A「国語は好きだったけど、読書は嫌いだった。」
B「国語は嫌いだったけど、読書は好きだった。」
C「国語も好きだったし、読書も好きだった。」
D「国語も嫌いだったし、読書も嫌いだった。」
この四つの選択肢のうちのどれかを選べと言われたら、どうしますか? 答え方は人それぞれだと思います。「A」だと言う人はおそらく国語のテストを解くことが得意だったのではないしょうか? 当然、点数はとてもよかったと思いますが、図書室に行って自分の好きな本を選びなさいと言われても戸惑っていたかもしれません。「C」を選んだ人はテストもうまく解けて、それとは別に本も大好きだったという人だろうと思います。国語の先生になっている人も少なくないでしょう。でも今は忙しくてなかなか読めないのが悩みだとおっしゃるかも。「D」だと言う人が本とは無縁の生活を送っておられるかというと、案外そうではなくて、その後自分にぴったり合った本といくつも出会えたことで、今は読書家になっておられるかもしれません。そして、現在本を読むのが大好きという人で「B」を選ぶ人が多いのではないでしょうか? 国語の授業もテストも嫌いだった。けれども自分で選んだ本を読むのは好きだった。その結果、大変な読書家になっている人も少なくないでしょう。
好き/嫌いですべてを語ることはできないと思いますが、自分がこの四つのどれに当たるのか考えてみて、その理由を探ってみると、読者になるために何が必要なのかを考えるきっかけが得られるかもしれません。おそらく読書が「好き」になったということは、その必要な何かに出会えたからだと思います。
ジェニファー・セラヴァロが『テクストと読者を理解する』★という本を書く動機になったのは小学校4年生のヴァネッサとの出会いでした。ヴァネッサは「ランニングレコード」★★にはきちんと答えることができたのに、4年生レベルの国語の州試験には2年続けて合格できませんでした。「ランニングレコード」で使われるのは4年生向きの図書からの抜粋です。その抜粋の設問にきちんと答えることができても、ヴァネッサは州試験に合格することはできなかったのです。
セラヴァロは自ら考案した「一冊まるごとを使う評価(whole book assessment)」★★★では2年生相応のレベルの本のなかにヴァネッサが一人読みするのにぴったりした本があることを突き止めます。ここからが肝心なことですが、セラヴァロはそのレベルの本を何冊か選んでヴァネッサとともに読み、それから少しずつレベルを上げて、それらの本のプロット・設定・登場人物・語彙・テーマについて彼女がどのように理解したのかということをチェックしていきます。そうすると、ヴァネッサは次第に読んだ本の内容を説明したり、要約したりすることに困難を覚えなくなり、だんだんと難しくなっている本を読むにつれて、自分のニーズに合った新たな目標に挑戦することができるようになります。1年間そういうことを行った結果、4年生の州試験に合格するのです。その時のヴァネッサの言葉。「ジェン先生」とはセラヴァロのファーストネームを受けています。
「ジェン先生! もういまはこの本がよくわかるわ。あなたは『頭のなかに映画をつくるんだ』とよく言ってたけど、それはつまり本に書かれたことが頭のなかで実際に映画みたいに見えるってことよね。いま私はそれを見てるのよ!」
もちろん試験の合格は喜ばしいことです。が、それ以上にヴァネッサが、本を読むことに夢中になり、学校の読書の時間以外にも読む本を選ぶようになった、つまり「読者」になったことを、この言葉は伝えています。
このことからセラヴァロが得た知見が『テクストと読者を理解する』には次のように書かれています。
・理解は固定されておらず、多くの要因によって変化する。
・生徒が読める本や文章のレベルは、多くの変数によって定まる。
・テクスト(本や文章)のレベル分けに完全なものはない。
・本と読者のマッチングは思いのほか簡単ではない。
・一つの評価ですべてがわかるわけではない。
・読者として発達させるためには、responsive instruction(生徒にぴったり合った本を選び、読むことに夢中になる時間を保障する指導)が大切だ。
今この文章を読んでくださっている皆さんは、自分に「ぴったり合った本」を見つけることができればいいけれども、それはちょっと難しいことだ、と思っておられるかもしれません。セラヴァロが言うように「本と読者のマッチング」は簡単なことではないからです。試行錯誤していくほかないものかもしれませんし、大人でも誰かに薦められてそういう本に出会うことも少なくありません。4年生のヴァネッサの場合は、二学年下の2年生相応の本なら一人で夢中になって読むことができるということの発見が「マッチング」の出発点でした。レベルを落としたということではありません。ヴァネッサは自分が夢中になって読める本をセラヴァロのサポートで見つけることができたわけです。
読者になるために必要な何か、とは、自分にぴったり合った本を読むことに夢中になる時間です。それを見つけることができれば、わかるという喜びを味わうことができる。きっとその喜びこそが「読書が好き」の源なのです。
★Jennifer Serravallo(2018) Understanding
Texts & Readers: Responsive Comprehension Instruction With Leveled Texts, Heinemann 『自立した読者を育てる学習指導・評価法のデザイン』(溪水社、2026)の155ページから178ページで論じられています。
★★本のなかから200語ほどの部分を抜粋した文章を使って、音読の正確さ・流ちょうさ・表面的な質問に対する理解、を測る評価法。
★★★(1)読む本を選ぶ、(2)質問をつくる、(3)本や文章に質問や手引きを書き込む(別の紙に書いて挟み込む)、という順序で進めて、カンファランスしながら生徒の理解を捉えていく評価法。セラヴァロはそれをどのように行ったのか。11月一週目の話題にします。