇年後の未来の読者を想定してみると、広がりが出てきます。「中学校二年生くらい」の聞き手(読み手)によくわかる言葉で書こうとすれば、自分でもよくわかっていない部分を再読・三読しなくてはなりません。そうするなかで、読者の内面も磨かれていくのです。どうですか? 早速今日の読書ノートで斎藤さんの言うことを確かめてみては?
以上が書き出し。このシリーズがいかに画期的かを記した後、辻は続ける。
〈一般のミステリー大好き人間ならまず以て、期待するのは、意外な犯人のはず〉
〈では作者はホームズ第一作のために、どのような「意外な犯人」を準備したか!/実は、ですね。/…………/…………/えへへ、期待させて申し訳ない。/解説から読みはじめる読者のために、ここで凶悪犯人をばらすのはやめておきます。〉〈その代わり、といってはなんですが、よりお目をとめていただきたいのが「意外なトリック」です〉
ここで解説はミステリーにおけるトリックのしくみを解説し、〈「ホームズ」第一作には、嬉しいことにこの密室が出てまいります〉と続ける。
〈えい、内緒でトリックをばらしちまいましょう。/実は、ですね。/…………/…………/えへへ。ぼくがばらすわけないじゃありませんか。(略)/むしろご注目いただきたいのが、「意外な伏線」であります〉。そしてまた同じオチ。
〈さてその伏線とは/………/すみません。お察しのとおり、内緒、内緒〉
この解説のどこが優れているかといえば、ホームズシリーズの新しさと正当性を紹介しながら、同時に「ミステリーの楽しみ方」を初心者のために噛み砕いて解説しているということだ。(200~201ページ)
これは、辻さんの「解説」の優れた点を取り上げた部分ですが、斎藤さんはこのような感じで、文庫解説を読み解いていくのです。1ページほどの分量で、辻さんの文庫解説の勘所を「考え読ませ」しているのです。斎藤さんの選んだ引用を読み、またそれについての斎藤さんの思考をのぞき見ることができるのです。そしてこれは、本についての紹介の仕方についての「考え読ませ」でもあります。
当然、解説にはいいものもわかりにくいものもありますから、次のようなことも書かれています。
日本の現代文学の解説には、しばし次のような特徴が見られる。
①作品を離れて解説者が自分の体験や思索したことを滔々と語る。
②表現、描写、単語などの細部にこだわる。
③作品が生まれた社会的な背景にふれない。
同人誌的の合評ならいざしらず、解説としては落第だろう。このようにして作品は歴史や社会と切り離され、「ねえねえ、どうなってんの!?」な作品のリストが増える。
悪習を絶つ方法は簡単である。第一に、五年後、一〇年後の読者を想定して書くこと.第二に、中学校二年生くらいの読者を対象に書くことだ。(145~146ページ)
こうなると、解説だけにとどまらない問題ですね。友だちに本を薦めることが皆さんもあると思いますが、どうでしょうか? ①から③のようなことはないですか? 少なくとも五年、一〇年後の未来の読者を想定してみると、広がりが出てきます。「中学校二年生くらい」の聞き手(読み手)によくわかる言葉で書こうとすれば、自分でもよくわかっていない部分を再読・三読しなくてはなりません。そうするなかで、読者の内面も磨かれていくのです。どうですか? 早速今日の読書ノートで斎藤さんの言うことを確かめてみては?
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